激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
117 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#116 魔女捕獲指令③

しおりを挟む
 路駐した大型のワゴン車に、担架にロープでくくりつけられた零が運びこまれていく。
 救急車に偽装した、白いボックスタイプの車である。
 指紋は拭いた。
 もう俺の痕跡は残っていないはずだ。
 爪をひっこめ、指先の開いた革手袋をはめた。
 ふたりの犠牲者の死骸は、残していくしかなかった。
 損壊がひどすぎて、ほとんど回収不能なのだ。
 どの道、優性種関連の事件は表沙汰になることはない。
 一般大衆の眼から優生種の存在を隠匿するために、警察上層部が事件をもみ消してしまうからである。
 優生種事案は、マスコミすらも報道できない、いわば国家機密にあたるからだ。
「どこに運ぶ?」
 井沢の後に続いてワゴン車に乗り込むと、担架からなるべく離れた位置に陣取って、百足丸はたずねた。
 車内には井沢と百足丸のほか、救急隊員に扮装した係員がふたりと運転手しかいない。
 たった5人では、この女が目を覚ましたが最後、あっという間に瞬殺されてしまうに違いない。
「工房の裏の民間医院だ。先月、ばあさんが買い取った。工房の地下からそのまま行き来できるから、何かと便利がいいんでね」
 井沢は女の傍らに膝をつき、なにやら熱心に調べている。
「若干だが、左右で腕の長さが違う。片方は、引きちぎられた後、新しく生えてきたもののようだ」
「げ。そんなこともできるのか、こいつ、トカゲかよ」
「杏里と同じさ。純粋の雌優生種というのは、そういうものなんだ」
「委員会本部を抜け出す時、やられたのか?」
「たぶんな。委員会内部のスパイから、パトスとの大規模な戦闘があったと聞いている。おそらく相手は、杏里のガードをしていた榊由羅。あれ以来、姿が見えないからな」
「病院に運んで、どうする気だ? こいつが俺たちの言うことを聞くとは、とても思えないが」
「まず、身体から毒を抜いてやらないとな。見たところ、零は神経毒を注射されているようだ。作用はかなり緩和されているが、まだ完全には解毒に至っていない。わずか3人で捕らえることができたのは、たぶんそのせいだ」
「じゃあ、その毒の作用とやらがなかったら…」
 百足丸は恐ろしげに身を震わせた。
「ああ、今頃おまえも死んでいる」
 その百足丸を無表情に見つめ、にべもない口調で井沢が言った。


 古代ローマの大浴場を模した空間である。
 湯気の中に、大勢の老人たちがひしめいている。
 金のライオンの蛇口の代わりに、浴槽を見下ろす壁にはりつけにされているのは、全裸の少女である。
 ほのかにふくらんだ乳房。
 未成熟な腰。
 細い手足。
 そのつるりとした下腹部には赤い亀裂が開き、そこから断続的に透明な液体を吹き上げている。
 乳首に装着された電極から流れる微細な電流。
 それが少女の性感帯を絶え間なく刺激しているのだ。
 少女の真下にはひとりの老婆が座り、頭からその淫汁を浴びている。
 しなびた乳房を段々腹の上に垂らした、3頭身の魁偉な容貌の老婆である。
「零を捕まえたとな?」
 前を隠しもせず、大股に近づくと、半眼になって老婆が訊いてきた。
「さすがお耳が早い」
 サングラスの陰で、にやりとする井沢。
「何に使う気じゃ? 零は兵器にはならぬだろう? あまりにも気まぐれで危険すぎる」
「種を救うためです」
 真布の隣にしゃがみこんで、井沢は答えた。
 少女の愛液を浴びながら、のんびりと湯につかる。
 真布と知り合って初めて知った、奇妙な風習だった。
「杏里のエキスだけでは、現存の仲間を癒すことにしかなりません。我々は個体を増やす必要があるのでね」
「なるほど、零に子を産ませようと、そういうわけか」
「ええ。”女王”には、この際、我らの地母神として、子宮に徹してもらおうかと」
「そんなことができるのか」
「ええ。たぶん」
 井沢は薄く笑った。
「私のこの眼と、百足丸の爪さえあれば」





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...