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第9部 倒錯のイグニス

#106 淫乱美少女動画⑦

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 杏里は薄目を開けて、入り口側の璃子を見た。
 黒いマスクにジャージのズボン姿の璃子は、薄い胸の下で腕を組み、さも見下したかのように大人たちを眺めている。
 ふと、校長の大山よりも、あの璃子のほうが立場が上なのではないか、という気がした。
 何の立場かまではわからない。
 でも、璃子は以前小百合の行動をチェックしていたように、大山や前原の行動をも監視しているように見える。
 教育委員会よりも上の組織。
 たとえば原種薔薇保存委員会。
 ただの不良がかった女子生徒ではなく、もしかしたら璃子はその一員なのかもしれない。
「お、おお、そうだったな」
 璃子の叱責に、最初に我に返ったのは、大山だった。
 以前、杏里にセクハラまがいの行為を強要してきた大山は、ある程度杏里の挑発に慣れているからかもしれなかった。
「どうだ? いい画像は撮れたかね?」
 大山の問いかけに、ズボンのファスナーを必死で上げながら、カメラマンが大げさにうなずいた。
「すごいですよ、これは。ヤバすぎるほどすごい。そこらのエロ動画なんて目じゃないですよ」
 その横で、演出家が手に付着した精液をハンカチで拭っている。
「さっそく帰って編集してみますけど、くれぐれも校外に画像を出さないようにお願いします。もちろんぼかしは入れますが、そんなもの、かすんでしまうほど、この子はエロすぎる」
 その言葉にわが意を得たりとばかりに、大山が教育委員会の幹部たちを振り返った。
「どうですかな? 皆さん。笹原君の魅力、おわかりいただけましたかな? 学園祭当日は、あらゆる機器を総動員して、彼女の性的魅力を最大限増幅してやるつもりです。600人が一度に昇天できるよう、念には念を入れて、しっかりと」
「いけるかもしれんな」
 最長齢とおぼしき白髪の老人が、重々しくうなずいた。
「わしはもう70になるが…この歳で、ここまで興奮させられるとは、思ってもみなかったよ」

 大山の許しを得て、リングを装着したまま、学校を出た。
 色々手を尽くしてみたが、どうしても外せなかったからである。
 あの動画が解禁になれば、学校中が大騒ぎになることはまず間違いない。
 が、とりあえず、ひとつ肩の荷が下りた気分だった。
 あとは、数日後に控えるレスリング部の紅白戦。
 そして、問題の学園祭。
 すべてうっちゃって、いずなとヤチカを探しに行きたいのは山々だった。
 その気持ちを抑えきれず、杏里は学校帰りに冬美の家に寄ることにした。
 バスの中はそこそこの混みようで、痴漢行為の的にされるのは避けようがなかった。
 が、動画撮影で火がついた杏里の性欲は、リングの効果も相まって、無防備な一般人たちを一瞬にして昇天させてしまった。
 全身を愛撫され、悶える杏里を目の当たりにしただけで、大半の痴漢がその場で果ててしまったからである。

 重人が世話になっている冬美の家は、田園地帯の真ん中にある昔ながらの農家である。
 今はそこに、マンションを外来種に襲撃されたルナも、一時的に身を寄せているはずだ。
 懐かしい前庭に立つと、いつかここで訓練中の由羅と話したことを思い出した。
 庭の隅には、由羅が使っていた離れもまだ残っている。
 あそこで杏里は、触手を使用することで、初めて性的な面で由羅の優位に立つことができたのだ。
 そんな切なくエロチックな回想に気を取られていると、開け放した縁側の向こうで、輝くような金色が動くのが見えた。
 姿を現したのは、私服姿のルナである。
 きょうは比較的暖かいせいか、Tシャツにショートパンツといったきわめてラフな格好をしている。
 背が高く、手足の長いルナは、ずっと年上の高校生のようだ。
 とても同じ中学2年生とは思えない。
「あ、杏里」
 生垣の間に佇む杏里に気づくと、まぶしそうに目を細めて、ルナが言った。
「そろそろ来る頃だと思ったよ」



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