激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#101 淫乱美少女動画②

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 璃子のあとに続いて、教室に着いた。
 中から聞こえてきた下卑た高笑いに、杏里はぎょっとして歩みを止めた。
「連れてきたよ」
 璃子が無造作に引き戸を引くと、むっとする臭気が廊下にあふれ出してきた。
 衣服にしみついた煙草と汗の匂い。
 整髪料の匂いに加齢臭も混ざっているようだ。
 最初に姿を現したのは、卑屈を絵に描いたような、バーコード頭の前原教頭である。
「おお、笹原君、よく来てくれた。みなさん、お待ちかねだよ」
 揉み手をせんばかりの勢いで、杏里の両手を握ってくる。
「あ、あの…」
 前原に肩を抱き抱えられるようにして中に足を一歩踏み入れると、椅子に座った男たちが一斉に杏里を見た。
 中央でふんぞり返っているのは、校長の大山である。
 その両側に2人ずつ、見たことのない男たちが座っている。
「久しぶりだな、笹原君。これはまた、いつもに増して元気そうで何よりだ。きょうは、動画撮影の首尾を見届けるために、県や市の教育委員会からも広報担当の方々がおいでくださっている。観客が多いほうが、君も張りが出るのではないかと思って、私がお呼びしたんだよ」
 特に紹介はなかったが、教育委員会の面々というのは、4人とも白髪混じりの初老の男だった。
 おそらく高い地位についている人たちなのだろう。
 だからきっと、私がタナトスであることも、知っているに違いない。
 全身を舐めまわしてくるようなその視線に怯えながら、杏里はふとそんなことを思った。
 大山の台詞に、それ見たことか、と言わんばかりの表情で璃子が杏里を見る。
 監視役のつもりなのか、璃子は入口脇に立ったまま、椅子に座ろうとはしない。
 撮影場所は、どうやら黒板の前のようだ。
 教壇を囲むようにして、反射板係やビデオカメラ係が、最後の調整におおわらわだった。
「では、準備が整うまでの間、私からもう一度、今回の秘密プロジェクトについて、説明させていただきます」
 前原に代わって杏里の肩を抱くと、校長の大山が、無駄によく通るバリトンを張り上げた。
「みなさんもご存知のように、前任者の丸尾美里教諭の不適切な指導のせいで、わが曙中学の生徒たちは、現在、ひどく深刻な状況に陥ってしまっています。ここ数日こそ、性的行為禁止令のおかげで一応は鎮静化しているものの、それもいつまでもつか、非常に危うい状態です。美里教諭の手で強引に性欲を開花された生徒たちは、ある意味、盛りのついた獣と変わりありません。放っておくと、その他者破壊衝動が高じて、集団レイプ、暴力、殺人など、ありとあらゆる犯罪に走りかねない精神状態なのです。そこで私は、”原種薔薇保存委員会”に依頼して、この新たなタナトス、笹原杏里君に来てもらったわけですが、さすがの彼女も、600人にも及ぶ潜在的性犯罪者の群れを前にして、手をつかねているというのが、今の状況なのです。笹原君は、これまでもいくつかの学校を浄化してきた、いわばタナトスの中のサラブレッドです。その彼女でさえしり込みするこの状況を打破するには、いったいどうしたらいいのか…。この教頭の前原とともに、幾日も頭を悩ませてきた私が最後にたどりついたのが、学園祭を使っての一大イベントでした。すなわち、名づけて”笹原杏里凌辱ゲーム”。『凌辱』とは穏やかでない、教育的でないと思われる方もいらっしゃるでしょうが、なあに、心配はいりません。この笹原君は、厳密に言えば、人間ではない。人権を持たない、タナトスなのです。タナトスは、人間の欲望の捌け口になることが仕事なのですから、無知蒙昧な世間に知られさえしなければ、このイベント、法律上は、何の問題もないのです」
「その、凌辱ゲームとやら、具体的には、どんな内容なんだね?」
 反対の声は上がらなかった。
 それどころか、そんな熱心な質問すら、飛ぶ始末だった。
「簡単にいうと、こういうことです。この学校全体をステージにして、笹原君を解き放つ。それを全校生徒が追いかける。笹原君は、会場に仕掛けられたさまざまなアイテムやアトラクションを駆使して、生徒たちのストレスを浄化していく。笹原君には、あらかじめ、ある装身具を体の一部につけてもらいます。それを取った生徒には褒賞が与えられる。そういう触れ込みで行こうと思います。きょうのPR動画は、彼女の魅力を改めて生徒たちに知らしめ、彼らのモチベ-ションを上げるためのもの。もちろん、動画は校内のタブレット端末でしか見られないように制限をかけ、一般の動画サイトなどには流出しないように細心の注意を払います」
「つまり、君は、その、1日で600人を一気に浄化しようと、そう考えているわけだね? だが、たったひとりのタナトスにそれが可能だろうか? 私には、どうもそのあたりがしっくりこないんだがね…」
 眉毛まで白い、最高齢らしき老人が、半信半疑の面持ちで口を挟んだ。
 が、大山はひるまない。
 それどころか、杏里の両肩をつかんで男たちの前に立たせると、自信に満ちた口調で言い放った。
「それは、みなさんがこの娘を知らないからですよ。まあ、楽しみにしていてください。今からのこの撮影で、この子がどんなに卑猥な姿態を見せてくれるかを」

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