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第9部 倒錯のイグニス

#90 漆黒の毒爪②

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 百足丸亮介。
 おかしな名前だ、と思う。
 それが本名なのか、偽名なのかは、井沢にもわからない。
 ”採用”の際、特に調べることもしなかった。
 しょせん、優越種に人間社会の戸籍など意味をなさないからだ。
 正直、この男の能力からして、これ以上ぴったりの名前はないだろうというのが、井沢が抱いた感想である。
 今、その百足丸は、拘束を解かれ、床に仰向けになったヤチカの傍らにしゃがみこんでいる。
 井沢がヤチカの拘束を解いたのは、快楽中枢を活性化するチャクラを毒爪に直撃されたヤチカが、あまりにも激しく暴れ出したからだった。
 が、百足丸はそれでも攻めの手を緩めようとしない。
 人差し指の爪の1本は、横からヤチカの乳首をふたついっぺんに串刺しにし、もう1本はありえないほど勃起したクリトリスの中心部に深々と突き刺さっている。
 ヤチカは全身を汗で濡らし、はあはあ荒い息を吐き続けていた。
 時折ブリッジでもするかのように尻を高く持ち上げては、ペニスの挿入をねだって自ら激しく腰をグラインドさせる。
 ヤチカの乳首とクリトリスには、井沢が装着したリングが固くはまっている。
 磁気で神経を刺激する特別製のリングで、真布が杏里につけさせるべく、曙中学の校長、大山に送ったのと同じものだ。
 そのリングの効果と百足丸の”鍼”で、ヤチカはすでに獣以下の存在になり果てていた。
 油で揚げられる海老のように跳ね、のたうち回り、開き切った膣口から淫汁をまき散らすヤチカの痴態を、ソファに腰を埋めて見るともなく眺めながら、井沢はある種の感慨にふけっていた。
 女は、変われば変わるものだ。
 つくづくそう思う。
 最初会った時のあの知的な雰囲気は、今のヤチカにはどこにもない。
 繊細でエロチックな少女画で極めてコアなファンを持つ若い女流画家も、今ではひたすら男の性器を求める雌犬以下の存在になり下がってしまっている。
「どうする? まだ続けるか?」
 そんな感慨にふけっていると、間延びした声で百足丸が言った。
「なんならフィニッシュとして、おっさんと俺のチンポを同時にぶっこんでやるって手もあるが、どうする?」
「いや、そのへんでいいだろう。あとは放っておけ。そのほうが、本人も深く反省するはずだ」
 井沢は煙草に火をつけ、深々と煙を吸い込んだ。
 百足丸の鍼で乳首と陰核を貫かれたヤチカは、さながら電子回路が不具合を起こしたロボットだった。
 後頭部と踵を支点にして突然米つきバッタのように飛び跳ねたかと思うと、四肢で狂ったように床を叩く。
 そのヤチカから、百足丸がおもむろに爪を抜いた。
「まあな。これだけ性感帯を刺激されて、チンポの1本も入れてもらえないというのは、盛りのついた女としてはさぞかし苦しいことだろうよ」
「元のように椅子に縛りつけておくんだ。オナニーもできないように」
「そこまでするってか。おうおう、可哀相に」

 作業が終わると、のっそりと百足丸がソファに戻ってきた。
 背が高いくせにひどい猫背で、髪も伸び放題に長いため、その姿は何日経ってもホームレスの時と大差ない。
「シアターの映像は見たか」
 煙草を相手に勧めながら、井沢はたずねた。
「あの、女子中学生の、レスリングの練習風景か?」
 うまそうに煙を吸い込んで、百足丸が言う。
「やられ役の娘がいただろう。あれがおまえのターゲットだ。あの顔を忘れるな」
「忘れるわけないだろ」
 百足丸の無表情な顔に、初めて笑みらしきものが浮かんだ。
「あんなかわい子ちゃん、忘れようたって、忘れられないさ」
「だろうな」
 井沢の口角が、酷薄な笑みの形に吊り上がる。
 アイドル以上の美フェイスで、グラドルをしのぐ肉体の持ち主。
 笹原杏里こそは、種の救済のために人類がつくりだした究極の美少女なのだ。
「とにかく、あの娘のエキス、おまえの鍼で、すべて搾り取ってやれ。手加減は要らない。いいな。わかったな」
 ヤチカの代わりに狂態の限りを見せる杏里の裸身を想像し、ソファに腰をうずめたまま、井沢は激しく勃起していた。


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