激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
78 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#77 暴露

しおりを挟む
「どうして…?」
 言いかけて、杏里は口をつぐんだ。
 下手に訊き返したら、逆に墓穴を掘りかねない。
 そう思ったからだ。
 が、全部口にしなくても、璃子は顔色から杏里の疑問を読み取ったようだった。
「校長だよ。校長に頼まれてたんだ。小百合先生が行きすぎないように、よく見張っとけって。なのに、少し目を離したら、このざまだ。ったく、ふみの野郎が朝寝坊するからだぜ」
「校長先生が…?」
 そんなことがあるだろうか。
 杏里を使って学校中を一気に浄化しようと企む校長自らが、よりによって一介の生徒に過ぎない璃子に杏里の正体をばらすだなんて…。
「最初はしょうがないから言うこと聞くふりしてたけど、あんまりうるさいから脅してこっちから訊き出してやった。なんで笹原にそんなにこだわるんだってな。そしたら、おまえは教育委員会から差し向けられた、空気清浄機みたいなものだっていうじゃないか。美里のせいで汚れ切ったこの学校の空気を浄化する、特別な存在なんだってな。ただ、そのやり方が問題で、エロスの限りを尽くして過剰な人間の欲望を引き出し、それを吸収する。その過程で、相手は一時的な記憶喪失に陥るか、老衰間際のジジイみたいに腑抜けになっちまう。それがタナトスのやり口なんだって。まあ、確かにあの時もそうだったよな。あたしとふみでおまえをシメようとした時だよ。途中でふみのやつがおかしくなって、危うくあたしまで幻覚みたいなのにやられるところだった」
 璃子が言うのは、いつかのクラブハウスでの一件だろう。
 あの時杏里は”触手”の力を借りてかろうじて難を逃れることができたのだが、逆に言えば、そのせいでふたりの浄化には失敗していたのである。
 璃子とふみがいまだに杏里に絡んでくるのは、あの時決着をつけられなかったからなのだ。
「けどな、ちょっとエロいからって、いい気になるんじゃない。タナトスだか娼婦だか知らないが、あたしは小百合とは違うんだ」
 璃子は忌々しげに言うと、スカートのポケットから黒い布切れを取り出して、顔に装着した。
 それは妙に頑丈そうなマスクだった。
 鼻と口を完全に覆ったその黒いマスクのせいで、璃子の顔がふと烏天狗みたいに見え、杏里はぞっとした。
「それで…私を、どうするつもりなの…?」
 背筋が凍るような嫌な予感に襲われて、おずおずと杏里はたずねた。
 幸いなことに近くにあのふみの気配はない。
 だが、璃子が恨み言を吐き出しただけで解放してくれるとも思えなかった。
「ちょっと、お灸を据えとこうと思ってさ。小百合が元に戻るには、かなり時間と手間がかかりそうだ。だから、その間、おまえが手出しできないように、痛い目に遭わせてやる」
「手出しだなんて、そんな…」
 もとよりこの個人教授は小百合からの提案なのである。
 杏里の側には、小百合をどうにかしようという魂胆など、あるわけがない。
 それを璃子は、杏里のほうから小百合を誘惑したと誤解しているのだろうか。
「ま、すぐ終わるから、観念しな」
 言うなり、突然璃子が肘で杏里を突き飛ばした。
「う」
 衝立の支柱に背中をぶつけ、床にくず折れる杏里。
「な、何するの?」
「いいから股を開くんだ」
 璃子が上履きで杏里の足を蹴った。
 そして、ポケットから取り出したものを見て、杏里は皿のように目を見開いた。
「い、いや…。や、やめて…」
 

 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...