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第9部 倒錯のイグニス

#69 基礎訓練 応用編①

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 翌日、杏里は早めに家を出た。
 土曜日だから授業はないが、レスリング部の練習はある。
 しかも、ほかのメンバーとは別に、杏里だけ午前中から特訓を受けねばならない。
 きのうの外来種騒ぎから一転しての、日常への回帰である。
 そのギャップの大きさに、さすがの杏里も戸惑わざるを得なかった。
 かたや、人類の存亡にかかわる水面下での異種族たちとの戦い。
 ところが、その傍ら今の杏里を苛んでいるのは、中学校の部活動に対する苦悩である。
 客観的な視点からすれば、どう贔屓目に見ても、前者のほうが重要度は高いに違いない。
 だが、一介の中学生である杏里にしてみれば、比重はどちらも同じなのだ。
 外来種との戦いと同じくらい、レスリング部の練習は気が重い。
 小百合との特訓もそうだが、午後からのチーム訓練となるとなおさらだ。
 更には来週には紅白戦が控えている。
 ちなみにもうひとつ付け加えると、明日の日曜日はイベントのための動画撮影である。
 よくもまあ、こんなにプレッシャーが積み重なったものだと自分でも思う。
 そこにいずなの身を案じる気持ちが加わって、杏里の心は今やパンク寸前だった。
 学校へ行く前に”そこ”へ寄ることを思いついたのは、だからひとつには逃げ場を探してのことだったのかもしれなかった。
 時間がないので、バスを使うしかない。
 覚悟を決めて、杏里は市バスを待った。
 5分としないうちに、満員のバスが重そうに車体を揺らしてやってきた。
 駅前へ向かうバスは通勤客たちで混雑していて、杏里はたちまちのうちにもみくちゃにされた。
 ブレザーを着ているとはいえ、杏里の胸はブラウスの上からもひと目でそれとわかるほど発達している。
 なまじブラジャーが小さいため、乳房の形がすっかり浮彫りになってしまっているのだ。
 おまけにスカートは膝上40センチの短さである。
 臀部と太腿が成人女性並みであるだけに、立っていてもその裾から下着がのぞいてしまう。
 そんな杏里を乗客たちが見逃すはずがなく、立錐の余地すらない車内で人垣に囲まれ、周囲から伸びてくる無数の手、身体中に押しつけられる猛り立った硬いものによって、杏里は恥辱の限りを尽くされた。
 ブラウスをむしられ、さらけ出された乳房を千切れるほど揉みしだかれる。
 あっというまにパンテイを膝まで下げられ、陰部に複数の指を挿入された。
 それでもされるがままになってじっと我慢していると、血液の代わりに血管の中を愛液が流れるような快感に襲われ、杏里は知らぬ間に勃起した乳首と蜜穴から何度か淫汁を漏らしたようだった。
 その証拠に、バスが終点に着く頃には、杏里の足元には絶頂に達して気を失った乗客たちが山のようにうずくまってしまっていた。
 意識せずして、自動的に浄化が行われたのだ。
 乱れた服装を整え、深呼吸ひとつすると、雑魚寝するように倒れ伏した乗客たちをまたいでバスを降りた。
 今回の浄化はスムーズだった。
 小百合の特訓、外来種との戦闘を通して、自分のタナトスとしての性能が一段と磨かれた気がした。
 バスターミナルを横切り、大型ショッピングンモールの方角へ向かう。
 が、目的はそこではない。
 ショッピングモールの裏の、さびれた商店街のアーケードをくぐった。
 5分ほど歩くと、1軒だけシャッターを上げたショーウィンドウが見えてきた。
 朝っぱらから営業しているのは、けばけばしい衣装の飾られた、見るからにいかがわしい雰囲気の店である。
『ドリームハウス』
 店の名に覚えがあった。
 いつかヤチカと来たことのある、アダルトショップ。
 あれは、零に監禁された由羅を助けに行く直前のことだった。
「もっくん、いますか?」
 中に入ると、店の奥に向かって思い切って声をかけた。
 中学生にはいかにも不似合いな場所である。
 迷路のような通路の左右にを埋め尽くすのは、セクシーなランジェリーやキャバ嬢向けのミニドレスばかり。
 顧客の大半が、駅裏の風俗で働く女性たちだからである。
 朝早くから店を開けているのも、仕事帰りのホステスたちを当て込んでのことだろう。
「いらっしゃあい」
 衣装をかき分けて現れたのは、素肌の上に黒い革ジャンを着た、スキンヘッドにミラーグラスの恐ろしげな男。
 この店の主人、もっくんだ。
「あのう」
 言いかけると、
もっくんのほうが先に反応した。
「あらあん、あなた、いつかの子猫ちゃんじゃなあい?」
「は、はい」
 覚えててくれたんだ。
 杏里はほっと肩の力を抜いた。
「どうしたの? こんな朝早くから? きょうはヤチカちゃんは一緒じゃないの? ていうか、ヤチカちゃんの姿、最近見ないのよねえん。見なくなって、もう1ヶ月になるかしら。ねえ。あなた、何か知らない?」
 杏里の顔をのぞきこむと、耳障りのいいオネエ言葉で、心配そうにもっくんが言った。
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