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第9部 倒錯のイグニス
#63 魔窟①
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不思議な空間だった。
強いて似ているものを挙げるとすれば、温泉の大浴場だろうか。
が、それにしては全体的に薄暗い。
照明が、壁龕に設置された白熱電球だけだからである。
そしてもうひとつ。
観光地のホテルの大浴場と異なるのは、空気の中に漂う濃厚な生臭さだ。
生理の時の女の匂い。
それを何十倍にも凝縮したような臭気が、飽和状態に達した水蒸気の中に色濃く沈んでいる。
周囲を取り囲むのは、岩盤をそのまま残したような凹凸のある壁。
空間の中央には、瓢箪型の広い浴槽があり、そこに十人ほどの人影が浸かっている。
異様なのは、その誰もが銀髪の老女であることだ。
老女たちは全裸で湯に身を沈め、我慢強く何かを待ち受けているようだ。
その目がひたと見据える先、浴槽の奥の壁に奇妙なものが立っている。
2本の鉄の棒である。
2メートルほどの間隔で立てられたその鉄の棒の間に、ひとりの少女が拘束されている。
全裸の少女が、天上から下がったロープに両手を縛られ、床と平行に両脚を左右に伸ばした姿勢でそれぞれの足首を別々のロープに固定されたまま、鉄棒の間に宙吊りになっているのである。
少女の小ぶりな乳房の先、薔薇色に染まった硬い乳首には導線が結ばれている。
その2本以外にもう一本、股間からも導線が伸びているのは、陰核にもそれが巻きつけられているからだ。
壁の電源ボックスから伸びたその3本の導線には、ある間隔で電流が流されるらしく、一定の時間を置いて少女の裸身が硬直し、反り返るのがわかる。
そしてそのたびに開き切った股間の亀裂から透明な液体が噴出するのだが、奇妙なのはその液体の滴り落ちる先に、老婆がひとり、寝そべっていることだった。
老婆はむろん、裸である。
そのあたりは水深が浅いらしく、水面は老婆の腰あたりまでしかない。
そこに後ろ手に両手をついて、老婆はしなびた裸体を少女の真下にさらけだしている。
皺だらけの顔に恍惚とした表情を浮かべ、目を閉じて少女が噴き上げる体液を身体の前面に浴びているのだ。
湯船の中にひしめくほかの老婆たちは、まんじりともせずその様子を見つめ、己の順番が来るのを待っている。
「どうです? 面白い趣向でしょう?」
たなびく湯気の向こうに見えるその奇怪な光景を眺めながら、アロハシャツ姿のサングラスの男が言った。
空間の手前側はプールサイドのようになっていて、いくつかのデッキチェアと丸テーブルが配置されている。
男はそのひとつに腰を掛け、左手に火のついた煙草を持ち、右手に手綱を握っている。
手綱の先は、首輪につながっていて、その首輪は犬のように四つん這いになった裸の女の首にはまっている。
はりつけにされた少女とは違い、こちらは明らかに大人の女である。
が、類似点は、その両の乳房と恥丘からのぞく陰核に、やはり器具を装着されていることだった。
金属製の小さな洗濯ばさみのようなものが、女の最も敏感な3つの部位に取り付けられているのである。
「杏里でないのが惜しいのう」
同じく煙草をくゆらせながら、肌襦袢を羽織った極端に小柄な老婆が答えた。
「ですが、あれであの娘もタナトスですから、ある程度の効果は見込めるかと。ご老人連中から出資を募るデモンストレーションには、ちょうどよいのではないかと思いますよ」
「そのようじゃな。みな、妙に真剣なのが面白い。普段あれほどかしましい連中が、ひとこともしゃべらず順番を待っておる。何歳になっても、女の欲望は衰えぬものとみえる」
「はは、真布さん、それはあなた同じではありませんか」
男の口調にからかうような響きがこもった。
「まあな。だがわしは、常に最高を求めたい。だから杏里のエキスがどうしても必要なのじゃ。あそこの小便臭い娘ではなく、熟れ切った杏里のエキスがな」
「試しにいくつか罠を仕掛けてみましたが、さすが最高級のタナトスですな。なかなか簡単にはいきませんでした。ここはやはり、学園祭のイベントを待つのがよろしいかと」
「そうか。それならそれでわしはかまわぬ。どちらにせよ、待ち遠しいことじゃて」
老婆の視線が、男の傍らの女に落ちた。
女は身体を震わせながら、恥ずかしげもなく排尿している。
「それにしても、ヤチカ、おまえさん、その恰好、けっこうお似合いだのう」
女の呆けたような顔を覗き込み、変に生真面目な口調で、老婆が言った。
強いて似ているものを挙げるとすれば、温泉の大浴場だろうか。
が、それにしては全体的に薄暗い。
照明が、壁龕に設置された白熱電球だけだからである。
そしてもうひとつ。
観光地のホテルの大浴場と異なるのは、空気の中に漂う濃厚な生臭さだ。
生理の時の女の匂い。
それを何十倍にも凝縮したような臭気が、飽和状態に達した水蒸気の中に色濃く沈んでいる。
周囲を取り囲むのは、岩盤をそのまま残したような凹凸のある壁。
空間の中央には、瓢箪型の広い浴槽があり、そこに十人ほどの人影が浸かっている。
異様なのは、その誰もが銀髪の老女であることだ。
老女たちは全裸で湯に身を沈め、我慢強く何かを待ち受けているようだ。
その目がひたと見据える先、浴槽の奥の壁に奇妙なものが立っている。
2本の鉄の棒である。
2メートルほどの間隔で立てられたその鉄の棒の間に、ひとりの少女が拘束されている。
全裸の少女が、天上から下がったロープに両手を縛られ、床と平行に両脚を左右に伸ばした姿勢でそれぞれの足首を別々のロープに固定されたまま、鉄棒の間に宙吊りになっているのである。
少女の小ぶりな乳房の先、薔薇色に染まった硬い乳首には導線が結ばれている。
その2本以外にもう一本、股間からも導線が伸びているのは、陰核にもそれが巻きつけられているからだ。
壁の電源ボックスから伸びたその3本の導線には、ある間隔で電流が流されるらしく、一定の時間を置いて少女の裸身が硬直し、反り返るのがわかる。
そしてそのたびに開き切った股間の亀裂から透明な液体が噴出するのだが、奇妙なのはその液体の滴り落ちる先に、老婆がひとり、寝そべっていることだった。
老婆はむろん、裸である。
そのあたりは水深が浅いらしく、水面は老婆の腰あたりまでしかない。
そこに後ろ手に両手をついて、老婆はしなびた裸体を少女の真下にさらけだしている。
皺だらけの顔に恍惚とした表情を浮かべ、目を閉じて少女が噴き上げる体液を身体の前面に浴びているのだ。
湯船の中にひしめくほかの老婆たちは、まんじりともせずその様子を見つめ、己の順番が来るのを待っている。
「どうです? 面白い趣向でしょう?」
たなびく湯気の向こうに見えるその奇怪な光景を眺めながら、アロハシャツ姿のサングラスの男が言った。
空間の手前側はプールサイドのようになっていて、いくつかのデッキチェアと丸テーブルが配置されている。
男はそのひとつに腰を掛け、左手に火のついた煙草を持ち、右手に手綱を握っている。
手綱の先は、首輪につながっていて、その首輪は犬のように四つん這いになった裸の女の首にはまっている。
はりつけにされた少女とは違い、こちらは明らかに大人の女である。
が、類似点は、その両の乳房と恥丘からのぞく陰核に、やはり器具を装着されていることだった。
金属製の小さな洗濯ばさみのようなものが、女の最も敏感な3つの部位に取り付けられているのである。
「杏里でないのが惜しいのう」
同じく煙草をくゆらせながら、肌襦袢を羽織った極端に小柄な老婆が答えた。
「ですが、あれであの娘もタナトスですから、ある程度の効果は見込めるかと。ご老人連中から出資を募るデモンストレーションには、ちょうどよいのではないかと思いますよ」
「そのようじゃな。みな、妙に真剣なのが面白い。普段あれほどかしましい連中が、ひとこともしゃべらず順番を待っておる。何歳になっても、女の欲望は衰えぬものとみえる」
「はは、真布さん、それはあなた同じではありませんか」
男の口調にからかうような響きがこもった。
「まあな。だがわしは、常に最高を求めたい。だから杏里のエキスがどうしても必要なのじゃ。あそこの小便臭い娘ではなく、熟れ切った杏里のエキスがな」
「試しにいくつか罠を仕掛けてみましたが、さすが最高級のタナトスですな。なかなか簡単にはいきませんでした。ここはやはり、学園祭のイベントを待つのがよろしいかと」
「そうか。それならそれでわしはかまわぬ。どちらにせよ、待ち遠しいことじゃて」
老婆の視線が、男の傍らの女に落ちた。
女は身体を震わせながら、恥ずかしげもなく排尿している。
「それにしても、ヤチカ、おまえさん、その恰好、けっこうお似合いだのう」
女の呆けたような顔を覗き込み、変に生真面目な口調で、老婆が言った。
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