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第9部 倒錯のイグニス
#57 空蝉
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スマホでルナがどこかに電話すると、ほどなくして救急車がやってきた。
部屋になだれ込んできたのは、宇宙服のような防護服に身を固めた数人の男たちである。
その後から入ってきたふたつの人影を見て、杏里は彼らがただの救急隊員でないことを直感した。
間違いなく委員会の手の者たちだ。
おそらくふたつの抜け殻を委員会直属の研究所にでも運ぶつもりなのだろう。
宇宙服の後から姿を現したのは、ラフな格好の小田切と、黒いスーツをぴしりと着込んだ冬美である。
「これが、外来種?」
杏里に軽く会釈すると、ベッドの上の物体をのぞき込んで冬美が言った。
防護服の面々が、その横で2台の担架を組み立てている。
「やっぱり、生態系にかなりの狂いが生じてるわね。個体数が増えた分、変異種の割合が高すぎる」
「ここまでくると、もはや人類の亜種とはとても思えないな。これは明らかにまったく別の生物だろう」
冬美の後ろに立ち、小田切もうなずいている。
「いずなちゃんが…」
杏里は裸体をバスタオルで覆っただけの姿で、ただじっと立ちすくんでいた。
傷口はすでに塞がり、痛いところはもうどこにもない。
だが、心にぽっかり穴が開いてしまったようで、妙に現実感が薄れてしまっている。
「これがいずなだというのか?」
怪虫の抜け殻の横に打ち捨てられた人の形をした皮を見下ろして、小田切が顔をしかめた。
「いや、実を言うと、今となっては、自信がない」
横から口を挟んだのは、部屋の隅で腕組みをして様子を眺めていたルナである。
「それが本当に、いずなだったのかどうか…。学校であの外来種に襲われた時点で、何かほかのものが、いずなに入れ替わっていたのかも…」
「そんな…ありえない。私、ちゃんと彼女に応急処置を…」
でも、と思う。
あの時、いずなは血まみれだった。
あれがいずなに似た別人だとしても、果たして私は気づくことができただろうか…。
「じゃあ、いずなちゃんは生きてるってこと?」
かすかな期待を込めて、杏里は言った。
「わからない。その可能性もあるってことだ。今ふと閃いただけだ」
首を振るルナを、小田切が見た。
「君が富樫ルナか。はじめてお目にかかるな。ちょうどいい。検査が済んだら、詳しい話を聞かせてもらおうか」
「検査?」
ルナの眉間に縦皺が寄る。
「ええ。杏里ちゃんと一緒に来てもらうわ。この外来種から、未知の病原菌に感染していないとも限らないから。それに、あの死体が稲森いずなのものかどうかは、DNA鑑定ですぐにわかる。一石二鳥じゃなくって?」
小田切に代わって、クールな口調で冬美が言った。
部屋になだれ込んできたのは、宇宙服のような防護服に身を固めた数人の男たちである。
その後から入ってきたふたつの人影を見て、杏里は彼らがただの救急隊員でないことを直感した。
間違いなく委員会の手の者たちだ。
おそらくふたつの抜け殻を委員会直属の研究所にでも運ぶつもりなのだろう。
宇宙服の後から姿を現したのは、ラフな格好の小田切と、黒いスーツをぴしりと着込んだ冬美である。
「これが、外来種?」
杏里に軽く会釈すると、ベッドの上の物体をのぞき込んで冬美が言った。
防護服の面々が、その横で2台の担架を組み立てている。
「やっぱり、生態系にかなりの狂いが生じてるわね。個体数が増えた分、変異種の割合が高すぎる」
「ここまでくると、もはや人類の亜種とはとても思えないな。これは明らかにまったく別の生物だろう」
冬美の後ろに立ち、小田切もうなずいている。
「いずなちゃんが…」
杏里は裸体をバスタオルで覆っただけの姿で、ただじっと立ちすくんでいた。
傷口はすでに塞がり、痛いところはもうどこにもない。
だが、心にぽっかり穴が開いてしまったようで、妙に現実感が薄れてしまっている。
「これがいずなだというのか?」
怪虫の抜け殻の横に打ち捨てられた人の形をした皮を見下ろして、小田切が顔をしかめた。
「いや、実を言うと、今となっては、自信がない」
横から口を挟んだのは、部屋の隅で腕組みをして様子を眺めていたルナである。
「それが本当に、いずなだったのかどうか…。学校であの外来種に襲われた時点で、何かほかのものが、いずなに入れ替わっていたのかも…」
「そんな…ありえない。私、ちゃんと彼女に応急処置を…」
でも、と思う。
あの時、いずなは血まみれだった。
あれがいずなに似た別人だとしても、果たして私は気づくことができただろうか…。
「じゃあ、いずなちゃんは生きてるってこと?」
かすかな期待を込めて、杏里は言った。
「わからない。その可能性もあるってことだ。今ふと閃いただけだ」
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「君が富樫ルナか。はじめてお目にかかるな。ちょうどいい。検査が済んだら、詳しい話を聞かせてもらおうか」
「検査?」
ルナの眉間に縦皺が寄る。
「ええ。杏里ちゃんと一緒に来てもらうわ。この外来種から、未知の病原菌に感染していないとも限らないから。それに、あの死体が稲森いずなのものかどうかは、DNA鑑定ですぐにわかる。一石二鳥じゃなくって?」
小田切に代わって、クールな口調で冬美が言った。
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