上 下
55 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#54 不完全変態

しおりを挟む
「ひどい…」
 ベッドの上のいずなの姿に、杏里は身震いを禁じえなかった。
 パジャマは黄色い膿で変色し、ぐっしょりと濡れている。
 外に出ている部分は、瘡蓋とその隙間からにじみ出る粘液に覆われ、まるで樹液にまみれた松の枝のようだ。
 頭部では髪の毛がごっそりと抜け、その場で散髪したかのように枕元に散らばっている。
 杏里は無言でいずなのパジャマに手をかけると、粘りつく布をべりべりと引き剥がし始めた。
「痛い、…痛い」 
 パジャマと一緒に皮膚もはがれてくるのか、瘡蓋だらけの顔をしかめていずながうめいた。
 それでも無理やり布をはいでいくと、その下から現れたのは、見るも無残に変わり果てた肉体だった。
 いずなの肌には所かまわず一面に吹き出物ができていた。
 その藤壺のような吹き出物が、噴火口状の口からじくじくと臭い膿を吐き出しているのだ。
「待ってて。すぐになんとかするから」
 タンクトップとショートパンツを脱ぎ捨てると、杏里は全裸になった。
 身体の芯ではまだローターが作動しているので、防護液の量は十分だ。
 ベッドに上がり、いずなの身体に腕を回し、しっかりと抱き締めた。
「ううう…」
 いずなは震えるばかりで何も言わない。
 よほど苦しいのか、大きく見開いた眼の中で眼球がぐるりと裏返ると、やがて完全な白目になった。
「いずなちゃん!」
 これは何?
 どうすれば、こんなことになるの?
 さすがの杏里も、焦り始めている。
 直感でわかる。
 このままでは、危ない。
 信じがたいことだが、いずなは死にかけている…。
「しっかりして! どうしたの? どこが痛いの?」
 皮膚からにじみ出るローション状防護液を手のひらですくい、必死でいずなの肌になすりつける。
 その間にも身体を上下に動かし、乳房と大陰唇をいずなの身体にすりつけた。
 杏里がいずなのひび割れた唇を、自分の唇でふさごうとした時だった。
「ああああっ!」
 だしぬけに大声を上げ、いずなが反り返った。
 丸く開いたその口から、どぼりと血の塊が噴き出した。
「いずなちゃん!」
 弾かれたように、杏里は身を起こした。
 大変!
 救急車!
 もう、私の手には負えない!
 ルナを呼ぼうとした時である。
 突然、
 べりっ。
 布が裂けるような音がして、いずなの胸に亀裂が走った。
 どろりと赤黒い血潮があふれ出る。
「やだ、何なの? いずなちゃん、どうしたの?」
 パニックに陥る杏里。
 傷口の奥で何かが動いている。
 裂けたいずなの身体の中から、鮮血にまみれて何かが現れ出ようとしているのだ。
 やがて胸に開いた穴から目のない丸い頭部が突き出し、杏里に顔を向けて、
 ギイ。
 とひと声、歯車が軋むように、鳴いた。
「そんな…」
 そう呻いた時には、続いて飛び出してきた6本の脚に、杏里はすでにしっかりと抱え込まれてしまっていた。


 




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...