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第9部 倒錯のイグニス

#53 夢遊自慰の少女

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 ルナの家は学校の近くだから、隣町にある。
 だから杏里の家からそこへ向かうには、バスに乗るか自転車を使わなくてはならない。
 正直、ローターを装着したまま、満員のバスに乗る勇気はなかった。
 まき散らされる杏里のフェロモンで車中が大混乱に陥るだろうことは、目に見えているからである。
 仕方なく、自転車で行くことにした。
 ローターを膣に入れ、コードの先の電池ボックスを左足の太腿にレッグバンドで止める。
 パンティは穿かず、極小のショートパンツを素肌の上からじかに履く。
 タンクトップの上に薄手のパーカーを羽織り、物置の陰からママチャリを引き出した。
 サドルにまたがると同時に、太腿の電池ボックスのスイッチをONにする。
 ローターがかすかな振動を伝え始め、サドルの上で杏里は軽く眉をしかめた。
 いけない。
 久しぶりだからか、ずいぶんと気持ちがいい。
 タンクトップの下はノーブラである。
 少し躰を動かすだけで、乳頭が布にこすれて微妙に疼く。
 それに加えてローターの刺激である。
 しかも肥大気味の陰核が、サドルに強く押しつけられてしまっている。
 これでは、自転車をこいでいるうちに、下手をするとイッてしまう。
 なるべく股間に刺激を与えないよう、そろそろとペダルをこぎながら、杏里は注意を他に向けることにした。
 今になって思うと、いずなの容態が急変したというのは、おかしな話だった。
 いずなを助け出した際、杏里は一度、ルナの家で彼女の手当てをしているのだ。
 確かに応急手当のつもりだったから、由羅の時のように時間をかけたかというと、そうでもない。
 いずなはもともと杏里と同じタナトスなのだから、あとは自身の治癒力で回復するはず、とそう思ったからだ。
 それだけでは、十分ではなかったということなのだろうか?
 隣町との境の運河を渡る頃になると、杏里は身体中びっしょりと”汗”をかいてしまっていた。
 もちろん、本物の汗ではない。
 身体が興奮したり、攻撃されたりする時に分泌される、あの防護液である。
 美里からゆずり受けた媚薬成分と、損傷部位の再生を可能にする幹細胞を大量に含んだ、一種の”愛液”だ。
 だから杏里の肌は、夕陽に照らされ、艶めかしい光沢を放っている。
 信号待ちしている車のドライバーたちが、一斉に瞠目して見つめてくるのはそのせいだ。
 ノーブラの乳房を揺らし、その頂の突起をタンクトップから突き出させている美少女が、生足を限界まで露出させ、ママチャリのペダルをこぎながら横断歩道をゆっくりと渡っていく。
 その肌という肌は濡れたようにぬめりを帯び、愛くるしい顔には恍惚めいた表情が浮かんでいる。
 そんな杏里の一挙手一投足を食い入るように見つめるドライバーたち。
 信号が変わっても先頭車両は動かない。
 たちまち巻き起こるクラクションの渦。
 杏里が横断歩道を渡り終えると、ようやくのろのろと車の群れが動き始めた。
 

 閑静な住宅街に立つ、高級マンションの前。
 玄関わきのインターフォンで呼ぶと、
「今開ける。上がってきて」
 すぐさま、ルナの声が返ってきて、かちゃりという音とともに、自動ドアのロックが解けた。
 ホールに何基か並んだエレベーターのうち、1001ー1003の表示のものに乗った。
 動き出したエレベーターの壁にもたれて、懸命に息を整える。
 ローターを装着したまま、30分以上自転車をこいだため、杏里の身体はもう爆発寸前だ。
 できるなら、この場で服を脱ぎ捨て、全裸になって自慰に耽りたくてたまらない。
 我慢し切れずタンクトップの上から乳首を弄ろうとして、杏里は天井の防犯カメラに気づき、びくっとなる。
 朦朧とした意識でため息をついた時、ドアが開いて目の前に立つルナが視界に飛び込んできた。
 学校から帰ってきて、着替える余裕もなかったのか、ルナは曙中学のセーラー服を着たままだ。
「悪い。何度も」
 よろめく杏里に手を貸すと、済まなさそうにルナが言った。
 杏里の手のひらが濡れているのに気づいたらしく、わずかに眉をひそめたが、それについてのコメントはない。
「おまえの治癒効果が切れたのかもしれない。そう思って、来てもらったんだが」
「かもしれない。準備はしてきたから、案内して」
 喘ぎを噛み殺しながら、杏里はかろうじて声を絞り出した。
 自分自身、この身体の火照りをなんとかしたい。
 いずなにすべてを与えてしまいたい。
 JKのひとり暮らしにもかかわらず、相変わらず豪勢な住居だった。
 ルナが杏里を導いたのは、広い応接室の左手の部屋である。
 ここをいずなの寝室にしてる。わたしはここにいるから、中に入って見てやってくれないか」
「パーカーを脱いでルナに渡すと、杏里はタンクトップとショートパンツだけの格好になった。
 近づいて、そっとドアを開ける。
 そこは壁際にシングルベッドがひとつあるきりの、簡素な部屋だった。 
 ベッドの上でではシーツが盛り上がり、どうやらこちらに足を向けていずなが寝ているようだ。
 足音を忍ばせて歩み寄り、
「いずなちゃん、杏里だよ」
 そう囁いてイズナの横顔をのぞき込んだ杏里は、そこで棒を呑んだように立ちすくんだ。
「な、なに、これ? どうしたの?」
 一瞬にして、恍惚感が消し飛んだ。
 驚愕のあまり杏里は目をしばたたき、手を伸ばしておそるおそるシーツをめくり上げた。
「杏里…来てくれたの?」
 いずながしゃがれた声で言い、膿だらけのか細い手で、弱々しく杏里の手首をつかんできた。

 
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