上 下
52 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#51 薔薇のエキス

しおりを挟む
 薄暗い部屋である。
 照明といえば、舞台を照らすオレンジ色の光線だけ。
 交差する二条の光の中心で、全裸の女が凌辱されている。
 しなやかな体つきをした、ショートカットの若い女である。
 天井から垂れ下がったロープに両手首を縛られ、女は爪先立ちになっている。
 その女のつんと立った小ぶりな乳房を、両側からふたりの男が吸っていた。
 逆三角形の体躯をした、たくましい男たちである。
 まるで双子のようにそっくりなその男たちの股間からは、赤紫色の異様な器官がそそりたっている。
 百足のように節くれだった、棘のあるペニスだった。
 女の身体が回転すると、明らかに人間のものではないそれを、ひとりの男が女の膣に、もうひとりの男が背後からアナルに突き立てた。
 か細い悲鳴を上げ、女が全身を痙攣させる。
 前後から貫かれた女の顔に浮かぶのは苦痛ではない。
 恍惚の表情だ。
 淫蕩に開いた赤い唇。
 焦点の合わない目。
 が、その舞台上の男女の営みよりも異様なのは、むしろ”観客席”を埋め尽くす客たちのほうだ。
 白髪の老婆たちなのである。
 高価な衣服や装飾品で身を飾った老婆たちが、食い入るように舞台上の男女を見つめているのだ。
「あれが、外来種か」
 老婆のひとりがつぶやいた。
「そうだよ。まったくもって、見事な一物じゃないか」
 答えたのは、三頭身といっていいほど顔の大きな老婆である。
 この”劇場”の持ち主、沼人形工房の女主人、沼真布だ。
「よくもまあ、あんなもので突かれて、平気でいられるもんじゃのう。ふつうなら、あそこが裂けて死んでしまうだろうに」
「確かに、人間の女には荷が勝ちすぎる。じゃが、あの女のほうも外来種じゃからな。つまり、わしらは、世にも珍しい外来種同士の性交を目の当たりにしていると、まあ、そういうことさ」
「ほう、新人類同士の性交とな」
「新人類なのか、悪魔なのか、それは知らん。重要なのは、彼らに協力すれば、わしらにも素晴らしい報酬が手に入るということ」
「若返りのエキスか…。本当に、そんなものがあるのだろうな」
「あるよ。わしが身をもって体験したのだから、間違いない。笹原杏里…。あの子を捕らえてしかるべき研究機関に渡す。そうすれば、神のエキス、ネクタルは量産され、わしらは若返るとともに、永遠の命さえ、手に入れることができる…」
「で、首尾はどうなのじゃ?」
「順調だよ。むしろ、順調すぎて、恐いほどだ。杏里の通う中学校の校長には、わしから渡りをつけてある。近々学校であるイベントが開催されるのじゃが、その時が、獲物捕獲の最大のチャンスでね。ああしてヤチカを調教しておるのも、その計画の一環というわけさ」
 3人同時に絶頂に達したらしく、舞台のほうから淫らな合唱が沸き起こった。
 巨大な鷲鼻をぶるんと撫でると、真布はうっとりとした声でつぶやいた。
「セックスはいつ見ても美しい。わしも杏里のエキスで、早く現役に復帰したいものだよ。な、ばあさんよ、あんたもそう思うだろう?」





 
 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

サンコイチ

BL / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:74

悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:809pt お気に入り:3,002

アドレナリンと感覚麻酔

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:126

あばたとえくぼの異界怪奇事件帳

ミステリー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:7

運命のオメガバース ~英雄学園で出会った君と僕~

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:41

臓物少女

ホラー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:8

Vanishing Twins 

ミステリー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:11

処理中です...