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第9部 倒錯のイグニス
#33 基礎訓練②
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身体中に、ねっとりとからみついてくる視線。
鼻孔をつく、饐えたような空気。
性的行為を禁止されたせいで、教室の雰囲気は日に日に悪くなっているようだ。
クラスメートたちのいらいらとストレスは、触れれば爆ぜる風船みたいなものだった。
当然、その敵意が向けられる先は、悩ましい姿で登校した杏里である。
ボタンを半ばまではずしたブラウスからは、今にも毬のような乳房がこぼれ出しそうだ。
スカートはありえないほど短く、歩くたびに下着が見えてしまう。
クラスメートだけではなかった。
教室を移動する際も、必ずどこからか、杏里のほんのささいな仕草をも見逃すまいと、蛇のような視線が追ってくる。
それは生徒のものもあれば、教師のものもあった。
だが、視線に犯されることに慣れっこになっている杏里には、大してそれは気にならない。
気にかかってならないのは、授業後の部活動だった。
いっそのこと、さぼって帰ってしまおうか。
何度そう思ったことだろう。
が、そんな杏里の迷いは、とうの昔に周囲に見透かされていたようだ。
終業のチャイムが鳴ると同時に、退路を断たれた。
「逃げちゃだめだよ」
机の前に立ちはだかって、純が言った。
その後ろで、璃子とふみのコンビがにやにや笑っている。
「わかってる」
杏里はため息をついた。
「ちょっと、恐くなっただけ。心配しないで。約束は守るから」
純に手を引かれて校舎裏の部室に着くと、メンバーはすでに全員そろっていた。
小百合の秘蔵っ子、キャプテンの黒人少女、アニス。
両腕が長く、オラウータンに似た、元卓球部の朝倉麻衣。
雄牛を思わせる巨体の持ち主、元柔道部副主将、飯塚咲良。
しなやかな女鹿のような肢体の、元水泳部のエース、権藤美穂。
そして、小麦色の肌の健康少女が、もうひとりの1年生、元ハンドボール部、神崎トモ。
そこに、肉でできた樽みたいなふみと、メンバーの中でもひときわ背の高い純が加わると、運動能力にも筋肉にもまるで自信のない杏里は、ただひたすら気持ちが萎えるだけだった。
「じゃ、ユニフォーム配るから、さっそく着換えな」
マネージャーの璃子が言い、ひとりひとりにきちんと畳まれたユニフォームを渡し始めた。
もらった者は誰もが、周りの目など気にもしないでその場で制服を脱ぎ、ユニフォームに着換えていく。
オレンジに黒のストライプの入った、ノースリーブのトップにハーフパンツのセットである。
最後が杏里だった。
「笹原はこれだ」
意味ありげに言って璃子が差し出したのは、入部審査の時着せられたのと同じ、生地の薄いレオタードである。
ただ、今度のは色が肌色に近いベージュだった。
杏里はむっとした。
どうして、私だけ?
こんなの、裸と同じじゃない。
「おまえは、まだ研修生だからな。ほかのメンバーと同じ扱いとはいかないんだ。レギュラーになるまでは、これで我慢しな」
抗議するより早く、璃子にそう釘を刺されてしまった。
仕方なく、着換えにかかる。
レオタードはあまりにきつく、着込むためにはブラもパンティも脱がねばならなかった。
苦労して肩ひもを所定の位置にひっかけると、杏里はためらいがちに顔を上げた。
すでに着換えを終えたメンバーたちが、呆れたような表情を顔に浮かべ、こっちを見ている。
「杏里ったら、相変わらず、すごいね」
感心したように、純が言った。
「色が色だけに、なんにも着てないみたいですね」
健康少女の神崎トモは、興味津々といった顔つきだ。
「ソデスネ。デモ、杏里ラシクテ、イイト思イマス。ワタシ、えっちナ杏里ガ大好キデス」
アニスのコメントに、どっと笑いが沸き起こる。
「さ、着替えが済んだら、準備体操の後、グラウンド10周よ。先生が来るまでに、身体をほぐしておこう」
純が元気のいい声で、指示を出す。
杏里はげんなりした。
え?
いきなり、10周も?
しかも、この格好で…?
鼻孔をつく、饐えたような空気。
性的行為を禁止されたせいで、教室の雰囲気は日に日に悪くなっているようだ。
クラスメートたちのいらいらとストレスは、触れれば爆ぜる風船みたいなものだった。
当然、その敵意が向けられる先は、悩ましい姿で登校した杏里である。
ボタンを半ばまではずしたブラウスからは、今にも毬のような乳房がこぼれ出しそうだ。
スカートはありえないほど短く、歩くたびに下着が見えてしまう。
クラスメートだけではなかった。
教室を移動する際も、必ずどこからか、杏里のほんのささいな仕草をも見逃すまいと、蛇のような視線が追ってくる。
それは生徒のものもあれば、教師のものもあった。
だが、視線に犯されることに慣れっこになっている杏里には、大してそれは気にならない。
気にかかってならないのは、授業後の部活動だった。
いっそのこと、さぼって帰ってしまおうか。
何度そう思ったことだろう。
が、そんな杏里の迷いは、とうの昔に周囲に見透かされていたようだ。
終業のチャイムが鳴ると同時に、退路を断たれた。
「逃げちゃだめだよ」
机の前に立ちはだかって、純が言った。
その後ろで、璃子とふみのコンビがにやにや笑っている。
「わかってる」
杏里はため息をついた。
「ちょっと、恐くなっただけ。心配しないで。約束は守るから」
純に手を引かれて校舎裏の部室に着くと、メンバーはすでに全員そろっていた。
小百合の秘蔵っ子、キャプテンの黒人少女、アニス。
両腕が長く、オラウータンに似た、元卓球部の朝倉麻衣。
雄牛を思わせる巨体の持ち主、元柔道部副主将、飯塚咲良。
しなやかな女鹿のような肢体の、元水泳部のエース、権藤美穂。
そして、小麦色の肌の健康少女が、もうひとりの1年生、元ハンドボール部、神崎トモ。
そこに、肉でできた樽みたいなふみと、メンバーの中でもひときわ背の高い純が加わると、運動能力にも筋肉にもまるで自信のない杏里は、ただひたすら気持ちが萎えるだけだった。
「じゃ、ユニフォーム配るから、さっそく着換えな」
マネージャーの璃子が言い、ひとりひとりにきちんと畳まれたユニフォームを渡し始めた。
もらった者は誰もが、周りの目など気にもしないでその場で制服を脱ぎ、ユニフォームに着換えていく。
オレンジに黒のストライプの入った、ノースリーブのトップにハーフパンツのセットである。
最後が杏里だった。
「笹原はこれだ」
意味ありげに言って璃子が差し出したのは、入部審査の時着せられたのと同じ、生地の薄いレオタードである。
ただ、今度のは色が肌色に近いベージュだった。
杏里はむっとした。
どうして、私だけ?
こんなの、裸と同じじゃない。
「おまえは、まだ研修生だからな。ほかのメンバーと同じ扱いとはいかないんだ。レギュラーになるまでは、これで我慢しな」
抗議するより早く、璃子にそう釘を刺されてしまった。
仕方なく、着換えにかかる。
レオタードはあまりにきつく、着込むためにはブラもパンティも脱がねばならなかった。
苦労して肩ひもを所定の位置にひっかけると、杏里はためらいがちに顔を上げた。
すでに着換えを終えたメンバーたちが、呆れたような表情を顔に浮かべ、こっちを見ている。
「杏里ったら、相変わらず、すごいね」
感心したように、純が言った。
「色が色だけに、なんにも着てないみたいですね」
健康少女の神崎トモは、興味津々といった顔つきだ。
「ソデスネ。デモ、杏里ラシクテ、イイト思イマス。ワタシ、えっちナ杏里ガ大好キデス」
アニスのコメントに、どっと笑いが沸き起こる。
「さ、着替えが済んだら、準備体操の後、グラウンド10周よ。先生が来るまでに、身体をほぐしておこう」
純が元気のいい声で、指示を出す。
杏里はげんなりした。
え?
いきなり、10周も?
しかも、この格好で…?
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