激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
34 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#33 基礎訓練②

しおりを挟む
 身体中に、ねっとりとからみついてくる視線。
 鼻孔をつく、饐えたような空気。
 性的行為を禁止されたせいで、教室の雰囲気は日に日に悪くなっているようだ。
 クラスメートたちのいらいらとストレスは、触れれば爆ぜる風船みたいなものだった。
 当然、その敵意が向けられる先は、悩ましい姿で登校した杏里である。
 ボタンを半ばまではずしたブラウスからは、今にも毬のような乳房がこぼれ出しそうだ。
 スカートはありえないほど短く、歩くたびに下着が見えてしまう。
 クラスメートだけではなかった。
 教室を移動する際も、必ずどこからか、杏里のほんのささいな仕草をも見逃すまいと、蛇のような視線が追ってくる。
 それは生徒のものもあれば、教師のものもあった。
 だが、視線に犯されることに慣れっこになっている杏里には、大してそれは気にならない。
 気にかかってならないのは、授業後の部活動だった。
 いっそのこと、さぼって帰ってしまおうか。
 何度そう思ったことだろう。
 が、そんな杏里の迷いは、とうの昔に周囲に見透かされていたようだ。
 終業のチャイムが鳴ると同時に、退路を断たれた。
「逃げちゃだめだよ」
 机の前に立ちはだかって、純が言った。
 その後ろで、璃子とふみのコンビがにやにや笑っている。
「わかってる」
 杏里はため息をついた。
「ちょっと、恐くなっただけ。心配しないで。約束は守るから」
 
 純に手を引かれて校舎裏の部室に着くと、メンバーはすでに全員そろっていた。
 小百合の秘蔵っ子、キャプテンの黒人少女、アニス。
 両腕が長く、オラウータンに似た、元卓球部の朝倉麻衣。
 雄牛を思わせる巨体の持ち主、元柔道部副主将、飯塚咲良。
 しなやかな女鹿のような肢体の、元水泳部のエース、権藤美穂。
 そして、小麦色の肌の健康少女が、もうひとりの1年生、元ハンドボール部、神崎トモ。
 そこに、肉でできた樽みたいなふみと、メンバーの中でもひときわ背の高い純が加わると、運動能力にも筋肉にもまるで自信のない杏里は、ただひたすら気持ちが萎えるだけだった。
「じゃ、ユニフォーム配るから、さっそく着換えな」
 マネージャーの璃子が言い、ひとりひとりにきちんと畳まれたユニフォームを渡し始めた。
 もらった者は誰もが、周りの目など気にもしないでその場で制服を脱ぎ、ユニフォームに着換えていく。
 オレンジに黒のストライプの入った、ノースリーブのトップにハーフパンツのセットである。
 最後が杏里だった。
「笹原はこれだ」
 意味ありげに言って璃子が差し出したのは、入部審査の時着せられたのと同じ、生地の薄いレオタードである。
 ただ、今度のは色が肌色に近いベージュだった。
 杏里はむっとした。
 どうして、私だけ?
 こんなの、裸と同じじゃない。
「おまえは、まだ研修生だからな。ほかのメンバーと同じ扱いとはいかないんだ。レギュラーになるまでは、これで我慢しな」
 抗議するより早く、璃子にそう釘を刺されてしまった。
 仕方なく、着換えにかかる。
 レオタードはあまりにきつく、着込むためにはブラもパンティも脱がねばならなかった。
 苦労して肩ひもを所定の位置にひっかけると、杏里はためらいがちに顔を上げた。
 すでに着換えを終えたメンバーたちが、呆れたような表情を顔に浮かべ、こっちを見ている。
「杏里ったら、相変わらず、すごいね」
 感心したように、純が言った。
「色が色だけに、なんにも着てないみたいですね」
 健康少女の神崎トモは、興味津々といった顔つきだ。
「ソデスネ。デモ、杏里ラシクテ、イイト思イマス。ワタシ、えっちナ杏里ガ大好キデス」
 アニスのコメントに、どっと笑いが沸き起こる。
「さ、着替えが済んだら、準備体操の後、グラウンド10周よ。先生が来るまでに、身体をほぐしておこう」
 純が元気のいい声で、指示を出す。
 杏里はげんなりした。
 え?
 いきなり、10周も?
 しかも、この格好で…?
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...