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第9部 倒錯のイグニス

#24 人外セックス①

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 私の心の問題?
 それは、どういうことなの?
 眼前で繰り広げられる陰惨極まりない光景に目を奪われながら、頭の中で杏里は思考を返した。
 サイコジェニーの”訪問”は、いつも突然だ。
 だから、今ではいきなり話しかけられても、あまり驚かなくなっている。
 -いいかい? 真のタナトスというのはね、相手を選んじゃいけないんだよ。その意味では、さっきのひと幕にはがっかりさせられたね。曲がりなりにも、あのふみという少女は人間じゃないか。なぜその場で“浄化”してやらない? ふみが醜いからかい? 醜くて、性格も歪んでいるから? 冗談じゃない。相手を選り好みする権利なんて、おまえたちタナトスにはないんだよ。そうだろう? おまえたちは、人間に奉仕するために、この世に生み出されたようなものなのだ。この先、おまえがどう進化するにせよ、今の段階ではまずその不文律は守らねばならない。でなければ、おまえはただの怪物になってしまうから。そうなると、さっきのあの態度は、人間であるふみに対して、あまりに失礼じゃないのかい?-
 そ、それは…。
 杏里は絶句した。
 ジェニーのいう通りだった。
 駆け出しの頃は、相手が誰であろうと、必死で浄化したものだ。
 それが経験を積み、優秀なタナトスとして委員会にも認められるようになると、杏里は相手を選び始めている。
 -傲慢は、罪なのさ。特に、おまえのようなタナトスにとってはねー
 ジェニーが言った。
 声が遠ざかっていく。
 -もし、少しでもそれを改める気があるのなら、今そこにいるその化け物で試してごらんー
 で、でも、どうやって…?
 杏里は泣きそうだった。
 ふみでも無理だったのに、”あれ”が相手ではもっと無理だ。
 いずなが浄化に失敗したのも、無理はない。
 だって、だってあれは…。
 -すべてを快楽と捉えなさい。相手が醜ければ醜い分だけ、凌辱された時の快感は強くなる。相手の攻撃が残忍であればあるだけ、おまえは激しく感じてしまう。おまえなら、それができるはず。流出はすでに始まっている。己の分身とセックスして、おまえはそれを受け容れる器と化したんだ。おまえなら、できる。いや、おまえにしか、できない。逆に言えば、おまえにそれが無理ならば、人類にはもう、未来はないのさー
 ジェニーの気配が、消えた。
 いつものように、スイッチを切るような唐突さだ。
 杏里はひとり、奈落の底に取り残されたような気分だった。
 すべてを、快楽に…?
 できるのだろうか? 
 そんなことが?
 痛みを快感に変換するのは、躰が勝手にやってくれる。
 が、嫌悪感までをも快楽に変えるとなると…。
 なるほど、それは、心の問題だ。
 とにかく、今はやるしかなかった。
 もうすぐ、SATの突入が始まるだろう。
 そうなれば、下手をすると、いずなの命はない。
 どこにも逃げ道はなかった。
 杏里は、脱いだブレザーを近くの椅子の背もたれにかけた。
 続いて、ブラウスのボタンを外し始める。
 スカートを脱ぎ、ブラジャーを外すと、丁寧にたたんで椅子の上に置く。
 パンティ一枚になると、胸を両腕で隠し、杏里はゆっくりと歩き始めた。
 杏里の身体中から立ち上る、目には見えない濃厚なフェロモン。
 それに気づいたのか。
 ふいに、怪物が振り向いた。
 



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