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第9部 倒錯のイグニス
#19 緊急事態①
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「あれ? 杏里、どうしたの?」
ドア越しに純の声がした。
「あ、みんな、先に行ってて。あたし、杏里ちゃんにちょっと用があるから」
ふみが外見にそぐわぬぶりっこ口調で答えた。
「ふうん、そうなんだ」
純の足音が遠ざかっていく。
待って。
叫ぼうとしたら、グローブみたいな手で口を塞がれた。
「ちょっとだけだって言ってるでしょ。ジタバタちないの!」
肉に埋もれたふみの目が三角になる。
豚そっくりだ、と今更ながらに杏里は思う。
人を外見で判断するなと言うけれど、ふみほど人間離れした相手には、そんな綺麗事は通用しない。
おそらく体格だけでメンバーに選ばれたのだろう。
ふみは身長、体重とも、監督の小百合をもしのぐ。
咲良も大柄だが、圧迫感ではとてもこの大女にはかなわない。
杏里はかつて目の当たりにしたふみのヌードを思い出して、思わず吐きそうになった。
何重にも肉の重なった、円錐形の胴体。
それはまるでとぐろを巻いた肌色の巨大な大便だ。
そこから突き出した短い手足は、育ち過ぎた赤ん坊のそれのように丸々としている。
顔では膨れ上がった頬に目鼻がすべて埋もれてしまっており、ナマコを思わせる唇だけが目立っている。
髪の毛はトウモロコシの毛みたいにもじゃもじゃしていて、量が少ないので地肌が透けて見えた。
そのふみが今目の前にそびえ立ち、涎をたらさんばかりの表情で、じっとりと杏里を見つめている。
「どいて」
無駄だとわかっていたが、抵抗の意志だけは示しておきたかった。
ふみを押しのけて、ドアノブに手を伸ばそうとした。
「このわからず屋!」
その手をふみがつかみ、ぐいとばかりにひねり上げる。
杏里の躰を180度回転させると、つかんだ手首を腰のところに押し当てる。
「痛いよ! やめて!」
「馬鹿っ! どうしてわかってくれないの!」
怒鳴り声とともに、ものすごい力で突き飛ばされた。
長机で腹を打ち、くの字に躰を折る杏里。
その突き出された尻を、ふみが見逃すはずがない。
たちまちスカートを腰の上までめくり上げられ、下着を膝までずり下げられた。
白桃のような杏里の尻が、蛍光灯の照明を反射して艶めかしく光る。
「好きなのに! こんなにあんたのこと、愛してるのに!」
ふみの分厚い手のひらが、杏里の尻を打った。
「ああ、お尻、杏里ちゃんのお尻!」
右手で尻を平手打ちしながら、左手を伸ばし、乳房をつかみ上げてきた。
「おっぱいも、おっぱいも! ああ、なんてやわらかくて気持ちいいのぉ!」
ふみの恐ろしいところは、その外見だけではない。
何をしでかすかわからない、その狂気をはらんだ頭脳。
そして何より、手加減を知らない子供じみたその性格が怖い。
人気のない楽屋に、パシンパシンと肉を打つ音が響き渡る。
ふみの万力のような指は、ブラウスの上から杏里の乳房に痛いほど食い込んでいる。
このままではお気に入りのブラジャーが、型崩れして台無しになりそうだ。
「やめて…乱暴しないで…」
杏里は苦しげにあえいだ。
相手がふみの場合、浄化に持ち込むには無理がある。
あまりに醜くて、杏里自身がすぐにはその気になれないのだ。
もちろん時間をかければ可能だが、それには少なくともふみと疑似性交くらいしなければならないだろう。
杏里にとって、それはあまりにも高いハードルだった。
「ふぐふぐふぐ、ああ、なんていい匂いなのかしらあ」
ふみは豚のように鼻を鳴らして杏里の耳の後ろを嗅いでいる。
「いや…。くすぐったい」
首を振って逃れようとすると、耳の穴の中に太いミミズのような舌が入ってきた。
あまりの気持ち悪さにびくんと身を震わせた時である。
どんっと硬い音がして、ドアが開いた。
「こら、ふみ、おまえ、何してんだよ。校則違反はだめだって言ったろうが!」
それは、怒りのにじんだ璃子の声だった。
ドア越しに純の声がした。
「あ、みんな、先に行ってて。あたし、杏里ちゃんにちょっと用があるから」
ふみが外見にそぐわぬぶりっこ口調で答えた。
「ふうん、そうなんだ」
純の足音が遠ざかっていく。
待って。
叫ぼうとしたら、グローブみたいな手で口を塞がれた。
「ちょっとだけだって言ってるでしょ。ジタバタちないの!」
肉に埋もれたふみの目が三角になる。
豚そっくりだ、と今更ながらに杏里は思う。
人を外見で判断するなと言うけれど、ふみほど人間離れした相手には、そんな綺麗事は通用しない。
おそらく体格だけでメンバーに選ばれたのだろう。
ふみは身長、体重とも、監督の小百合をもしのぐ。
咲良も大柄だが、圧迫感ではとてもこの大女にはかなわない。
杏里はかつて目の当たりにしたふみのヌードを思い出して、思わず吐きそうになった。
何重にも肉の重なった、円錐形の胴体。
それはまるでとぐろを巻いた肌色の巨大な大便だ。
そこから突き出した短い手足は、育ち過ぎた赤ん坊のそれのように丸々としている。
顔では膨れ上がった頬に目鼻がすべて埋もれてしまっており、ナマコを思わせる唇だけが目立っている。
髪の毛はトウモロコシの毛みたいにもじゃもじゃしていて、量が少ないので地肌が透けて見えた。
そのふみが今目の前にそびえ立ち、涎をたらさんばかりの表情で、じっとりと杏里を見つめている。
「どいて」
無駄だとわかっていたが、抵抗の意志だけは示しておきたかった。
ふみを押しのけて、ドアノブに手を伸ばそうとした。
「このわからず屋!」
その手をふみがつかみ、ぐいとばかりにひねり上げる。
杏里の躰を180度回転させると、つかんだ手首を腰のところに押し当てる。
「痛いよ! やめて!」
「馬鹿っ! どうしてわかってくれないの!」
怒鳴り声とともに、ものすごい力で突き飛ばされた。
長机で腹を打ち、くの字に躰を折る杏里。
その突き出された尻を、ふみが見逃すはずがない。
たちまちスカートを腰の上までめくり上げられ、下着を膝までずり下げられた。
白桃のような杏里の尻が、蛍光灯の照明を反射して艶めかしく光る。
「好きなのに! こんなにあんたのこと、愛してるのに!」
ふみの分厚い手のひらが、杏里の尻を打った。
「ああ、お尻、杏里ちゃんのお尻!」
右手で尻を平手打ちしながら、左手を伸ばし、乳房をつかみ上げてきた。
「おっぱいも、おっぱいも! ああ、なんてやわらかくて気持ちいいのぉ!」
ふみの恐ろしいところは、その外見だけではない。
何をしでかすかわからない、その狂気をはらんだ頭脳。
そして何より、手加減を知らない子供じみたその性格が怖い。
人気のない楽屋に、パシンパシンと肉を打つ音が響き渡る。
ふみの万力のような指は、ブラウスの上から杏里の乳房に痛いほど食い込んでいる。
このままではお気に入りのブラジャーが、型崩れして台無しになりそうだ。
「やめて…乱暴しないで…」
杏里は苦しげにあえいだ。
相手がふみの場合、浄化に持ち込むには無理がある。
あまりに醜くて、杏里自身がすぐにはその気になれないのだ。
もちろん時間をかければ可能だが、それには少なくともふみと疑似性交くらいしなければならないだろう。
杏里にとって、それはあまりにも高いハードルだった。
「ふぐふぐふぐ、ああ、なんていい匂いなのかしらあ」
ふみは豚のように鼻を鳴らして杏里の耳の後ろを嗅いでいる。
「いや…。くすぐったい」
首を振って逃れようとすると、耳の穴の中に太いミミズのような舌が入ってきた。
あまりの気持ち悪さにびくんと身を震わせた時である。
どんっと硬い音がして、ドアが開いた。
「こら、ふみ、おまえ、何してんだよ。校則違反はだめだって言ったろうが!」
それは、怒りのにじんだ璃子の声だった。
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