激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#17 メンバー①

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 ようやく制服を着ることが許され、アニスに導かれてステージ裏に赴くと、楽屋で純たちが待っていた。
 向かい合わせに並べられた長机に、3人ずつ、計6人の生徒が座っている。
 ふみと純以外は、みんな知らない顔ばかりである。
 杏里が戸口から顔を覗かせると、振り向いた純がぱっと瞳を輝かせた。
「あ、杏里! どうだった? っていうか、ここへ来たってことは、合格だったんだよね!」
 素早い動作で席を立つと、両手を上げ、ハイタッチしようと駆け寄ってきた。
 が、杏里はとてもそんな気分ではない。
「やっぱりね。あたしの見込んだ通りだったでしょ」
 純が自分の隣の席の椅子を引く。
 杏里はそこに崩れるように座り込んだ。
 私のどこを見込んだっていうの?
 そう言い返したかったが、ほかのメンバーがこっちを注目していることに気づいて、言葉を飲み込んだ。
 杏里を除く全員が、立派な体格の持ち主である。
 あれだけの人数の中から選ばれたのだ。
 ある意味それは当然だろう。
 だからなのか、杏里を見つめる視線にはどれもいぶかしげな光が宿っていた。
 にやにや笑っているふみ以外は、予想外の人物の登場に、みんな呆気にとられてしまっているようだ。
 そこに、璃子を従えて小百合が入ってきた。
 室内の全員が、申し合わせたように起立して、直立不動の姿勢を取った。
「全員そろいましたか」
 メンバーを見渡して、小百合が言った。
「わが暁中学レスリング部は、当面この8人のメンバーで行くことにします。キャプテンはアニス。副キャプテンは入江純。マネージャーは加賀美璃子。笹原杏里、あなたは研修生。ほかの5人をレギュラーとします」
 募集は10人という噂だったが、杏里の合格が決まるとすぐに、小百合は審査を打ち切ってしまったのだ。
 部員第1号第2号と豪語していた璃子たちだったが、ふみはともかく璃子はマネージャーだったということか。
 なるほどやせっぽちの璃子は、体格的にそのほうが合っている。
 どうせなら私も…と思わないではなかったが、璃子と一緒に仕事をするというのはぞっとしなかった。
 むしろ、研修生と言われて杏里はほっとした。
 運動神経も体力もないが、練習くらいならなんとか耐えられる。
「先に言っておきますが、10日後に紅白戦を行います。チーム分けは、練習の様子を見て、近日中に発表することにします。その結果で、冬の県大会予選の出場選手を決定しますから、学園祭の準備もあって大変だとは思うけど、明日からの練習、頑張ってください」
 紅白戦。
 県大会予選。
 その言葉に、メンバーたちはがぜんやる気を起こしたようだった。
 ちょっとしたどよめきが起こり、一瞬、あちこちで目配せが飛び交った。 
 が、運動系の部活に所属したことのない杏里は、すっかり蚊帳の外である。
 いや、運動部どころか、そもそも杏里は、部活動というものに入ったことがない。
「じゃ、今から入部申込書配るから、それに必要事項を記入して」
 璃子が言い、アニスと一緒に用紙を配付し始めた。
 胸ポケットから三色ボールペンを取り出して、用紙に向かった時である。
 肩に分厚い手が置かれた。
 振り向くまでもない。
 小百合がすぐそばに立ち、顔を寄せてきたのだ。
「笹原、わかってると思うけど、あなたは基礎訓練からやり直す必要がある。その体からして、これまでスポーツに無縁の生活をしてきたのは丸わかりだからね。だから、明日からあなただけ、私が特別に個人指導するわ。10日後の紅白戦で、みんなの足を引っ張らなくて済むよう、レスリングの基礎からみっちりとね」 
 え?
 杏里は固まった。
 顔から血の気が引くのがわかった。
 個人指導?
 そ、そんな…。
 そこへ、笑いを含んだ璃子の声が飛んできた。
「センセ、校則違反には、くれぐれも気をつけてくださいね。そいつってば、可愛い顔して、とんだアバズレ女なんですから」

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