18 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#17 メンバー①
しおりを挟む
ようやく制服を着ることが許され、アニスに導かれてステージ裏に赴くと、楽屋で純たちが待っていた。
向かい合わせに並べられた長机に、3人ずつ、計6人の生徒が座っている。
ふみと純以外は、みんな知らない顔ばかりである。
杏里が戸口から顔を覗かせると、振り向いた純がぱっと瞳を輝かせた。
「あ、杏里! どうだった? っていうか、ここへ来たってことは、合格だったんだよね!」
素早い動作で席を立つと、両手を上げ、ハイタッチしようと駆け寄ってきた。
が、杏里はとてもそんな気分ではない。
「やっぱりね。あたしの見込んだ通りだったでしょ」
純が自分の隣の席の椅子を引く。
杏里はそこに崩れるように座り込んだ。
私のどこを見込んだっていうの?
そう言い返したかったが、ほかのメンバーがこっちを注目していることに気づいて、言葉を飲み込んだ。
杏里を除く全員が、立派な体格の持ち主である。
あれだけの人数の中から選ばれたのだ。
ある意味それは当然だろう。
だからなのか、杏里を見つめる視線にはどれもいぶかしげな光が宿っていた。
にやにや笑っているふみ以外は、予想外の人物の登場に、みんな呆気にとられてしまっているようだ。
そこに、璃子を従えて小百合が入ってきた。
室内の全員が、申し合わせたように起立して、直立不動の姿勢を取った。
「全員そろいましたか」
メンバーを見渡して、小百合が言った。
「わが暁中学レスリング部は、当面この8人のメンバーで行くことにします。キャプテンはアニス。副キャプテンは入江純。マネージャーは加賀美璃子。笹原杏里、あなたは研修生。ほかの5人をレギュラーとします」
募集は10人という噂だったが、杏里の合格が決まるとすぐに、小百合は審査を打ち切ってしまったのだ。
部員第1号第2号と豪語していた璃子たちだったが、ふみはともかく璃子はマネージャーだったということか。
なるほどやせっぽちの璃子は、体格的にそのほうが合っている。
どうせなら私も…と思わないではなかったが、璃子と一緒に仕事をするというのはぞっとしなかった。
むしろ、研修生と言われて杏里はほっとした。
運動神経も体力もないが、練習くらいならなんとか耐えられる。
「先に言っておきますが、10日後に紅白戦を行います。チーム分けは、練習の様子を見て、近日中に発表することにします。その結果で、冬の県大会予選の出場選手を決定しますから、学園祭の準備もあって大変だとは思うけど、明日からの練習、頑張ってください」
紅白戦。
県大会予選。
その言葉に、メンバーたちはがぜんやる気を起こしたようだった。
ちょっとしたどよめきが起こり、一瞬、あちこちで目配せが飛び交った。
が、運動系の部活に所属したことのない杏里は、すっかり蚊帳の外である。
いや、運動部どころか、そもそも杏里は、部活動というものに入ったことがない。
「じゃ、今から入部申込書配るから、それに必要事項を記入して」
璃子が言い、アニスと一緒に用紙を配付し始めた。
胸ポケットから三色ボールペンを取り出して、用紙に向かった時である。
肩に分厚い手が置かれた。
振り向くまでもない。
小百合がすぐそばに立ち、顔を寄せてきたのだ。
「笹原、わかってると思うけど、あなたは基礎訓練からやり直す必要がある。その体からして、これまでスポーツに無縁の生活をしてきたのは丸わかりだからね。だから、明日からあなただけ、私が特別に個人指導するわ。10日後の紅白戦で、みんなの足を引っ張らなくて済むよう、レスリングの基礎からみっちりとね」
え?
杏里は固まった。
顔から血の気が引くのがわかった。
個人指導?
そ、そんな…。
そこへ、笑いを含んだ璃子の声が飛んできた。
「センセ、校則違反には、くれぐれも気をつけてくださいね。そいつってば、可愛い顔して、とんだアバズレ女なんですから」
向かい合わせに並べられた長机に、3人ずつ、計6人の生徒が座っている。
ふみと純以外は、みんな知らない顔ばかりである。
杏里が戸口から顔を覗かせると、振り向いた純がぱっと瞳を輝かせた。
「あ、杏里! どうだった? っていうか、ここへ来たってことは、合格だったんだよね!」
素早い動作で席を立つと、両手を上げ、ハイタッチしようと駆け寄ってきた。
が、杏里はとてもそんな気分ではない。
「やっぱりね。あたしの見込んだ通りだったでしょ」
純が自分の隣の席の椅子を引く。
杏里はそこに崩れるように座り込んだ。
私のどこを見込んだっていうの?
そう言い返したかったが、ほかのメンバーがこっちを注目していることに気づいて、言葉を飲み込んだ。
杏里を除く全員が、立派な体格の持ち主である。
あれだけの人数の中から選ばれたのだ。
ある意味それは当然だろう。
だからなのか、杏里を見つめる視線にはどれもいぶかしげな光が宿っていた。
にやにや笑っているふみ以外は、予想外の人物の登場に、みんな呆気にとられてしまっているようだ。
そこに、璃子を従えて小百合が入ってきた。
室内の全員が、申し合わせたように起立して、直立不動の姿勢を取った。
「全員そろいましたか」
メンバーを見渡して、小百合が言った。
「わが暁中学レスリング部は、当面この8人のメンバーで行くことにします。キャプテンはアニス。副キャプテンは入江純。マネージャーは加賀美璃子。笹原杏里、あなたは研修生。ほかの5人をレギュラーとします」
募集は10人という噂だったが、杏里の合格が決まるとすぐに、小百合は審査を打ち切ってしまったのだ。
部員第1号第2号と豪語していた璃子たちだったが、ふみはともかく璃子はマネージャーだったということか。
なるほどやせっぽちの璃子は、体格的にそのほうが合っている。
どうせなら私も…と思わないではなかったが、璃子と一緒に仕事をするというのはぞっとしなかった。
むしろ、研修生と言われて杏里はほっとした。
運動神経も体力もないが、練習くらいならなんとか耐えられる。
「先に言っておきますが、10日後に紅白戦を行います。チーム分けは、練習の様子を見て、近日中に発表することにします。その結果で、冬の県大会予選の出場選手を決定しますから、学園祭の準備もあって大変だとは思うけど、明日からの練習、頑張ってください」
紅白戦。
県大会予選。
その言葉に、メンバーたちはがぜんやる気を起こしたようだった。
ちょっとしたどよめきが起こり、一瞬、あちこちで目配せが飛び交った。
が、運動系の部活に所属したことのない杏里は、すっかり蚊帳の外である。
いや、運動部どころか、そもそも杏里は、部活動というものに入ったことがない。
「じゃ、今から入部申込書配るから、それに必要事項を記入して」
璃子が言い、アニスと一緒に用紙を配付し始めた。
胸ポケットから三色ボールペンを取り出して、用紙に向かった時である。
肩に分厚い手が置かれた。
振り向くまでもない。
小百合がすぐそばに立ち、顔を寄せてきたのだ。
「笹原、わかってると思うけど、あなたは基礎訓練からやり直す必要がある。その体からして、これまでスポーツに無縁の生活をしてきたのは丸わかりだからね。だから、明日からあなただけ、私が特別に個人指導するわ。10日後の紅白戦で、みんなの足を引っ張らなくて済むよう、レスリングの基礎からみっちりとね」
え?
杏里は固まった。
顔から血の気が引くのがわかった。
個人指導?
そ、そんな…。
そこへ、笑いを含んだ璃子の声が飛んできた。
「センセ、校則違反には、くれぐれも気をつけてくださいね。そいつってば、可愛い顔して、とんだアバズレ女なんですから」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる