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第9部 倒錯のイグニス
#8 謀略
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どうして、こんなことになってしまったのだろう?
男に背後から激しく突き上げられながら、霞がかかったような頭で、ヤチカは思った。
今、ヤチカの膣の中にすっぽりとはまり込んでいるのは、まぎれもなく外来種のペニスである。
長さ、太さともに、人間の男性器の比ではない。
しかも、逆棘がしっかりと膣壁に食い込んでいるため、その腰から繰り出されるピストン運動の威力は相当なものだった。
瞬く間に銛のように尖った亀頭が子宮壁を直撃し、ヤチカは振動のたびに悲鳴とも喘ぎともつかぬ声を上げた。
-ヤチカには、新しい組織に入ってもらいたいんだよねー
あの池のほとりのあずまやで、巨大な鷲鼻を蠢かせながら、沼真布は言ったものだ。
-この井沢さんは、その日本支部の、いわば責任者なのさー
ヤチカは、下半身だけ、裸に剥かれている。
上半身はまだブラウスもスーツの上着も着たままだ。
ただ、ブラウスの前ははだけられ、ブラジャーもずり下げられて、横から見ると小さめだが形のいいふたつの乳房がむき出しになり、振動に合わせて小刻みに揺れていた。
場所は、そのまま、あずまやの中である。
信じられないことだが、ヤチカは、あの会談の後、井沢と名乗る男になぜだかその場でいきなり犯される羽目に陥ったのだった。
膣をさんざんえぐられ、痺れるような快感にか細い悲鳴を上げながら、その時の会話をただ茫然とヤチカは反芻している。
-組織? 組織って、何の組織なんですか?-
-新種薔薇育成委員会、とでもいいますかね。まだ仮の名称ですがー
黒眼鏡の男が、ヤチカの反応を見ながら、面白がっているような口調で横から口を出す。
ー新種薔薇、育成委員会…?
とてつもなく嫌な予感に襲われたのは、その時である。
それが名前の通りの組織でないことぐらいは、わざわざ聞き直さなくともわかった。
なぜなら、ヤチカはその正反対の名称の、国家的機関を知っていたからだ。
-そうさね。あの原種薔薇保存委員会に対抗する新たな組織、新種薔薇育成委員会だよー
舌を噛みそうに長いふたつの名前を、老婆がすらすらと並べてみせた。
-ど、どうして…? どうしてそんな組織が…?-
-七尾さん、あなたならわかるはずだ。我々にも、生きる権利があるってことがー
青ざめたヤチカに向かって、井沢が言った。
-われわれ…?-
-そう。私やあなたのような、優越種のことですよ。ふふ、負け惜しみからなのか嫉妬からなのかは知らないが、彼らは我々のことを”外来種”と呼びたがるようですがー
-つまりそれは…外来種のための組織…ということですか?-
-その通りです。彼らは一方的に我々を害獣扱いして、手当たり次第に狩ろうとしている。そこには共存しようなどという意思は微塵もない。ならばこちらも、脇を固め、反撃を開始するのみでしょう?ー
-そんな…-
そんなことをしたら、大変なことになる。
その先に待ち受けるのは、人間と外来種との、全面戦争だ…。
-でも、真布ばあさんは、人間じゃないですか? なのになぜ、この人の側に?-
-その理由かい? 聞いて驚かないでよー
老婆が小娘のようにクスクス笑った。
-最近、うちの婦人会でね、話題に上がることがあってさ、何の話題だと思う?-
-婦人会、ですか? さあ-
-若返りと、不老不死だよ。みんなお金だけはたんまり持ってるんだが、やりたいことがたくさんあっても、悲しいかな、時間が足りなくてねえ。そこで考えたんだよ。なんとか、そのふたつを手に入れられないかとー
-若返りと、不老不死…?-
-そしたら閃いたんだよ。あの娘のことが。ほら、いつかあの子をおまえさんがここへ連れてきたことがあったろう? タナトスって初めてだったから、あの時あたしは悪戯心を起こして、瞑想の間であの子を裸にしてちょいと弄んでやったんだが…その時おまえさんも見ただろう? あの娘が溢れさせたお汁、あれがあたしの手や顔についたとたん、しわが消えてお肌のハリが戻ったんだよ。で、考えたのさ。あのエキスが大量に手に入れば、あたしやあたしのお友達の願いが叶うんじゃないかってー
-そんなことのために、杏里ちゃんを…?-
-おや。そんなこと、とはひどい言い方だね。80過ぎたあたしらの気持ち、まだ若いおまえさんには、きっとわかんないんだろうね。いつお呼びがかかるかわからない、この針の筵の上で暮らしてるみたいな境地はさー
老婆は取り立てて腹を立てたふうではなかった。
だが、冗談を口にしてヤチカをからかっている様子もない。
-そんなときにね、この井沢さんから接触があったんだよ。どうやら正三がつくったあの娘の人形のことを、どこからか聞きつけたらしくてね。そう、そこの池で水浴びさせてる彼女たちさ。それで話しているうちに、お互い利害が一致してることがわかってきて…-
-あの、すみませんー
それ以上、聞く気になれず、ヤチカは腰を上げた。
-私、これで、帰らせていただきますー
杏里をそんな目的のために使おうと考えるなんて。
見損なった。
私の絵を理解してくれる、もっと心が広くて、奥の深い人だと思ってたのに…。
これじゃ、ただの私利私欲の塊。
なりふり構わず生のしっぽにしがみつく、ただの強欲で醜い老人じゃない。
その時だった。
井沢がやおらサングラスを外したのは。
-それがあなたのお返事ですか。残念です。まったくもって、残念ですよ。七尾ヤチカさんー
そして気づくと、いつのまにかヤチカは、老婆の目の前で下半身だけ裸のまま、井沢にバックから貫かれ、獣のように泣き喚いていたのだった。
男に背後から激しく突き上げられながら、霞がかかったような頭で、ヤチカは思った。
今、ヤチカの膣の中にすっぽりとはまり込んでいるのは、まぎれもなく外来種のペニスである。
長さ、太さともに、人間の男性器の比ではない。
しかも、逆棘がしっかりと膣壁に食い込んでいるため、その腰から繰り出されるピストン運動の威力は相当なものだった。
瞬く間に銛のように尖った亀頭が子宮壁を直撃し、ヤチカは振動のたびに悲鳴とも喘ぎともつかぬ声を上げた。
-ヤチカには、新しい組織に入ってもらいたいんだよねー
あの池のほとりのあずまやで、巨大な鷲鼻を蠢かせながら、沼真布は言ったものだ。
-この井沢さんは、その日本支部の、いわば責任者なのさー
ヤチカは、下半身だけ、裸に剥かれている。
上半身はまだブラウスもスーツの上着も着たままだ。
ただ、ブラウスの前ははだけられ、ブラジャーもずり下げられて、横から見ると小さめだが形のいいふたつの乳房がむき出しになり、振動に合わせて小刻みに揺れていた。
場所は、そのまま、あずまやの中である。
信じられないことだが、ヤチカは、あの会談の後、井沢と名乗る男になぜだかその場でいきなり犯される羽目に陥ったのだった。
膣をさんざんえぐられ、痺れるような快感にか細い悲鳴を上げながら、その時の会話をただ茫然とヤチカは反芻している。
-組織? 組織って、何の組織なんですか?-
-新種薔薇育成委員会、とでもいいますかね。まだ仮の名称ですがー
黒眼鏡の男が、ヤチカの反応を見ながら、面白がっているような口調で横から口を出す。
ー新種薔薇、育成委員会…?
とてつもなく嫌な予感に襲われたのは、その時である。
それが名前の通りの組織でないことぐらいは、わざわざ聞き直さなくともわかった。
なぜなら、ヤチカはその正反対の名称の、国家的機関を知っていたからだ。
-そうさね。あの原種薔薇保存委員会に対抗する新たな組織、新種薔薇育成委員会だよー
舌を噛みそうに長いふたつの名前を、老婆がすらすらと並べてみせた。
-ど、どうして…? どうしてそんな組織が…?-
-七尾さん、あなたならわかるはずだ。我々にも、生きる権利があるってことがー
青ざめたヤチカに向かって、井沢が言った。
-われわれ…?-
-そう。私やあなたのような、優越種のことですよ。ふふ、負け惜しみからなのか嫉妬からなのかは知らないが、彼らは我々のことを”外来種”と呼びたがるようですがー
-つまりそれは…外来種のための組織…ということですか?-
-その通りです。彼らは一方的に我々を害獣扱いして、手当たり次第に狩ろうとしている。そこには共存しようなどという意思は微塵もない。ならばこちらも、脇を固め、反撃を開始するのみでしょう?ー
-そんな…-
そんなことをしたら、大変なことになる。
その先に待ち受けるのは、人間と外来種との、全面戦争だ…。
-でも、真布ばあさんは、人間じゃないですか? なのになぜ、この人の側に?-
-その理由かい? 聞いて驚かないでよー
老婆が小娘のようにクスクス笑った。
-最近、うちの婦人会でね、話題に上がることがあってさ、何の話題だと思う?-
-婦人会、ですか? さあ-
-若返りと、不老不死だよ。みんなお金だけはたんまり持ってるんだが、やりたいことがたくさんあっても、悲しいかな、時間が足りなくてねえ。そこで考えたんだよ。なんとか、そのふたつを手に入れられないかとー
-若返りと、不老不死…?-
-そしたら閃いたんだよ。あの娘のことが。ほら、いつかあの子をおまえさんがここへ連れてきたことがあったろう? タナトスって初めてだったから、あの時あたしは悪戯心を起こして、瞑想の間であの子を裸にしてちょいと弄んでやったんだが…その時おまえさんも見ただろう? あの娘が溢れさせたお汁、あれがあたしの手や顔についたとたん、しわが消えてお肌のハリが戻ったんだよ。で、考えたのさ。あのエキスが大量に手に入れば、あたしやあたしのお友達の願いが叶うんじゃないかってー
-そんなことのために、杏里ちゃんを…?-
-おや。そんなこと、とはひどい言い方だね。80過ぎたあたしらの気持ち、まだ若いおまえさんには、きっとわかんないんだろうね。いつお呼びがかかるかわからない、この針の筵の上で暮らしてるみたいな境地はさー
老婆は取り立てて腹を立てたふうではなかった。
だが、冗談を口にしてヤチカをからかっている様子もない。
-そんなときにね、この井沢さんから接触があったんだよ。どうやら正三がつくったあの娘の人形のことを、どこからか聞きつけたらしくてね。そう、そこの池で水浴びさせてる彼女たちさ。それで話しているうちに、お互い利害が一致してることがわかってきて…-
-あの、すみませんー
それ以上、聞く気になれず、ヤチカは腰を上げた。
-私、これで、帰らせていただきますー
杏里をそんな目的のために使おうと考えるなんて。
見損なった。
私の絵を理解してくれる、もっと心が広くて、奥の深い人だと思ってたのに…。
これじゃ、ただの私利私欲の塊。
なりふり構わず生のしっぽにしがみつく、ただの強欲で醜い老人じゃない。
その時だった。
井沢がやおらサングラスを外したのは。
-それがあなたのお返事ですか。残念です。まったくもって、残念ですよ。七尾ヤチカさんー
そして気づくと、いつのまにかヤチカは、老婆の目の前で下半身だけ裸のまま、井沢にバックから貫かれ、獣のように泣き喚いていたのだった。
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