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第9部 倒錯のイグニス
#7 ルナの視線
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腹立ちまぎれに足元に落ちた服の残骸を拾い上げた。
が、たちまち杏里は青ざめた。
ブラウスもスカートも、原型を留めぬほどずたずたにされていて、とても体を覆う役に立ちそうもない。
頼みの綱のブレザーも同様だった。
両袖が肩のところからちぎれ、背中には縦に大きな裂け目が開いてしまっている。
「と言っても、それじゃ無理そうだな」
端切れの山を両手に抱えて途方に暮れる杏里。
それを見つめるルナの碧眼に、何か面白がっているような色が浮かんだ。
「おまえ、家はあの道路の向こうか」
ルナが車道のほうに顎をしゃくってみせた。
ひと呼吸遅れて、杏里はうなずいた。
外来種の男がトラックに突っ込んだため、車道は騒然とした雰囲気に包まれている。
離れたここから見ても、車の渋滞が起きているのがわかる。
パトカーと救急車のサイレンが耳を聾するほど大きくなり、絶頂に達したところでぷつんと切れた。
「あの大騒ぎの中、その恰好で道路を横断するのは至難の技だろう。仕方ない」
ルナがブレザーを脱ぐと、それを杏里に投げてよこした。
「貸してやる。どうせまた近いうちに会うだろうから、返すのはその時でいい」
「あ、ありがとう…」
思いもかけぬ親切に戸惑った杏里だったが、ほっとしたのも確かだった。
ルナの言う通り、ろくに身体を隠せもできないぼろ布をまとって歩くより、たとえ一着でもまともな服が着られるのはありがたい。
見たところルナのほうが背が高いから、このブレザーさえあればぎりぎりパンティまで隠れるはずだ。
さっそく借りたブレザーに腕を通そうとした時だった。
「待った」
何を思いついたのか、鋭い口調でルナが言った。
「それを着る前に、見せてくれ。おまえの躰を。この連休中に、日本支部の地下で行われた”訓練会”の話は聞いている。なんでも、おまえひとりを生き延びさせるために、何人もの優秀なパトスやタナトスが命を落としたというじゃないか。委員会の首脳部がそこまでして残したがったおまえの肉体、この目でぜひ見たい」
私を生き延びさせるため?
杏里は首を振った。
それは違う。
結果的に偶然そうなっただけで、下手すれば私も零に嬲り殺しにされるところだったのだ。
が、腕が自動的に動き出していた。
足元の枯葉の上に、ばさりとブレザーが落ちた。
自分の意志とは関係なく、両腕が頭の上へと上がっていく。
いつしか杏里は伸ばした両手を頭上高くで組み合わせ、ルナに向かって裸の胸を突き出すような姿勢になっていた。
まるで目に見えない力が両手首をつかみ、天高く吊るし上げられるような感じだった。
そこに、ルナがしなやかな右手を伸ばしてきた。
その指が、ブラのフロントホックを器用に外した。
重量感に溢れた紡錘形の乳房が、ぶるんとこぼれ出す。
手のひらを垂直に立て、その腹でルナが軽く杏里の乳首をこすり上げた。
「くう…」
脳天に痺れるような快感が走り、杏里は思わずそう声を漏らしていた。
「ほう…」
一歩下がって、杏里の全身をしげしげと眺めながら、ルナがつぶやいた。
「これは見事な…。しかも、感じ易くて、遊び甲斐もありそうだ」
その碧い瞳を、一瞬、薄い皮膜のような情欲の影が覆って、すぐに消えた。
杏里はふと、全身に鳥肌が立つのを覚えた。
だが、それは恐怖からのものではなかった。
ひそかな愉悦への期待。
ルナの視線の意味に気づいた瞬間、それがさざ波のように杏里の全身の皮膚に広がったのである。
が、たちまち杏里は青ざめた。
ブラウスもスカートも、原型を留めぬほどずたずたにされていて、とても体を覆う役に立ちそうもない。
頼みの綱のブレザーも同様だった。
両袖が肩のところからちぎれ、背中には縦に大きな裂け目が開いてしまっている。
「と言っても、それじゃ無理そうだな」
端切れの山を両手に抱えて途方に暮れる杏里。
それを見つめるルナの碧眼に、何か面白がっているような色が浮かんだ。
「おまえ、家はあの道路の向こうか」
ルナが車道のほうに顎をしゃくってみせた。
ひと呼吸遅れて、杏里はうなずいた。
外来種の男がトラックに突っ込んだため、車道は騒然とした雰囲気に包まれている。
離れたここから見ても、車の渋滞が起きているのがわかる。
パトカーと救急車のサイレンが耳を聾するほど大きくなり、絶頂に達したところでぷつんと切れた。
「あの大騒ぎの中、その恰好で道路を横断するのは至難の技だろう。仕方ない」
ルナがブレザーを脱ぐと、それを杏里に投げてよこした。
「貸してやる。どうせまた近いうちに会うだろうから、返すのはその時でいい」
「あ、ありがとう…」
思いもかけぬ親切に戸惑った杏里だったが、ほっとしたのも確かだった。
ルナの言う通り、ろくに身体を隠せもできないぼろ布をまとって歩くより、たとえ一着でもまともな服が着られるのはありがたい。
見たところルナのほうが背が高いから、このブレザーさえあればぎりぎりパンティまで隠れるはずだ。
さっそく借りたブレザーに腕を通そうとした時だった。
「待った」
何を思いついたのか、鋭い口調でルナが言った。
「それを着る前に、見せてくれ。おまえの躰を。この連休中に、日本支部の地下で行われた”訓練会”の話は聞いている。なんでも、おまえひとりを生き延びさせるために、何人もの優秀なパトスやタナトスが命を落としたというじゃないか。委員会の首脳部がそこまでして残したがったおまえの肉体、この目でぜひ見たい」
私を生き延びさせるため?
杏里は首を振った。
それは違う。
結果的に偶然そうなっただけで、下手すれば私も零に嬲り殺しにされるところだったのだ。
が、腕が自動的に動き出していた。
足元の枯葉の上に、ばさりとブレザーが落ちた。
自分の意志とは関係なく、両腕が頭の上へと上がっていく。
いつしか杏里は伸ばした両手を頭上高くで組み合わせ、ルナに向かって裸の胸を突き出すような姿勢になっていた。
まるで目に見えない力が両手首をつかみ、天高く吊るし上げられるような感じだった。
そこに、ルナがしなやかな右手を伸ばしてきた。
その指が、ブラのフロントホックを器用に外した。
重量感に溢れた紡錘形の乳房が、ぶるんとこぼれ出す。
手のひらを垂直に立て、その腹でルナが軽く杏里の乳首をこすり上げた。
「くう…」
脳天に痺れるような快感が走り、杏里は思わずそう声を漏らしていた。
「ほう…」
一歩下がって、杏里の全身をしげしげと眺めながら、ルナがつぶやいた。
「これは見事な…。しかも、感じ易くて、遊び甲斐もありそうだ」
その碧い瞳を、一瞬、薄い皮膜のような情欲の影が覆って、すぐに消えた。
杏里はふと、全身に鳥肌が立つのを覚えた。
だが、それは恐怖からのものではなかった。
ひそかな愉悦への期待。
ルナの視線の意味に気づいた瞬間、それがさざ波のように杏里の全身の皮膚に広がったのである。
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