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第4話 転生! 凌辱学園

#5 なんで私が教師なの?④

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 杏里が手にした1冊のノート。

 それは、授業の流れから板書までが克明に書かれた教案だった。

 見覚えのある丸文字は、杏里のものに間違いない。

 が、この世界の杏里はさすがに教師になるだけあって、ずいぶん几帳面な性格のようだ。

 今の杏里には逆立ちしても真似できない、教材の分析がしっかり書き込まれている。

 ふふ、これをホワイトボードに書き写して、生徒に写させれば、それで一応授業になるじゃない。

 教師にあるまじき手抜き授業で、あまりに姑息な手段とはわかっているが、他に方法はないのだ。

 杏里は意を決して、教室の扉をくぐった。

 踏み出した足が何かを踏みつけ、いきなりズルっと滑った。

 濡れ雑巾!

 そう気づいた時には、すでに遅し。

 杏里は前後に股を開いたまま、横倒しに転倒した。

 教室中が、どっと笑いの渦に包まれる。

 ヒューヒューと指笛が鳴った。

 その合間に、生徒たちのひそひそ声が混じる。

 -見えたー

 -おお、きょうは黒だぞー

 -やだ、Tバックじゃん!-
 
 -しっかし、3日連続でひっかかるなんて、あいつ、バカなんじゃね?-

 ひどい言われようだが、なんとか無視して立ち上がる。

「お、お待たせしました」

 教壇にすがりつくようにして生徒たちと向き合うと、杏里は緊張に震える声で言った。

「えと、では、現代文ってやつの、その、授業みたいなものを、始めさせていただきたいと、お、思います」

 ぶはははは。

 生徒たちが吹き出した。

 -現代文ってやつ、だってよー

 -授業みたいなものって、なんなんだよ?-

 恥ずかしさで顔が熱い。

 膝が震えてカチカチぶつかり、音を立てる。

 緊張のあまり、急激に尿意が高まってくるのがわかった。

 杏里は教壇の陰でもじもじと太腿をこすり合わせた。

 ま、まずい…。ち、ちびりそう…。

「笹原先生、がんばって」

 唯一やさしい声をかけてきてくれたのは、向かって窓側最前列に腰かけた美和である。

 杏里と目が合うと、ひらひら手を振ってウィンクを返してきた。

 気を取り直し、ホワイトボードに向かって立つ。

 -おい、見ろ。パンツの線が見えてるぞー

 -ガチでいい尻してやがるー

 -くう、一発ぶちこみてえー

 タイトスカートのヒップの部分に突き刺さる視線を感じながら、杏里は必死で声を張り上げた。

「きょうから、夏目漱石の、『こころ』を勉強します。教科書の23ページを開いて、ください」

 夏目漱石…。

 名前は知ってるけど、1冊も読んだことないよ。

 てか、私ってば、もともと漫画以外、読まない人だし。

 その私がナツメソウセキを教えるなんて、詐欺もいいとこだよね。

「では、ポイントを板書します。ここからテストに出しますから、みなさん、しっかりノートに写してください」
 
 お。少し静かになった。いい感じ。やっぱ、「テストに出す」。これが効いたみたい。

 あとはひたすら板書するだけだ。

 10分以上かけて大作を仕上げると、杏里は太いため息をついて、手の甲で額の汗をぬぐった。

 やれやれ。あー、疲れた。

 教壇の下から椅子を引っ張り出し、隅に置いて腰を下ろす。

 私の仕事はこれでおしまい。

 あとは時間まで、監督してればいい。

 緊張がゆるんだせいか、眠くなってきた。

 そうして…。

 杏里はいつのまにか、こっくりこっくりと舟をこぎ出していた。


 



 


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