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第3話 ずっとあなたとしたかった
#72 光あるところ闇⑩
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目を覚ましたのは、杏里が先だった。
身体が重かった。
ふたりの下にうずもれているのだ。
「うう…」
折り重なるようにして気を失った那智と美和の身体の下から這い出すと、急いで下着をつけ、服を着た。
チャンス!
足音を忍ばせ、部屋を出る。
ふと思いついて、目覚めたふたりが追ってこられないように、廊下の隅にあった身の丈ほどもある観葉植物の花瓶をバリケード代わりにドアの前に置いた。
大して役には立たないだろうけど、多少の時間稼ぎにはなるだろう。
そう思ったのだ。
外はすでに暗くなっていた。
気持ちが落ち着いてくると、無性に空腹を感じた。
洋館を飛び出し、小道を駆け抜け、大通りに出てタクシーを拾う。
タクシー代はひとり暮らしの財布にはかなり痛いけど、手籠めにされた挙句はく製にされるよりはずっといい。
それにしても、ひどい目に遭ったものだ。
宇津木涼。
鬼龍院那智。
葛城美和。
わずかの間に、3人の異常者から、連続して凌辱されてしまったのだ。
さすがの杏里も、これは初めての経験だった。
3人は、元はと言えば、マンションの管理人、学校の担任、初めてできたクラスの友だちである。
いくら人間関係に淡泊な杏里でも、人間不信になりそうだった。
タクシーの後部座席で背を丸め、顔を覆ってため息をついた。
明日からどうしよう。
思いきって、学校を休むべきかな。
今度美和に捕まったら、命はない気がする。
先生は、なんだか美和と意気投合したみたいだったから、もしかすると彼女に手を貸そうとするかもしれない。
あーあ、最悪。
せっかく、宇津木涼が捕まって、一難去ったと思ったのに…。
メゾン・ド・ハナコの前でタクシーを降りると、エントランスから駆け出してきた小柄な人影があった。
「杏里さま!」
なぜか、フリフリのメイド服に身を包んだみいである。
「杏里さま、どこ行ってたんですか?」
ツインテールの髪を弾ませ、みいが飛びついてきた。
「携帯に電話しても出ないし、いつまで立っても帰ってこないんで、みい、とっても心配したんですよ!」
「みい…」
杏里はその細っこい身体をぎゅっと抱きしめた。
涙があふれ出すのがわかった。
「よかった…また、みいに会えて」
泣きじゃくりながら、みいのすべすべの頬に、自分の頬をすり寄せた。
「こわかった…。本当に、こわかったんだよ…」
身体が重かった。
ふたりの下にうずもれているのだ。
「うう…」
折り重なるようにして気を失った那智と美和の身体の下から這い出すと、急いで下着をつけ、服を着た。
チャンス!
足音を忍ばせ、部屋を出る。
ふと思いついて、目覚めたふたりが追ってこられないように、廊下の隅にあった身の丈ほどもある観葉植物の花瓶をバリケード代わりにドアの前に置いた。
大して役には立たないだろうけど、多少の時間稼ぎにはなるだろう。
そう思ったのだ。
外はすでに暗くなっていた。
気持ちが落ち着いてくると、無性に空腹を感じた。
洋館を飛び出し、小道を駆け抜け、大通りに出てタクシーを拾う。
タクシー代はひとり暮らしの財布にはかなり痛いけど、手籠めにされた挙句はく製にされるよりはずっといい。
それにしても、ひどい目に遭ったものだ。
宇津木涼。
鬼龍院那智。
葛城美和。
わずかの間に、3人の異常者から、連続して凌辱されてしまったのだ。
さすがの杏里も、これは初めての経験だった。
3人は、元はと言えば、マンションの管理人、学校の担任、初めてできたクラスの友だちである。
いくら人間関係に淡泊な杏里でも、人間不信になりそうだった。
タクシーの後部座席で背を丸め、顔を覆ってため息をついた。
明日からどうしよう。
思いきって、学校を休むべきかな。
今度美和に捕まったら、命はない気がする。
先生は、なんだか美和と意気投合したみたいだったから、もしかすると彼女に手を貸そうとするかもしれない。
あーあ、最悪。
せっかく、宇津木涼が捕まって、一難去ったと思ったのに…。
メゾン・ド・ハナコの前でタクシーを降りると、エントランスから駆け出してきた小柄な人影があった。
「杏里さま!」
なぜか、フリフリのメイド服に身を包んだみいである。
「杏里さま、どこ行ってたんですか?」
ツインテールの髪を弾ませ、みいが飛びついてきた。
「携帯に電話しても出ないし、いつまで立っても帰ってこないんで、みい、とっても心配したんですよ!」
「みい…」
杏里はその細っこい身体をぎゅっと抱きしめた。
涙があふれ出すのがわかった。
「よかった…また、みいに会えて」
泣きじゃくりながら、みいのすべすべの頬に、自分の頬をすり寄せた。
「こわかった…。本当に、こわかったんだよ…」
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