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第3話 ずっとあなたとしたかった
#66 光あるところ闇④
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美和の願い…?
なんだろう?
正直、聞きたくなかった。
どうせ、ろくなもんじゃないに決まってる。
そこで、杏里は会話を長引かせることにした。
時間を稼いだところで、どうなるものでもない。
それは、わかりすぎるほど、わかっている。
だが、このまますぐ殺されて、はく製にされるのはもっと嫌だった。
こんな人形になんて、なりたくない…。
「でも、美和…。美和は、どうしてそんなに私にこだわるの?」
無きに等しい知恵を絞って、杏里は話題を変えた。
「私たち、まだ出会って2週間も経っていないよね? それなのに、どうして?」
「それがそうでもないんだよ」
美和が意味ありげに、微笑んだ。
「いいよ。見せてあげる」
杏里は息を止めた。
美和がだしぬけに、頭の包帯を取り始めたのだ。
現れたのは、綺麗に剃髪されたお坊さんのような頭である。
が、杏里の眼をくぎ付けにしたのは、その表面に走る十文字の醜い傷跡だった。
「これ、地下鉄に轢かれた時の傷の痕なの」
重大な秘密を打ち明けるように、美和が言った。
「1月30日、覚えてる? 私とあなたが、初めて出会った日」
「1月、30日…?」
確か、推薦入試の日じゃ、なかったっけ?
でも、その日に、私と美和が会ったって、それ、どういうこと?
「私、偶然同じ地下鉄に乗っていて、あなたをひと目見て、自分を抑えきれなくなっちゃったの。だって、理想のタイプの女の子が、目の前に立ってるんですもの。頭の中が真っ白になって、気がついたら、あなたに体をくっつけ、夢中で触ってた。そしたら、あの糾弾の声がして、こわくなって反対側の線路に逃げた。そこに電車が入ってきて、私は車体に巻き込まれ…。でも、躰が小さいから、運良く、この頭の傷と、左腕の骨折だけで済んだの。捕まらないように、トンネルの中を、必死で逃げたわ。あなたに会えたことだけを、心の支えにしてね。タクシー拾って、なんとか家に帰りつき、救急車を呼んだことまでは、覚えてる。入学式は、ギブスが取れた直後だったわ。頭の傷は、まだ痕が残ってたから、こうして包帯を巻いて隠すことにした。でも、予想より早く傷が治ったことより、もっとずっとうれしかったのは、奇跡的にまたあなたに会えたってこと。生れて初めて、私は神様に感謝した。あの子に合わせてくださって、本当にありがとうって」
地下鉄。
痴漢。
飛び込み。
そして、消えた轢死体…。
杏里はすべてを思い出していた。
では、あの時の痴漢が、美和だったというのだろうか。
「そ、そんなことって…」
杏里は呆然とひとりごちた。
「わかってくれた?」
茶目っ気たっぷりに、美和が言った。
「だから、2週間どころじゃないの。私とあなたの付き合いは、けっこう長いというわけなのよ」
なんだろう?
正直、聞きたくなかった。
どうせ、ろくなもんじゃないに決まってる。
そこで、杏里は会話を長引かせることにした。
時間を稼いだところで、どうなるものでもない。
それは、わかりすぎるほど、わかっている。
だが、このまますぐ殺されて、はく製にされるのはもっと嫌だった。
こんな人形になんて、なりたくない…。
「でも、美和…。美和は、どうしてそんなに私にこだわるの?」
無きに等しい知恵を絞って、杏里は話題を変えた。
「私たち、まだ出会って2週間も経っていないよね? それなのに、どうして?」
「それがそうでもないんだよ」
美和が意味ありげに、微笑んだ。
「いいよ。見せてあげる」
杏里は息を止めた。
美和がだしぬけに、頭の包帯を取り始めたのだ。
現れたのは、綺麗に剃髪されたお坊さんのような頭である。
が、杏里の眼をくぎ付けにしたのは、その表面に走る十文字の醜い傷跡だった。
「これ、地下鉄に轢かれた時の傷の痕なの」
重大な秘密を打ち明けるように、美和が言った。
「1月30日、覚えてる? 私とあなたが、初めて出会った日」
「1月、30日…?」
確か、推薦入試の日じゃ、なかったっけ?
でも、その日に、私と美和が会ったって、それ、どういうこと?
「私、偶然同じ地下鉄に乗っていて、あなたをひと目見て、自分を抑えきれなくなっちゃったの。だって、理想のタイプの女の子が、目の前に立ってるんですもの。頭の中が真っ白になって、気がついたら、あなたに体をくっつけ、夢中で触ってた。そしたら、あの糾弾の声がして、こわくなって反対側の線路に逃げた。そこに電車が入ってきて、私は車体に巻き込まれ…。でも、躰が小さいから、運良く、この頭の傷と、左腕の骨折だけで済んだの。捕まらないように、トンネルの中を、必死で逃げたわ。あなたに会えたことだけを、心の支えにしてね。タクシー拾って、なんとか家に帰りつき、救急車を呼んだことまでは、覚えてる。入学式は、ギブスが取れた直後だったわ。頭の傷は、まだ痕が残ってたから、こうして包帯を巻いて隠すことにした。でも、予想より早く傷が治ったことより、もっとずっとうれしかったのは、奇跡的にまたあなたに会えたってこと。生れて初めて、私は神様に感謝した。あの子に合わせてくださって、本当にありがとうって」
地下鉄。
痴漢。
飛び込み。
そして、消えた轢死体…。
杏里はすべてを思い出していた。
では、あの時の痴漢が、美和だったというのだろうか。
「そ、そんなことって…」
杏里は呆然とひとりごちた。
「わかってくれた?」
茶目っ気たっぷりに、美和が言った。
「だから、2週間どころじゃないの。私とあなたの付き合いは、けっこう長いというわけなのよ」
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