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第3話 ずっとあなたとしたかった
#45 忍び寄る魔手③
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色々なことがあって疲れているはずなのに、神経が昂ぶって眠れなかった。
まんじりともせぬ夜を過ごし、明け方1時間ほどうたた寝しただけで、杏里はいつもより早く学校に向かった。
驚いたのは、何事もなかったかのように、美和が登校してきたことである。
「ゆうべのライン、あれ、どういうこと?」
美和が席に着くのを待ちかねて、杏里はそばに駆け寄った。
「え? ライン? なんのこと?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、美和が杏里を見た。
「忘れ物を届けに来たら、道に迷って、今、公園に居るって…。だから私、迎えに行ったんだよ。でも、いくら探してみても、美和はいないし…。すっごく、心配したんだから!」
警官が立ち去った後、念のため、公園中を探してみた。
なのに、美和の姿はどこにもなかったのだ。
「何それ? ごめんなさい。話が見えないんだけど」
困惑したように眉をひそめて、美和が言う。
「第一、私たちまだLINE交換もしてないし、それにね、実はきのうから、私のスマホ、どこかへ行っちゃって、見当たらないの」
「これでしょ?」
杏里が取り出したのは、ゆうべ公園で拾ったあのスマホである。
「あ、私のだ」
美和がスマホを手に取り、眼をしばたたかせた。
「どこにあったの? もしかして、杏里の荷物に紛れ込んじゃってたとか?」
「ううん。落ちてた。うちの近くの公園に」
「そんな…どういうこと?」
聞きたいのは、こっちのほうだ。
と杏里は思う。
美和が知らないとすると、誰かほかの者が、美和のスマホを盗んで杏里にラインし、あそこに置いたということになる。
「まさかね…」
思わず口に出してつぶやいたのを、美和は聞き逃さなかった。
「まさかって…どうしたの? 何かあったの?」
心持ち、身を乗り出して訊いてきた。
「実はね…」
ゆうべの出来事を、杏里はかいつまんで話して聞かせた。
公園で、鬼龍院那智と出くわしたこと。
援助交際と間違われて、激しくなじられたこと。
「怪しいな」
聞き終えると、眉間にしわをよせて、美和がつぶやいた。
「きのう、式が始まる前、私、教室にスマホ、置いていったのよ。式の最中に鳴ったら、不謹慎でしょ」
「あ、それは私も。ただ私の場合は、パフォーマンスの邪魔になるかなと思ったからなんだけど」
「てことはさ、その時誰かが私たちのスマホで勝手にライン交換して、私のスマホだけ盗み出したとか」
「あ、それ、有り得るかも」
「つまり犯人は、生徒以外の、学校関係者、だってことだよね?」
「じゃあ、やっぱり、まさかの、まさか?」
杏里が素っ頓狂な声を上げた時、教室の前の戸が開いて、大柄な女性が姿を現した。
ぱつんぱつんのスーツに、厚化粧。
担任の鬼龍院那智である。
「来たよ。容疑者第一号が」
美和がささやき、席に着く。
その声が聞えたかのように、那智が杏里たちのほうにキッと視線をむけてきた。
細い眼鏡の奥で、バセドー氏病気味の眼が怒っている。
「笹原さん。放課後、職員室に」
低いがよく通る声で、叱るように那智が言った。
まんじりともせぬ夜を過ごし、明け方1時間ほどうたた寝しただけで、杏里はいつもより早く学校に向かった。
驚いたのは、何事もなかったかのように、美和が登校してきたことである。
「ゆうべのライン、あれ、どういうこと?」
美和が席に着くのを待ちかねて、杏里はそばに駆け寄った。
「え? ライン? なんのこと?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、美和が杏里を見た。
「忘れ物を届けに来たら、道に迷って、今、公園に居るって…。だから私、迎えに行ったんだよ。でも、いくら探してみても、美和はいないし…。すっごく、心配したんだから!」
警官が立ち去った後、念のため、公園中を探してみた。
なのに、美和の姿はどこにもなかったのだ。
「何それ? ごめんなさい。話が見えないんだけど」
困惑したように眉をひそめて、美和が言う。
「第一、私たちまだLINE交換もしてないし、それにね、実はきのうから、私のスマホ、どこかへ行っちゃって、見当たらないの」
「これでしょ?」
杏里が取り出したのは、ゆうべ公園で拾ったあのスマホである。
「あ、私のだ」
美和がスマホを手に取り、眼をしばたたかせた。
「どこにあったの? もしかして、杏里の荷物に紛れ込んじゃってたとか?」
「ううん。落ちてた。うちの近くの公園に」
「そんな…どういうこと?」
聞きたいのは、こっちのほうだ。
と杏里は思う。
美和が知らないとすると、誰かほかの者が、美和のスマホを盗んで杏里にラインし、あそこに置いたということになる。
「まさかね…」
思わず口に出してつぶやいたのを、美和は聞き逃さなかった。
「まさかって…どうしたの? 何かあったの?」
心持ち、身を乗り出して訊いてきた。
「実はね…」
ゆうべの出来事を、杏里はかいつまんで話して聞かせた。
公園で、鬼龍院那智と出くわしたこと。
援助交際と間違われて、激しくなじられたこと。
「怪しいな」
聞き終えると、眉間にしわをよせて、美和がつぶやいた。
「きのう、式が始まる前、私、教室にスマホ、置いていったのよ。式の最中に鳴ったら、不謹慎でしょ」
「あ、それは私も。ただ私の場合は、パフォーマンスの邪魔になるかなと思ったからなんだけど」
「てことはさ、その時誰かが私たちのスマホで勝手にライン交換して、私のスマホだけ盗み出したとか」
「あ、それ、有り得るかも」
「つまり犯人は、生徒以外の、学校関係者、だってことだよね?」
「じゃあ、やっぱり、まさかの、まさか?」
杏里が素っ頓狂な声を上げた時、教室の前の戸が開いて、大柄な女性が姿を現した。
ぱつんぱつんのスーツに、厚化粧。
担任の鬼龍院那智である。
「来たよ。容疑者第一号が」
美和がささやき、席に着く。
その声が聞えたかのように、那智が杏里たちのほうにキッと視線をむけてきた。
細い眼鏡の奥で、バセドー氏病気味の眼が怒っている。
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低いがよく通る声で、叱るように那智が言った。
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