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第3話 ずっとあなたとしたかった
#43 忍び寄る魔手①
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杏里のスマホにそのラインメッセージが届いたのは、軽い夕食を共にして、みいが帰った後のことである。
その時杏里はほぼ裸同然の恰好で中2階のロフトに寝そべり、漫画雑誌を読んでいた。
「あれ? 誰からだろう?」
中学時代から変わり者扱いで、友人などいない杏里である。
LINE交換してあるのは、身内の勇次と恋人のみいぐらいのものだ。
漫画から顔を上げ、スマホの画面に目を凝らすと、けっこう長文のメッセージが入っていた。
『こんな夜中にごめん。忘れ物を届けようと思って近くまで来たんだけど、道に迷ってしまって』
吹き出しの前にあるのは、MIWAの文字。
「え? 美和って、あの葛城美和ちゃん?」
『どこにいるの?』
急いでメッセージを返す。
忘れ物って何だろう?
昼間、美和の家に行ったのは確かだけど、何か忘れてきたという記憶はない。
『公園。近くにお墓が見える』
『わかった。迎えに行くから、そこで待ってて』
お墓と言えば、この裏手の墓地のことだろう。
墓地の向こう側に、森に囲まれた大きな公園があったことを、杏里は思い出した。
時間はすでに夜の9時を過ぎている。
美和の家から杏里のマンションまではかなり遠いから、ここまで来るのに美和はおそらくバスを使ったに違いない。
早くしないと帰りのバスがなくなってしまう。
ノーブラの上にTシャツを着こみ、下にはフレア気味のマイクロミニを穿いた。
ウィンドブレーカーを羽織り、スマホと財布をポケットにねじこむと、サンダルをつっかけて部屋を出た。
マンションの前の坂道は、さすがにこの時間になると、人通りはないようだ。
ぽつぽつと間隔を空けて立つ街路灯の光が、まだらに石畳の上を照らしているだけである。
道はゆるいカーブを描き、墓地の敷地に沿って闇の中に消えている。
「お墓を突っ切ったほうが早いかな」
公園までの距離を頭の中で計算し、杏里は思った。
墓地への石段を駆け上がり、敷地の中を見下ろすと、思った通り、整然と並んだ墓石の間を一直線に道が伸びていた。
杏里は心霊現象などを信じるほうではない。
夏休みのみちのくの旅では、なるほどいくつか不思議な体験もしたけれど、今ではあれは全部紗彩の仕業だと思っている。
そんな杏里でも、さすがに夜中の墓地は怖かった。
ふああ。
んもう、とにかく何も出ませんように!
ウィンドパーカーのフードをかぶり、一目散に墓石の間の小道を駆け抜けた。
敷地を出ると、少し広めの車道を挟んで、すぐ前が今度は公園の入り口になっていた。
墓地のこちら側は、街路灯の数も多く、周囲は意外に明るかった。
「助かったよぉ、死ぬかと思った」
へろへろになりながら、公園に足を踏み入れた、その瞬間である。
突然右腕をつかまれて、杏里はギクリとなった。
振り払おうとしたら、肩を突かれてその場に尻もちをついた。
短すぎるスカートがめくれあがり、むっちりした太腿の内側と下着が丸見えになる。
木陰の中から黒い影が歩み出て、そんなしどけない姿勢の杏里を見下ろした。
街路灯の明かりがその横顔に当たると、杏里は喉の奥で小さな叫びをあげた。
「あ、あなたは…?」
その時杏里はほぼ裸同然の恰好で中2階のロフトに寝そべり、漫画雑誌を読んでいた。
「あれ? 誰からだろう?」
中学時代から変わり者扱いで、友人などいない杏里である。
LINE交換してあるのは、身内の勇次と恋人のみいぐらいのものだ。
漫画から顔を上げ、スマホの画面に目を凝らすと、けっこう長文のメッセージが入っていた。
『こんな夜中にごめん。忘れ物を届けようと思って近くまで来たんだけど、道に迷ってしまって』
吹き出しの前にあるのは、MIWAの文字。
「え? 美和って、あの葛城美和ちゃん?」
『どこにいるの?』
急いでメッセージを返す。
忘れ物って何だろう?
昼間、美和の家に行ったのは確かだけど、何か忘れてきたという記憶はない。
『公園。近くにお墓が見える』
『わかった。迎えに行くから、そこで待ってて』
お墓と言えば、この裏手の墓地のことだろう。
墓地の向こう側に、森に囲まれた大きな公園があったことを、杏里は思い出した。
時間はすでに夜の9時を過ぎている。
美和の家から杏里のマンションまではかなり遠いから、ここまで来るのに美和はおそらくバスを使ったに違いない。
早くしないと帰りのバスがなくなってしまう。
ノーブラの上にTシャツを着こみ、下にはフレア気味のマイクロミニを穿いた。
ウィンドブレーカーを羽織り、スマホと財布をポケットにねじこむと、サンダルをつっかけて部屋を出た。
マンションの前の坂道は、さすがにこの時間になると、人通りはないようだ。
ぽつぽつと間隔を空けて立つ街路灯の光が、まだらに石畳の上を照らしているだけである。
道はゆるいカーブを描き、墓地の敷地に沿って闇の中に消えている。
「お墓を突っ切ったほうが早いかな」
公園までの距離を頭の中で計算し、杏里は思った。
墓地への石段を駆け上がり、敷地の中を見下ろすと、思った通り、整然と並んだ墓石の間を一直線に道が伸びていた。
杏里は心霊現象などを信じるほうではない。
夏休みのみちのくの旅では、なるほどいくつか不思議な体験もしたけれど、今ではあれは全部紗彩の仕業だと思っている。
そんな杏里でも、さすがに夜中の墓地は怖かった。
ふああ。
んもう、とにかく何も出ませんように!
ウィンドパーカーのフードをかぶり、一目散に墓石の間の小道を駆け抜けた。
敷地を出ると、少し広めの車道を挟んで、すぐ前が今度は公園の入り口になっていた。
墓地のこちら側は、街路灯の数も多く、周囲は意外に明るかった。
「助かったよぉ、死ぬかと思った」
へろへろになりながら、公園に足を踏み入れた、その瞬間である。
突然右腕をつかまれて、杏里はギクリとなった。
振り払おうとしたら、肩を突かれてその場に尻もちをついた。
短すぎるスカートがめくれあがり、むっちりした太腿の内側と下着が丸見えになる。
木陰の中から黒い影が歩み出て、そんなしどけない姿勢の杏里を見下ろした。
街路灯の明かりがその横顔に当たると、杏里は喉の奥で小さな叫びをあげた。
「あ、あなたは…?」
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