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第3話 ずっとあなたとしたかった

#36 予告レイプ⑨

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 杏里は反射的に身体を固くした。
 あの音。
 犯人が入ってきたのだ。
 でも、誰なの?
 頭は混乱するばかりである。
 部屋のドアには内側から鍵をかけてあったし、サッシ窓の戸締りだって確認した。
 玄関の鍵はついこのあいだ替えてもらったばかりだし、合鍵は杏里のバッグの中である。
 誰も入れるはずのない密室。
 そこに侵入して杏里に麻酔を嗅がせ、バッテリー切れのみいと一緒にここへ運ぶことができた人物って…。
 隣のお墓からやってきた幽霊だろうか。
 でも、実体のない幽霊にそんなことができるかな。
 幽霊じゃないとしたら、やっぱり人間だ。
 けど、そんな奇術師みたいな知り合いはいないし…。
 ドアの閉まる音。
 それから聞こえてきた、キイキイというかすかな軋み。
 ん?
 何の音?
 これ、足音じゃない。
 金属が軋むみたいな、そんなかすかな音が近づいてくる。
 人の気配がすぐそばまで来た。
 だが、椅子に縛りつけられている杏里は振り向くことができない。
「ヤットツカマエタ」
 驚くほど近くで耳障りな声が聞こえ、杏里は危うく失禁しそうになった。
 ヘリウムガスを吸ってしゃべっているのか、奇妙に子供じみた嫌らしい声音である。
 この声では、相手が男なのか女なのかもわからない。
 生温かい息がむき出しのうなじにかかり、杏里はすくみ上った。
「アイタカッタ。君ノ動画ヲねっとデ見テカラズット、コノ日ガクルノヲ夢見テイタ」
 謎の人物の独白が続く。
 ネットの動画?
 あ。もしかして。
 思い出した。
 中学校の卒業式。
 あの時の杏里の即席ストリップショーを、同級生たちが面白がって動画サイトやツイッターに上げたのだ。
 高校のクラスでも、動画を見たと言ってくる者が何人もいたから、その意味では杏里はかなりの有名人なのである。
 しかし、それがこんな悪質なストーカーを呼び寄せてしまうとは…。
 うかつだった、と思う。
 イマドキの若者には珍しく、杏里自身、SNSにはあまり興味がない。
 FBもツイッターもインスタグラムも、アカウント自体持っていない。
 その無関心さが生んだツケが、今になって回ってきたというわけだ。
「カワイイネ。イイニオイガスル」
 耳の後ろに、鼻を押しつけられた。
 くんくんと匂いを嗅ぐ気配。
 腕が伸びてきて、胸を触った。
 薄いネグリジェの上から、ぷにゅぷにゅと豊満な乳房を揉み始めた。
「アア、ナンテヤワラカインダ…」
 感極まったような口調で、犯人がつぶやくのが聞えてきた。
「芯ノナイましゅまろミタイナ手触リ…。ドコマデモ指が沈ミ込ンデイクヨ…。オオ、乳首ガこりこりシテキタネ。ヒョットシテ杏里チャン、モウ感ジテクレテイルノカナ?
 うう…。
 杏里は羞恥で赤くなった。
 痛いところを突かれてしまった。
 拉致され、椅子に縛りつけられて身体を弄ばれるもの状況は、確かに恐怖である。
 が、その反面、心の中のもうひとりの杏里は、かすかな興奮を覚え始めていた。
 常にスリルを求め、痴漢されてすら喜ぶもうひとりの自分。
 そのペルソナが、杏里の内面で、今目を覚まそうとしているのだ。 
 

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