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第3話 ずっとあなたとしたかった
#29 予告レイプ②
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ひどい…。
なに、これ?
手のひらの上のメモ用紙に視線を奪われ、杏里はあえいだ。
いったい、誰が、いつ、こんなものを…?
いたずらにもほどがあるでしょ?
でも、ぜんぜん気づかなかった…。
ふう。
もう、縁起でもない。
メモ用紙をびりびりに破り捨てると、杏里は肩で大きく息をついた。
誰なのだろう?
私の手に射精していったさっきの痴漢?
それとも、別の人?
なんせ、あの満員電車の中である。
誰がやったかなんて、考えてもわかるわけがない。
やがてふと、嫌な想像が脳裏に浮かび上がった。
もしかして、下宿のドアに落書きしたり、部屋に忍び込んだのと、同じ人…?
だとすれば、むちゃくちゃこわい。
地下鉄の駅から地上に出ると、商店街を小走りに駆け抜けた。
何度も何度も後ろを振り返る。
尾行されている気配はなかったが、それでも気が気でなかった。
恐怖で喉がからからに乾いてしまっているのがわかった。
いくら性体験が豊富で羞恥心が薄いといっても、見知らぬ誰かからのレイプ予告というのはさすがにぞっとしなかった。
他人が杏里の身体を欲しがるのは、ある程度仕方ないことである。
杏里自身、そうした肉体に生まれついてしまっているからだ。
でも、と思う。
できれば、闇討ちみたいなやり方はやめてほしいと思う。
合意の上とまではいかないにしても、こちらにもある程度の心の準備をさせてほしいのだ。
坂道を上がると、墓地を囲むブロック塀が見えてきた。
その一画に経つこぢんまりとしたマンションが、『メゾン・ド・ハナコ』である。
玄関の自動ドアが開くのももどかしく中に飛び込むと、管理人室の窓越しにハナコおばさんが顔を上げた。
「おや、杏里ちゃんじゃないか? どうしたんだい? 真っ青な顔して」
「あ、いえ、別に」
愛想笑いを浮かべると、杏里はぴょこんと頭を下げた。
老婆の声に触れたことで、ようやく日常が戻ってきた気がして、少しほっとする。
二段飛ばしで2階への階段を駆け上がり、震える手で鍵穴にカギを差し込んだ。
カチリという音を確かめて、ノブに手をかけた時である。
「あ」
目の前で火花が散った気がして、杏里は思わず声を上げていた。
何か硬いものが、後頭部を直撃したのだ。
少し遅れて、じんじんする痛みがやってきた。
ドアにすがりつくようにして、ずるずると地面にくず折れる杏里。
気配を感じて両手で頭をかばった瞬間、今度はやわらかい腹を硬い靴の先で蹴りつけられた。
ヒューズが飛ぶように、ぷつんと意識が切れた。
だが、気を失う直前、杏里は確かに聞いた気がした。
-やっとだー
男のものか女のものかわからぬ、奇妙に押し殺した低い声。
-これでおまえは、ようやく私のものー
なに、これ?
手のひらの上のメモ用紙に視線を奪われ、杏里はあえいだ。
いったい、誰が、いつ、こんなものを…?
いたずらにもほどがあるでしょ?
でも、ぜんぜん気づかなかった…。
ふう。
もう、縁起でもない。
メモ用紙をびりびりに破り捨てると、杏里は肩で大きく息をついた。
誰なのだろう?
私の手に射精していったさっきの痴漢?
それとも、別の人?
なんせ、あの満員電車の中である。
誰がやったかなんて、考えてもわかるわけがない。
やがてふと、嫌な想像が脳裏に浮かび上がった。
もしかして、下宿のドアに落書きしたり、部屋に忍び込んだのと、同じ人…?
だとすれば、むちゃくちゃこわい。
地下鉄の駅から地上に出ると、商店街を小走りに駆け抜けた。
何度も何度も後ろを振り返る。
尾行されている気配はなかったが、それでも気が気でなかった。
恐怖で喉がからからに乾いてしまっているのがわかった。
いくら性体験が豊富で羞恥心が薄いといっても、見知らぬ誰かからのレイプ予告というのはさすがにぞっとしなかった。
他人が杏里の身体を欲しがるのは、ある程度仕方ないことである。
杏里自身、そうした肉体に生まれついてしまっているからだ。
でも、と思う。
できれば、闇討ちみたいなやり方はやめてほしいと思う。
合意の上とまではいかないにしても、こちらにもある程度の心の準備をさせてほしいのだ。
坂道を上がると、墓地を囲むブロック塀が見えてきた。
その一画に経つこぢんまりとしたマンションが、『メゾン・ド・ハナコ』である。
玄関の自動ドアが開くのももどかしく中に飛び込むと、管理人室の窓越しにハナコおばさんが顔を上げた。
「おや、杏里ちゃんじゃないか? どうしたんだい? 真っ青な顔して」
「あ、いえ、別に」
愛想笑いを浮かべると、杏里はぴょこんと頭を下げた。
老婆の声に触れたことで、ようやく日常が戻ってきた気がして、少しほっとする。
二段飛ばしで2階への階段を駆け上がり、震える手で鍵穴にカギを差し込んだ。
カチリという音を確かめて、ノブに手をかけた時である。
「あ」
目の前で火花が散った気がして、杏里は思わず声を上げていた。
何か硬いものが、後頭部を直撃したのだ。
少し遅れて、じんじんする痛みがやってきた。
ドアにすがりつくようにして、ずるずると地面にくず折れる杏里。
気配を感じて両手で頭をかばった瞬間、今度はやわらかい腹を硬い靴の先で蹴りつけられた。
ヒューズが飛ぶように、ぷつんと意識が切れた。
だが、気を失う直前、杏里は確かに聞いた気がした。
-やっとだー
男のものか女のものかわからぬ、奇妙に押し殺した低い声。
-これでおまえは、ようやく私のものー
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