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第3話 ずっとあなたとしたかった

#25 女友だち②

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 葛城美和の家は、学校からほど近い高級住宅街の中に位置していた。
 高い塀に囲まれた、2階建ての瀟洒な洋館である。
 赤く塗られた三角の屋根を連ね、バルコニーまで配したその外観は、まるで異国の建物のようだ。
 家の正面には、精巧な装飾を施した門扉があり、そこを入ると分厚い樫でつくられた重厚な玄関扉につきあたる。
「すごいお屋敷。まるで洋画のセットみたい」
 一歩中に足を踏み入れ、杏里は嘆息を漏らした。
 広い空間に毛足の長いカーペットが敷き詰められている。
 そこここにふかふかのソファとテーブルが配置され、壁際には年代物の家具類と油絵の額。
 正面がらせんを描く階段になっていて、吹き抜けの2階へと続いている。
 ただ茫然と周囲を見回していると、
「どこでもいいわ。好きなところに座って待ってて。今、紅茶淹れるから」
 さわやかな笑顔を振りまいて、美和が言った。
「う、うん」
 ぎこちなく微笑み返し、手近なソファに腰を下ろした。
「わ」
 臀部が沈んで、ひっくり返りそうになる杏里。
 こんな時、杏里の超マイクロミニは不便である。
 すぐに腰までめくれあがり、下半身がむき出しになってしまうのだ。
 あわててスカートの裾を引っ張り、居住まいを正していると、トレイに乗せたカップを美和が運んできた。
「殺風景なとこでしょ。誰もいないから、幽霊屋敷みたい」
 かしこまっている杏里の前に湯気の立つカップを置き、くすりと笑う。
「ご両親は?」
 ハーブの香りのする紅茶を一口すすり、杏里はたずねた。
 確かに、美和の言う通りだ。
 家の中はがらんとして、まったく人の気配というものがない。
「うちはね、ふたりとも海外勤務なの。父が外交官で、母はNGOのお仕事してるの。だから、帰ってくるのは、1か月に1度、あるかないかってところ。週末にはお手伝いのおばさんが来てくださるんだけど、きょうは平日だから、私ひとり。兄弟もいないから、さびしいものよ」
 自分もカップを口に運びながら、淡々とした口調で、美和が言った。
「へーえ、外交官にNGOかあ。なんかかっこいい。そんな設定、映画か小説の中だけかと思ってた」
 杏里はただただ驚くばかりである。
 庶民の中の庶民である自分とは、身分が違うのだ。
 つくづくそう思う。
 そもそも清流院高校の学費は、私立の中でも高いほうだ。
 推薦入試で特待生合格していなかったら、杏里など、通うのも難しい名門校なのである。
 その名門校にストリップを披露して入学し、入学式でまたパンチラを全開にしてしまった自分が、今になってみると、場違いな気がしてさすがに恥ずかしい。
「そうでもないよ。私は普通の家庭がうらやましい。だから時々思うんだ。大人になって結婚したら、絶対専業主婦になろうって。子どもにさびしい思いをさせないようにね」
「まあ、うちも普通の家庭じゃないから、なんとも言えないけど」
 あいまいに相槌を打つ杏里。
 ある特殊な事情から、杏里には両親がいない。
 同居しているのは、保護観察人の小田切勇次ひとりだけだ。
 勇次はまだ20代後半の若者で、杏里とは血のつながりなど一切ない。
 職業はとある政府系機関の下っ端研究者だから、収入も多くない。
「それ、どういうこと?」
 美和が身を乗り出してきた。
「私ね、養女なの。だから、親の顔とか、全然知らないんだ」
 知るも知らないも、そもそも自分に親が存在したかどうかも疑問なのだが、詳しい事情を話すつもりはなかった。
 あまりに荒唐無稽すぎて、どうせ誰も信じてくれないからである。
「へーえ、じゃあ、私たち、似た者同士なんだね」
 美和がうれしそうに言う。
 いやあ、こんな豪邸のお嬢様と私なんて、全然似てないよ。
 そうは思ったけど、水を差すのも無粋な気がして、杏里は黙ってうなずいた。
 
 



 

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