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第3話 ずっとあなたとしたかった
#24 女友だち①
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ステージ裏の通用口を使い、校舎の裏を通って、杏里は教室に向かった。
先導してくれたのは、生徒会の上級生たちである。
まるで芸能人みたい。
早足で歩きながら、ふとそんなことを思う。
1000人が達するまで踊り続けたせいで、身体中が痛い。
でも、達成感はあった。
自分でも他人の役に立てるのだ、という自己肯定感のようなものである。
「これからの高校生活、十分気をつけて。あなたはこれで一躍人気者になったけど、あれだけ目立ってしまうと、きっとあなたのことをつけ狙うよこしまな者も現れると思う。その魅力的な躰、安売りしないで、くれぐれも自分を大切にしてね」
杏里を1ーAの教室まで導くと、生真面目そうな三つ編み少女が言った。
太い枠の眼鏡をかけたその少女は、どうやら生徒会長らしく、羊ヶ丘桜子と名乗った。
「はい、気をつけます」
礼を言うと、桜子は杏里のふくらんだ胸を指先でつつき、
「よかったら、生徒会にも入ってね。待ってるから。それにしても、このクラスの人たちがうらやましい。この先1年間も、あなたと一緒に過ごせるなんて」
頬を赤らめてそう言った。
桜子の部下みたいなほかの生徒会員たちも、その肩越しにうんうんうなずいている。
生徒会の一団が去ると、ぞろぞろクラスメートたちが入ってきた。
「お」
「きゃ」
「さっきの」
「パンチラの」
「ストリップの」
「あの子じゃん」
「かっわいいー!」
「ね、名前、なんていうんだっけ」
「アンリじゃね? グラドルみたいな名前だったから、憶えてるけど」
「笹原さんだよ」
「笹原杏里?」
「やば。俺、もう勃ってきた」
「もう、けだもの!」
「いっぺん死んだら?」
「おまえらだって濡れてるくせに。匂いでわかるぞ。発情した雌ブタの匂い」
「違うわよ! これは生理だからだよ!」
たちまち盛り上がる生徒たち。
そこに、ほかの者たちの機先を制するように進み出たのは、包帯少女の葛城美和である。
「素晴らしかったわ。笹原さん。入学式で緊張したみんなの心をほぐそうと、あの身体を張ったパフォーマンス。とてもふつうの女子高生にできることじゃない」
「いえ、それほどでも」
照れる杏里。
ただ校長に頼まれてやっただけなのだが、後半のアドリブ部分はちょっとやりすぎだったかな、と反省していた矢先だったのだ。
「ただ、あなたのこと、勘違いして言い寄ってくる馬鹿が増えないかと、それが心配。公衆便所と思い込んで、所かまわずレイプしてくるとかね」
後半の台詞は周りの生徒に向けたものらしく、声にすごみが効いている。
公衆便所。
所かまわずレイプ。
それにはある程度慣れている杏里ではある。
だが、そんな自分に対して、ここまではっきり擁護の態度を表明してくれた者は初めてだ。
「だから私、あなたのボディガードになろうと思うの。先生にお頼みして、席も隣にしていただくわ。こう見えてもね、私、空手の有段者なのよ」
美和の最後のひと言に、周囲からどよめきが起こった。
男子生徒たちは明らかにドン引きといった体である。
「あ、ありがと」
杏里は大きな眼をぱちぱちさせた。
感動で涙がにじんできた。
美和が手を差し出してくる。
握手すると、やはり美和の手のひらは、じっとり湿って少し熱かった。
「じゃ、契約成立ね。これからお昼は一緒に食べ、帰りも一緒に帰りましょ。あ、そうそう。友情の証に、きょうは私の家でプチパーティってのはどうかしら? 歓迎するわ」
「プチ、パーティ?」
「ええ。たいしたおもてなしはできないけれど、私の誠意を見せておきたいの」
「誠意?」
よくわからない。
杏里は美和の理知的な顔をじいっと見つめた。
色々気にかけてくれるのは、ありがたい。
今までの杏里は、どちらかというと、どこの学校でも”モノ扱い”だったのだ。
簡単に言えば、全校生徒のストレス解消の道具である。
杏里の内面にまで理解を示してくれたのは、これまで生体アンドロイドのみいしかいない。
初めての友だち?
そう思うと、ちょっとくすぐったい。
でも、とつい考えてしまう。
こんな頭のよさそうな子が、どうして私なんかに興味を抱いたのだろう?
先導してくれたのは、生徒会の上級生たちである。
まるで芸能人みたい。
早足で歩きながら、ふとそんなことを思う。
1000人が達するまで踊り続けたせいで、身体中が痛い。
でも、達成感はあった。
自分でも他人の役に立てるのだ、という自己肯定感のようなものである。
「これからの高校生活、十分気をつけて。あなたはこれで一躍人気者になったけど、あれだけ目立ってしまうと、きっとあなたのことをつけ狙うよこしまな者も現れると思う。その魅力的な躰、安売りしないで、くれぐれも自分を大切にしてね」
杏里を1ーAの教室まで導くと、生真面目そうな三つ編み少女が言った。
太い枠の眼鏡をかけたその少女は、どうやら生徒会長らしく、羊ヶ丘桜子と名乗った。
「はい、気をつけます」
礼を言うと、桜子は杏里のふくらんだ胸を指先でつつき、
「よかったら、生徒会にも入ってね。待ってるから。それにしても、このクラスの人たちがうらやましい。この先1年間も、あなたと一緒に過ごせるなんて」
頬を赤らめてそう言った。
桜子の部下みたいなほかの生徒会員たちも、その肩越しにうんうんうなずいている。
生徒会の一団が去ると、ぞろぞろクラスメートたちが入ってきた。
「お」
「きゃ」
「さっきの」
「パンチラの」
「ストリップの」
「あの子じゃん」
「かっわいいー!」
「ね、名前、なんていうんだっけ」
「アンリじゃね? グラドルみたいな名前だったから、憶えてるけど」
「笹原さんだよ」
「笹原杏里?」
「やば。俺、もう勃ってきた」
「もう、けだもの!」
「いっぺん死んだら?」
「おまえらだって濡れてるくせに。匂いでわかるぞ。発情した雌ブタの匂い」
「違うわよ! これは生理だからだよ!」
たちまち盛り上がる生徒たち。
そこに、ほかの者たちの機先を制するように進み出たのは、包帯少女の葛城美和である。
「素晴らしかったわ。笹原さん。入学式で緊張したみんなの心をほぐそうと、あの身体を張ったパフォーマンス。とてもふつうの女子高生にできることじゃない」
「いえ、それほどでも」
照れる杏里。
ただ校長に頼まれてやっただけなのだが、後半のアドリブ部分はちょっとやりすぎだったかな、と反省していた矢先だったのだ。
「ただ、あなたのこと、勘違いして言い寄ってくる馬鹿が増えないかと、それが心配。公衆便所と思い込んで、所かまわずレイプしてくるとかね」
後半の台詞は周りの生徒に向けたものらしく、声にすごみが効いている。
公衆便所。
所かまわずレイプ。
それにはある程度慣れている杏里ではある。
だが、そんな自分に対して、ここまではっきり擁護の態度を表明してくれた者は初めてだ。
「だから私、あなたのボディガードになろうと思うの。先生にお頼みして、席も隣にしていただくわ。こう見えてもね、私、空手の有段者なのよ」
美和の最後のひと言に、周囲からどよめきが起こった。
男子生徒たちは明らかにドン引きといった体である。
「あ、ありがと」
杏里は大きな眼をぱちぱちさせた。
感動で涙がにじんできた。
美和が手を差し出してくる。
握手すると、やはり美和の手のひらは、じっとり湿って少し熱かった。
「じゃ、契約成立ね。これからお昼は一緒に食べ、帰りも一緒に帰りましょ。あ、そうそう。友情の証に、きょうは私の家でプチパーティってのはどうかしら? 歓迎するわ」
「プチ、パーティ?」
「ええ。たいしたおもてなしはできないけれど、私の誠意を見せておきたいの」
「誠意?」
よくわからない。
杏里は美和の理知的な顔をじいっと見つめた。
色々気にかけてくれるのは、ありがたい。
今までの杏里は、どちらかというと、どこの学校でも”モノ扱い”だったのだ。
簡単に言えば、全校生徒のストレス解消の道具である。
杏里の内面にまで理解を示してくれたのは、これまで生体アンドロイドのみいしかいない。
初めての友だち?
そう思うと、ちょっとくすぐったい。
でも、とつい考えてしまう。
こんな頭のよさそうな子が、どうして私なんかに興味を抱いたのだろう?
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