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第3話 ずっとあなたとしたかった
#22 やっと入学式③
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高校の体育館は、中学のものよりも広く、また私立だけに、つくりがそこはかとなく豪華だった。
ここ清流院高校は、県下では偏差値的には上位にランキングされる進学校である。
併設の大学に進む者が約半数。
残りの半分の生徒は、国公立大や有名私大を受験する。
東大京大とまではいかないが、毎年地元の国公立大にはそこそこの数の合格者を輩出している。
そんなこともあり、体育館を埋め尽くした生徒たちは、一様に品行方正だった。
だから、さまざまな家庭環境、学力レベルの子どもたちが混在する公立中学校とは明らかに雰囲気が違う。
杏里は人種の坩堝からいきなりガチガチの神学校に投げ込まれたような、複雑な気分だった。
校長は、ここで”あれ”をやれって言ったけど、大丈夫なのだろうか?
このクソまじめな雰囲気の中で、果たしてちゃんと受けるのかしら?
まあでも、はからずも葛城美和が指摘した通り、一部の男子には注目されてるみたいだから、頑張ろう。
式の流れは、ついこの間済ませてきた卒業式と大差なく、退屈な大人たちの式辞が長々と続くだけだった。
PTA会長、地元の議員、経団連の偉い人。
恰幅のいいおじさんたちが、勝手なことをしゃべってはステージから去っていく。
やがてあの枯れ木のような校長がステージに上がり、またぞろ訓話が始まった。
早く済ませてよ。
さっさと終わらせて、肩の荷下ろしたいのに。
杏里はいい加減うんざりしている。
なのに、美和をはじめとするクラスメートたちは、神妙な顔をして微動だにせず、退屈な話に聞き入っている。
さすがみんな、受験勉強で鍛えられてるだけのことはあるなあ。
杏里は妙なところで感心した。
ストリップの一発芸で辛くも推薦入試を突破した私とは、大違いだ。
それにしてもびっくりなのは、校長の訓話の内容である。
清く正しく。
友愛の精神。
国際社会で活躍できる、高潔で有能な人材の育成。
あのエロじじいがよく言うよ。
杏里はぽかんと口を開け、そのもぐもぐと動くおちょぼ口と照明に映える禿げ頭を見つめた。
大人になるって、こういうことなんだな。
今更ながらにそう思う。
本当の自分と、他人に見られる自分。
それをあんなふうにうまく使い分けられることが、立派な大人としての第一条件なのだろう。
それに比べて私は、躰はともかく頭の中はずいぶんと子どもなのかもしれない。
感情がすぐに顔に出るし、催すとすぐオナニーに走ってしまう。
美辞麗句の詰まった校長の訓話が終わると、3年生の生徒会長だかなんだかの、新入生へ贈る言葉が始まった。
杏里の出番はこの後だ。
そろそろステージ下でスタンバイかな。
そう思った時、担任の教師らしき女性が杏里を呼びに来た。
地味なスーツに身を固めているが、妙に色気のむんむんした中年女である。
「笹原さん、もうすぐよ」
フチなし眼鏡の奥のねっとりした視線が、杏里の全身に注がれる。
杏里の手を握った女教師の手のひらは、なぜかじとっと汗ばんでいた。
歩くだけで下着の見えるスカート。
上着なのにぴっちりしすぎていて、体のラインが浮き出るブレザー。
第2ボタンまではずして深い胸の谷間をあらわにしたブラウス。
そのきわどい格好で、杏里は歩き出した。
杏里が歩を進めるたびに、えも言われぬフェロモンがさあっと周囲に広がり、どきっとしたように生徒たちが振り向いた。
ステージ下に、教師たちに紛れて並ぶと、全校生徒の好奇の視線が杏里の躰を包み込んだ。
「次は、新入生代表、1年A組、笹原杏里さんの式辞です」
3年生が式辞を終え、下手に下がると、進行役の女生徒がさわやかな声で杏里を紹介した。
来た。
来ちゃったよ。
ぐっとつばを飲み込んで、一回大きく深呼吸。
よし、行こう。
尻を振り振り、モンローウォークで段を上がる。
おお。
背後で1000人がどよめいた。
みんな、いきなりの杏里のパンチラに、かなりの衝撃を受けたに違いない。
まだだよ。
ゆっくり段を上りながら、杏里はほくそ笑む。
む みんな、スマホの準備はいい?
本番はこれからだよ!
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ここ清流院高校は、県下では偏差値的には上位にランキングされる進学校である。
併設の大学に進む者が約半数。
残りの半分の生徒は、国公立大や有名私大を受験する。
東大京大とまではいかないが、毎年地元の国公立大にはそこそこの数の合格者を輩出している。
そんなこともあり、体育館を埋め尽くした生徒たちは、一様に品行方正だった。
だから、さまざまな家庭環境、学力レベルの子どもたちが混在する公立中学校とは明らかに雰囲気が違う。
杏里は人種の坩堝からいきなりガチガチの神学校に投げ込まれたような、複雑な気分だった。
校長は、ここで”あれ”をやれって言ったけど、大丈夫なのだろうか?
このクソまじめな雰囲気の中で、果たしてちゃんと受けるのかしら?
まあでも、はからずも葛城美和が指摘した通り、一部の男子には注目されてるみたいだから、頑張ろう。
式の流れは、ついこの間済ませてきた卒業式と大差なく、退屈な大人たちの式辞が長々と続くだけだった。
PTA会長、地元の議員、経団連の偉い人。
恰幅のいいおじさんたちが、勝手なことをしゃべってはステージから去っていく。
やがてあの枯れ木のような校長がステージに上がり、またぞろ訓話が始まった。
早く済ませてよ。
さっさと終わらせて、肩の荷下ろしたいのに。
杏里はいい加減うんざりしている。
なのに、美和をはじめとするクラスメートたちは、神妙な顔をして微動だにせず、退屈な話に聞き入っている。
さすがみんな、受験勉強で鍛えられてるだけのことはあるなあ。
杏里は妙なところで感心した。
ストリップの一発芸で辛くも推薦入試を突破した私とは、大違いだ。
それにしてもびっくりなのは、校長の訓話の内容である。
清く正しく。
友愛の精神。
国際社会で活躍できる、高潔で有能な人材の育成。
あのエロじじいがよく言うよ。
杏里はぽかんと口を開け、そのもぐもぐと動くおちょぼ口と照明に映える禿げ頭を見つめた。
大人になるって、こういうことなんだな。
今更ながらにそう思う。
本当の自分と、他人に見られる自分。
それをあんなふうにうまく使い分けられることが、立派な大人としての第一条件なのだろう。
それに比べて私は、躰はともかく頭の中はずいぶんと子どもなのかもしれない。
感情がすぐに顔に出るし、催すとすぐオナニーに走ってしまう。
美辞麗句の詰まった校長の訓話が終わると、3年生の生徒会長だかなんだかの、新入生へ贈る言葉が始まった。
杏里の出番はこの後だ。
そろそろステージ下でスタンバイかな。
そう思った時、担任の教師らしき女性が杏里を呼びに来た。
地味なスーツに身を固めているが、妙に色気のむんむんした中年女である。
「笹原さん、もうすぐよ」
フチなし眼鏡の奥のねっとりした視線が、杏里の全身に注がれる。
杏里の手を握った女教師の手のひらは、なぜかじとっと汗ばんでいた。
歩くだけで下着の見えるスカート。
上着なのにぴっちりしすぎていて、体のラインが浮き出るブレザー。
第2ボタンまではずして深い胸の谷間をあらわにしたブラウス。
そのきわどい格好で、杏里は歩き出した。
杏里が歩を進めるたびに、えも言われぬフェロモンがさあっと周囲に広がり、どきっとしたように生徒たちが振り向いた。
ステージ下に、教師たちに紛れて並ぶと、全校生徒の好奇の視線が杏里の躰を包み込んだ。
「次は、新入生代表、1年A組、笹原杏里さんの式辞です」
3年生が式辞を終え、下手に下がると、進行役の女生徒がさわやかな声で杏里を紹介した。
来た。
来ちゃったよ。
ぐっとつばを飲み込んで、一回大きく深呼吸。
よし、行こう。
尻を振り振り、モンローウォークで段を上がる。
おお。
背後で1000人がどよめいた。
みんな、いきなりの杏里のパンチラに、かなりの衝撃を受けたに違いない。
まだだよ。
ゆっくり段を上りながら、杏里はほくそ笑む。
む みんな、スマホの準備はいい?
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