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第3話 ずっとあなたとしたかった

#21 やっと入学式②

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 正門をくぐり、玄関ロビーに入ると、掲示板の前に人だかりができていた。
 なんだろう?
 近寄ってみると、どうやらクラス発表の掲示らしい。
 近づく杏里に気づいて、男子生徒の間から、声にならぬどよめきが起こった。
 ブレザーの上着を着ていてさえも、杏里のムチムチボディは隠しようがない。
 しかもスカートが超がつくほど短いから、どうしても目立ってしまう。
 ミニスカ女子高生は世の中に掃いて捨てるほど生息するが、その実鑑賞に値する美脚の持ち主は1万人にひとりといわれている。
 その意味で、杏里は紛れもなく希少種に分類されるべきエロい脚の持ち主だった。
 しかも脚だけではない。
 きゅっと持ち上がったヒップのカッコよさときたら、もう犯罪レベルと断言できるほどだ。
 それに杏里はいい匂いがする。
 香水をつけているわけでもないのに、全身から濃厚な雌フェロモンが立ち上っている。
 麝香とミルクを混ぜ合わせ、そこにシャンプーの香りを足したような、微妙に有機的な匂いである。
 ひと嗅ぎするだけで性欲に火がともる、そんな悩ましい香りなのだ。
 だから歩けば自然に人混みは割れる。
 モーゼの十戒のように、ふたつに割れた生徒の列の間を杏里は進んで掲示板の前に立った。
 指でなぞると、名前はすぐに見つかった。
 1年A組である。
 出席番号は7番。
 いいじゃない。ラッキーセブンだよ。
 クラスを確かめ、1-Aの下駄箱に向かいかけた時だった。
「あなたもA組?」
 ふいに声をかけられた。
 顔を上げると、頭に包帯を巻いた女生徒が、興味津々といった表情で、杏里を見つめている。
「うん。ひょっとして、あなたも?」
 まばたきして、杏里は相手の頭の包帯に目をやった。
 少女は頭髪を剃っているらしく、ターバンみたいに包帯で頭部を隠している。
 それ以外は、整った顔をした上品な雰囲気の生徒である。
 なんか三蔵法師みたい。
 以前DVDで見た古いドラマを思い出して、杏里は思った。
 それは美人女優が三蔵法師役をやった西遊記で、その三蔵法師がちょうどこんな雰囲気だったのだ。
「わたし、葛城美和。よろしくね」
 少女が右手を差し出した。
 握手しようとでもいうのだろうか。
「笹原杏里」
 短く言って、おずおずと少女の手を握る。
 少女の手のひらは、なぜかかすかに湿っていて、杏里の手より熱かった。
「お近づきのしるしに、杏里って、呼んでいい?」
 澄んだ目をして、少女が微笑む。
「あ、はい」
「ふふ、じゃ、そうさせてもらうよ。わたしのことは美和でよろしく。間違っても葛城さんなんて呼ばないで」
 利発そうな子だ。
 剃髪の美人女優といった面持ちの少女の顔を見返して、杏里は思った。
 でも、お近づきのしるしって、なんで私なんかに?


「うらやましいな。杏里って」
 並んで歩き出すと、笑いを含んだ口調で美和と名乗った少女が話しかけてきた。
「え? どうして?」
 意味が分からず聞き返すと、
「だって、男子はみんな杏里のほうを見ているよ。杏里、モテすぎ」
 いたずらっぽいまなざしで睨まれた。
「あー、これはそういうことじゃないと思う」
 あいまいに笑う杏里。
「それは単に、私の外見があれだから」
 靴を履き替えようと腰をかがめると、すでに杏里の後ろは黒山の人だかりだ。
 みんな、ひと目パンチラを拝もうと、スマホを構えている始末である。
 これではほかの生徒の邪魔になって仕方がない。
 野次馬に向き直ると、観念して杏里は言った。
「あの、みなさん、ここでの撮影は困ります。どうしてもという人は、入学式の会場でお願いします」

 

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