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第3話 ずっとあなたとしたかった

#15 お引越し③

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「そ、そんな」
 杏里はごくりと唾を飲み込んだ。
 サッシ窓は開いていたし、ベランダには足跡もあった。
 誰かが入ってきたことは間違いないのだ。
「警察呼ぶ? 初日からそれじゃ、心配でしょ?」
 涼が気を利かせてそういってくれたが、杏里はきっぱり首を横に振った。
「いえ。大丈夫です。今後、戸締りには気を付けますから」
「そうだね。ちなみに、わかってるとは思うけど、ベランダに下着は干さないほうがいい。若い女性のひとり暮らしだと宣伝するようなものだからね。あ、それと、集合ポストの名札も表札もNGだよ。君が204号室に住んでいる痕跡はできるだけ消しておくこと」
「わかりました。ありがとうございます」
 礼を言って部屋に戻ると、みいが後ろからそっと抱きついてきた。
「みい、心配です。管理人さんはああ言ってましたけど、ここに杏里さまが住んでることは、少なくとも謎の侵入者にはばれてるってことですよね? その対策を考えておかないと」
「そうだね」
 杏里はみいに向き直ると、その温かい体を抱きしめて、肩に頬を乗せた。
「本当はみいも一緒に暮らしてくれると心強いんだけど、さすがにそれは無理だもんね」
「はい…。みいもそうしたいです。でも…」
 みいのあどけない顔が悲しみに歪んだ。
 そのサラサラの髪の毛を撫でながら、杏里は小さく笑った。
「冗談だよ。みいが紗彩さんのペットロイドだってことは、十分わかってるって。きょうもこれから、紗彩さんとおでかけなんでしょ?」
 それはここへ来る前に紗彩に聞いたことだった。
 夕方からみいを連れてオペラの観劇に行く予定だから、それまでにみいを返してほしいというのである。
 オペラの観劇というのが、いかにも上流階級の紗彩らしい。
「みいは、オペラなんかより、杏里さまと一緒のほうが楽しいのですけど」
「だめだよ。そんなこと言っちゃ。紗彩さんは、みいを一人前の人間以上に育てようとしてるんだから。オペラもきっと、その情操教育の一環なんだよ」
「みいはただのペットですよ。ペットに情操教育なんて要りますか?」
「そう言わないで。ほら、そろそろ帰る時間でしょ」
 最後に熱いキスを交わし、お互いの舌を痺れるほど貪ってから、階下に降りた。
 玄関でみいを見送り、何とはなしに集合ポストに目をやった時である。
 ポストのうちのひとつが開きっぱなしになっていることに気がついて、杏里は眉をひそめた。
 半開きになった蓋には、204の文字。
「うちじゃない」
 おそるおそる近づき、中をのぞくと写真のようなものが入っていた。
「え?」
 手に取るなり、絶句する杏里。
 全裸の少女が絡み合い、口でお互いの乳房を吸い合っている。
 背景はお風呂場。
 どこかで見たシーン。
 もなにも、これはついさっきの杏里とみいの姿ではないか。
 震える指で裏返すと、サインペンで書き殴られた真っ赤な文字が目に飛び込んできた。
 そこには、こうあった。

 -今度こそ犯してやる。この変態女めがー


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