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第3話 ずっとあなたとしたかった
#14 お引越し②
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1階に下りて管理人室をのぞくなり、杏里の表情が明るくなった。
来た時はハナコばあさんだったのだが、当番が、あの車椅子の青年、宇津木涼に代わっている。
「おのう、お久しぶりです」
青年がこっちに気づくと、頬を赤らめて、杏里はあたまを下げた。
そんな杏里を、横から不思議そうにみいが見た。
「きょうが引っ越しだったんだね」
青年が笑みを返してきた。
「何かお手伝いできること、あるかな? といっても、この身体じゃ、たいしたことはできないけどね」
自分の乗る車椅子にちらっと眼をやって、自嘲気味に言う。
「あ、それは大丈夫です。荷物は運び終わって、あとは荷ほどきだけですから」
気を遣わせないようにと思い、急いで杏里は首を横に振った。
だが、あの事だけは聞いておかねばならない。
「えっと、用というのは、そのことじゃなくって…」
みいと風呂場でじゃれあっていたことはカットして、杏里は事の次第を説明し始めた。
聞いているうちにも、青年の表情が次第に険しくなる。
やがて、すべてを聞き終えると、
「おかしいなあ」
眼鏡の奥の目を光らせて、そうつぶやいた。
「おかしいって、どういうことですか?」
先に口をはさんだのは、それまで黙っていたみいだった。
「あ、君は杏里ちゃんのお友達?」
そこで初めてみいの存在に気づいたように、青年がみいを見た。
「はい、ペットロイドのみいです」
いきなり正体を明かそうとするみい。
「ペットロイド?」
聞きなれぬ単語に、青年の眉間にしわが寄る。
「あ、いえ、こっちのことです。それより、何がおかしいんですか?」
杏里があわてて会話の主導権を取り戻すと、顎に手を当て、妙に深刻な声で青年が答えた。
「杏里ちゃん、君の話だと、隣のベランダから誰かが侵入してきた形跡があるっていうんだよね? でも、それはありえないんだよ。なぜって、君の部屋の隣の203号室は、ずっと空き家になってるんだから。鍵はこの管理人室にしかないし、誰も中に入れるはずないんだけどな」
来た時はハナコばあさんだったのだが、当番が、あの車椅子の青年、宇津木涼に代わっている。
「おのう、お久しぶりです」
青年がこっちに気づくと、頬を赤らめて、杏里はあたまを下げた。
そんな杏里を、横から不思議そうにみいが見た。
「きょうが引っ越しだったんだね」
青年が笑みを返してきた。
「何かお手伝いできること、あるかな? といっても、この身体じゃ、たいしたことはできないけどね」
自分の乗る車椅子にちらっと眼をやって、自嘲気味に言う。
「あ、それは大丈夫です。荷物は運び終わって、あとは荷ほどきだけですから」
気を遣わせないようにと思い、急いで杏里は首を横に振った。
だが、あの事だけは聞いておかねばならない。
「えっと、用というのは、そのことじゃなくって…」
みいと風呂場でじゃれあっていたことはカットして、杏里は事の次第を説明し始めた。
聞いているうちにも、青年の表情が次第に険しくなる。
やがて、すべてを聞き終えると、
「おかしいなあ」
眼鏡の奥の目を光らせて、そうつぶやいた。
「おかしいって、どういうことですか?」
先に口をはさんだのは、それまで黙っていたみいだった。
「あ、君は杏里ちゃんのお友達?」
そこで初めてみいの存在に気づいたように、青年がみいを見た。
「はい、ペットロイドのみいです」
いきなり正体を明かそうとするみい。
「ペットロイド?」
聞きなれぬ単語に、青年の眉間にしわが寄る。
「あ、いえ、こっちのことです。それより、何がおかしいんですか?」
杏里があわてて会話の主導権を取り戻すと、顎に手を当て、妙に深刻な声で青年が答えた。
「杏里ちゃん、君の話だと、隣のベランダから誰かが侵入してきた形跡があるっていうんだよね? でも、それはありえないんだよ。なぜって、君の部屋の隣の203号室は、ずっと空き家になってるんだから。鍵はこの管理人室にしかないし、誰も中に入れるはずないんだけどな」
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