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第3話 ずっとあなたとしたかった
#3 消えた死体
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「というわけなのよねえ。いったい、何がどうなってるんだか」
杏里はこたつに入って、ミカンをむいている。
正面に座っているのは、おさげ髪のみいだ。
みいはもこもこのセーターを着こみ、まるで白いうさぎのようだ。
杏里が家に帰ると、やがてみいが訪ねてきて、ふたりミカンを食べ始めたというわけである。
入試の結果報告もそこそこに、杏里が語ったのは、例の痴漢事件のあらましだ。
あの後、駅員や駆けつけてきた警官が電車の下を確認して、意外な事実が判明したのだった。
巻き込まれたはずの死体がなくなっていたのだ。
最後に見た時、確かに腕が一本、飛び出してたんだけどなあ。
いつの間に、消えちゃったんだろう?
事情を聞かれる間も、杏里の脳裏にはその記憶がこびりついていた。
「線路に飛び降りて逃げる痴漢って、最近多いですものね。でも、轢かれたのに死体がないって、どういうことでしょう? 実はまだ生きてて、血だらけになりながら、逃げ切ったとか?」
「うん、それは警察の人も言ってた。血の跡がさ、トンネルの中に点々と続いてたんだって。今、それを警察犬使って、追ってるところ」
「ひゃあ、怖いですね。杏里さまのところに、化けて出ないといいですけど」
「ちょっとお、縁起でもないこと言わないでよ。せっかく入試が終わったってのに、そんなの怖すぎだよ」
「あ、結果発表、明日でしたっけ?」
みいが瞳を輝かせた。
「うん。明日の夕方までに、速達で届くって。たぶん大丈夫だと思うよ。みいと特訓したあの踊り、効果てきめんだったから」
「それにしても、入試の面接でストリップを披露する受験生なんて、杏里さまくらいのものですよね。普通の子がやったら、警察呼ばれると思います」
それはそうだろう、と思う。
あれは、全身フェロモンの杏里だからこそ、成し得る技なのだ。
相手が不信感を抱く余裕すら与えないエロさ。
それがなければただの間抜けか色情狂だ。
「ねえ、合格だったらふたりでお祝いしない?」
「はい、みいもそう思ってました」
「何がいいか、考えとくね」
「みいは、おいしいもの、食べに行きたいです」
「相変らず食いしん坊だなあ、みいは」
ペットのくせに、とは言わない。
みいは今や、杏里の大切な親友なのである。
「あ、そうだ。ひとつ、みいに言っておかなきゃなんないことがあるの」
「え? なんですか?」
「高校生になったら、私、ひとり暮らし、始めようと思うの。特待生合格だったら許してやるって、勇次も言ってくれてるし」
小田切勇次は、孤児である杏里の後見人だ。
ひとつ屋根の下で暮らしているが、最近仕事が忙しくて、滅多に家にいない。
「わあ、いいんだあ。みい、遊びに行ってもいいですか?」
みいが、まるで我が事のように、うれしそうにニコニコした。
「もちろんよ。むしろ大歓迎。引っ越しとか模様替えとか、手伝ってよね」
「はあい」
さっきまでの嫌な気分が、薄らいできた。
「そうと決まったら」
杏里は熱を帯びた目でみいを見た。
「久しぶりに、一緒にお風呂にに入らない?」
杏里はこたつに入って、ミカンをむいている。
正面に座っているのは、おさげ髪のみいだ。
みいはもこもこのセーターを着こみ、まるで白いうさぎのようだ。
杏里が家に帰ると、やがてみいが訪ねてきて、ふたりミカンを食べ始めたというわけである。
入試の結果報告もそこそこに、杏里が語ったのは、例の痴漢事件のあらましだ。
あの後、駅員や駆けつけてきた警官が電車の下を確認して、意外な事実が判明したのだった。
巻き込まれたはずの死体がなくなっていたのだ。
最後に見た時、確かに腕が一本、飛び出してたんだけどなあ。
いつの間に、消えちゃったんだろう?
事情を聞かれる間も、杏里の脳裏にはその記憶がこびりついていた。
「線路に飛び降りて逃げる痴漢って、最近多いですものね。でも、轢かれたのに死体がないって、どういうことでしょう? 実はまだ生きてて、血だらけになりながら、逃げ切ったとか?」
「うん、それは警察の人も言ってた。血の跡がさ、トンネルの中に点々と続いてたんだって。今、それを警察犬使って、追ってるところ」
「ひゃあ、怖いですね。杏里さまのところに、化けて出ないといいですけど」
「ちょっとお、縁起でもないこと言わないでよ。せっかく入試が終わったってのに、そんなの怖すぎだよ」
「あ、結果発表、明日でしたっけ?」
みいが瞳を輝かせた。
「うん。明日の夕方までに、速達で届くって。たぶん大丈夫だと思うよ。みいと特訓したあの踊り、効果てきめんだったから」
「それにしても、入試の面接でストリップを披露する受験生なんて、杏里さまくらいのものですよね。普通の子がやったら、警察呼ばれると思います」
それはそうだろう、と思う。
あれは、全身フェロモンの杏里だからこそ、成し得る技なのだ。
相手が不信感を抱く余裕すら与えないエロさ。
それがなければただの間抜けか色情狂だ。
「ねえ、合格だったらふたりでお祝いしない?」
「はい、みいもそう思ってました」
「何がいいか、考えとくね」
「みいは、おいしいもの、食べに行きたいです」
「相変らず食いしん坊だなあ、みいは」
ペットのくせに、とは言わない。
みいは今や、杏里の大切な親友なのである。
「あ、そうだ。ひとつ、みいに言っておかなきゃなんないことがあるの」
「え? なんですか?」
「高校生になったら、私、ひとり暮らし、始めようと思うの。特待生合格だったら許してやるって、勇次も言ってくれてるし」
小田切勇次は、孤児である杏里の後見人だ。
ひとつ屋根の下で暮らしているが、最近仕事が忙しくて、滅多に家にいない。
「わあ、いいんだあ。みい、遊びに行ってもいいですか?」
みいが、まるで我が事のように、うれしそうにニコニコした。
「もちろんよ。むしろ大歓迎。引っ越しとか模様替えとか、手伝ってよね」
「はあい」
さっきまでの嫌な気分が、薄らいできた。
「そうと決まったら」
杏里は熱を帯びた目でみいを見た。
「久しぶりに、一緒にお風呂にに入らない?」
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