上 下
163 / 475
第3話 ずっとあなたとしたかった

#3 消えた死体

しおりを挟む
「というわけなのよねえ。いったい、何がどうなってるんだか」
 杏里はこたつに入って、ミカンをむいている。
 正面に座っているのは、おさげ髪のみいだ。
 みいはもこもこのセーターを着こみ、まるで白いうさぎのようだ。
 杏里が家に帰ると、やがてみいが訪ねてきて、ふたりミカンを食べ始めたというわけである。
 入試の結果報告もそこそこに、杏里が語ったのは、例の痴漢事件のあらましだ。
 あの後、駅員や駆けつけてきた警官が電車の下を確認して、意外な事実が判明したのだった。
 巻き込まれたはずの死体がなくなっていたのだ。
 最後に見た時、確かに腕が一本、飛び出してたんだけどなあ。
 いつの間に、消えちゃったんだろう?
 事情を聞かれる間も、杏里の脳裏にはその記憶がこびりついていた。
「線路に飛び降りて逃げる痴漢って、最近多いですものね。でも、轢かれたのに死体がないって、どういうことでしょう? 実はまだ生きてて、血だらけになりながら、逃げ切ったとか?」
「うん、それは警察の人も言ってた。血の跡がさ、トンネルの中に点々と続いてたんだって。今、それを警察犬使って、追ってるところ」
「ひゃあ、怖いですね。杏里さまのところに、化けて出ないといいですけど」
「ちょっとお、縁起でもないこと言わないでよ。せっかく入試が終わったってのに、そんなの怖すぎだよ」
「あ、結果発表、明日でしたっけ?」
 みいが瞳を輝かせた。
「うん。明日の夕方までに、速達で届くって。たぶん大丈夫だと思うよ。みいと特訓したあの踊り、効果てきめんだったから」
「それにしても、入試の面接でストリップを披露する受験生なんて、杏里さまくらいのものですよね。普通の子がやったら、警察呼ばれると思います」
 それはそうだろう、と思う。
 あれは、全身フェロモンの杏里だからこそ、成し得る技なのだ。
 相手が不信感を抱く余裕すら与えないエロさ。
 それがなければただの間抜けか色情狂だ。
「ねえ、合格だったらふたりでお祝いしない?」
「はい、みいもそう思ってました」
「何がいいか、考えとくね」
「みいは、おいしいもの、食べに行きたいです」
「相変らず食いしん坊だなあ、みいは」
 ペットのくせに、とは言わない。
 みいは今や、杏里の大切な親友なのである。
「あ、そうだ。ひとつ、みいに言っておかなきゃなんないことがあるの」
「え? なんですか?」
「高校生になったら、私、ひとり暮らし、始めようと思うの。特待生合格だったら許してやるって、勇次も言ってくれてるし」
 小田切勇次は、孤児である杏里の後見人だ。
 ひとつ屋根の下で暮らしているが、最近仕事が忙しくて、滅多に家にいない。
「わあ、いいんだあ。みい、遊びに行ってもいいですか?」
 みいが、まるで我が事のように、うれしそうにニコニコした。
「もちろんよ。むしろ大歓迎。引っ越しとか模様替えとか、手伝ってよね」
「はあい」
 さっきまでの嫌な気分が、薄らいできた。
「そうと決まったら」
 杏里は熱を帯びた目でみいを見た。
「久しぶりに、一緒にお風呂にに入らない?」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

催眠術師

廣瀬純一
大衆娯楽
ある男が催眠術にかかって性転換する話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

処理中です...