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第2話 レズふたり旅
#123 宴の後
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パンパンパン!
耳をつんざく音が鳴り響き、杏里はびくんと身をこわばらせた。
薄目を開けると、天井から紙吹雪みたいなものが落ちてくるのが見えた。
何、これ?
まさか、クラッカー?
「おつかれさまでしたーっ!」
「おつかれー!」
「おつー!」
清や麗奈の声がする。
なんだかみんな、妙に盛り上がっているようだ。
ベッドの上にむっくり体を起こすと、部屋の入口から、そろりそろりと場違いに明るい色彩が入ってくるのが目に入った。
上品な着物に身を包んだ、スタイル抜群の美女である。
「紗彩さん…?」
杏里はあんぐりと口を開けた。
信じられない。
どうして、紗彩さんがこんなところに…?
と、更に信じがたいことに、その後ろから、
「いやあ、死人の役って、けっこう大変なんだなあ」
頭を掻きながら入ってきたのは、土蔵で死体になっているはずの源太である。
「みなさん、ご協力、本当にありがとうございました」
一同を見渡して、満面の笑顔で紗彩が言った。
鈴が転がるような、品のいい美声である。
「おかげで無事、クランクアップできましたよ。きっと素敵なロードムービーになると思います」
「あのう…」
自分が潮を吹きたての全裸であることも忘れて、杏里は紗彩に声をかけた。
「クランクアップって、何のことですか? それに、紗彩さん、どうしてここに? だいたい、源太さんは、死んだんじゃなかったんですか? ”ケチンボ”のダイイングメッセージを残して」
「あら、杏里ちゃん、お久しぶり」
杏里のきょとんとした顔を見て、紗彩がくすくす笑った。
「あなたの推理、立派でしたよ。存分に笑わせてもらいました。みいとの『レズふたり旅』、どうでしたか?」
「そりゃ、楽しかったですけど、あの、私、何が何だか、わけがわからないんです」
「これは映画の一部なんだよ」
そこに、清が横から口をはさんだ。
「紗彩さんは、君たちの旅行の一部始終を、カメラに収めてたのさ。それで、僕らは、その最終章のエキストラだったっていうわけ」
映画…?
杏里は茫然となった。
旅の一部始終が、こっそり撮影されていた?
でも、カメラはどこ?
そんなもの、どこにも見当たらなかったけど。
と、杏里の心を見透かしたように、紗彩が言った。
「撮影用のカメラはね、ほら、ここ」
指さした先にいるのは、みいである。
みいは畳の上に裸でぺたんと座り、不思議そうにみんなの様子を眺めまわしている。
「この子の眼が、カメラになってるの」
え?
杏里は絶句した。
みいには、そんな機能も備わっていたのか。
てことは、みいの視点から見た画像が、映画になってる…?
うは。
じゃあ、私の悪行、みんな映ってるじゃない!
「心配になって、時々様子を見てたけど、ふたりとものびのびして、楽しそうで、ほんと、何よりだったわ」
紗彩が裸のみいを抱き寄せて、髪をなぜながらにっこり微笑んだ。
そういえばあの時も、みい、誰かに見られてる気がするって、言ってたっけ。
杏里はふと、伊豆のコテージを出発する朝のことを思い出した。
つまり、あれはつかず離れず私たちを尾行していた紗彩さんだったというわけか。
「さ、では、みなさん、それぞれ服を着たら1階に。打ち上げパーティーの準備がしてありますから、今夜は思いっきり盛り上がりましょ」
「おお」
「さっすが紗彩さん」
一同の間から歓声が上がった。
「そういえば、土砂崩れは? まかないの人たち、土砂崩れで来れないんじゃなかったんですか?」
杏里の最後の疑問に答えたのは、麗奈だった。
「ふふ。まだ信じてたの? あんなの、ぜーんぶ、うそ。杏里ちゃん、あなたに探偵させるためにね、みんなで嵐の山荘をでっち上げただけ」
「そうなんだ」
杏里はため息をついた。
なんて大掛かりな”どっきり”なんだろう。
もう、紗彩さんの考えることには、私、ついていけないんですけど。
耳をつんざく音が鳴り響き、杏里はびくんと身をこわばらせた。
薄目を開けると、天井から紙吹雪みたいなものが落ちてくるのが見えた。
何、これ?
まさか、クラッカー?
「おつかれさまでしたーっ!」
「おつかれー!」
「おつー!」
清や麗奈の声がする。
なんだかみんな、妙に盛り上がっているようだ。
ベッドの上にむっくり体を起こすと、部屋の入口から、そろりそろりと場違いに明るい色彩が入ってくるのが目に入った。
上品な着物に身を包んだ、スタイル抜群の美女である。
「紗彩さん…?」
杏里はあんぐりと口を開けた。
信じられない。
どうして、紗彩さんがこんなところに…?
と、更に信じがたいことに、その後ろから、
「いやあ、死人の役って、けっこう大変なんだなあ」
頭を掻きながら入ってきたのは、土蔵で死体になっているはずの源太である。
「みなさん、ご協力、本当にありがとうございました」
一同を見渡して、満面の笑顔で紗彩が言った。
鈴が転がるような、品のいい美声である。
「おかげで無事、クランクアップできましたよ。きっと素敵なロードムービーになると思います」
「あのう…」
自分が潮を吹きたての全裸であることも忘れて、杏里は紗彩に声をかけた。
「クランクアップって、何のことですか? それに、紗彩さん、どうしてここに? だいたい、源太さんは、死んだんじゃなかったんですか? ”ケチンボ”のダイイングメッセージを残して」
「あら、杏里ちゃん、お久しぶり」
杏里のきょとんとした顔を見て、紗彩がくすくす笑った。
「あなたの推理、立派でしたよ。存分に笑わせてもらいました。みいとの『レズふたり旅』、どうでしたか?」
「そりゃ、楽しかったですけど、あの、私、何が何だか、わけがわからないんです」
「これは映画の一部なんだよ」
そこに、清が横から口をはさんだ。
「紗彩さんは、君たちの旅行の一部始終を、カメラに収めてたのさ。それで、僕らは、その最終章のエキストラだったっていうわけ」
映画…?
杏里は茫然となった。
旅の一部始終が、こっそり撮影されていた?
でも、カメラはどこ?
そんなもの、どこにも見当たらなかったけど。
と、杏里の心を見透かしたように、紗彩が言った。
「撮影用のカメラはね、ほら、ここ」
指さした先にいるのは、みいである。
みいは畳の上に裸でぺたんと座り、不思議そうにみんなの様子を眺めまわしている。
「この子の眼が、カメラになってるの」
え?
杏里は絶句した。
みいには、そんな機能も備わっていたのか。
てことは、みいの視点から見た画像が、映画になってる…?
うは。
じゃあ、私の悪行、みんな映ってるじゃない!
「心配になって、時々様子を見てたけど、ふたりとものびのびして、楽しそうで、ほんと、何よりだったわ」
紗彩が裸のみいを抱き寄せて、髪をなぜながらにっこり微笑んだ。
そういえばあの時も、みい、誰かに見られてる気がするって、言ってたっけ。
杏里はふと、伊豆のコテージを出発する朝のことを思い出した。
つまり、あれはつかず離れず私たちを尾行していた紗彩さんだったというわけか。
「さ、では、みなさん、それぞれ服を着たら1階に。打ち上げパーティーの準備がしてありますから、今夜は思いっきり盛り上がりましょ」
「おお」
「さっすが紗彩さん」
一同の間から歓声が上がった。
「そういえば、土砂崩れは? まかないの人たち、土砂崩れで来れないんじゃなかったんですか?」
杏里の最後の疑問に答えたのは、麗奈だった。
「ふふ。まだ信じてたの? あんなの、ぜーんぶ、うそ。杏里ちゃん、あなたに探偵させるためにね、みんなで嵐の山荘をでっち上げただけ」
「そうなんだ」
杏里はため息をついた。
なんて大掛かりな”どっきり”なんだろう。
もう、紗彩さんの考えることには、私、ついていけないんですけど。
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