上 下
159 / 475
第2話 レズふたり旅

#123 宴の後

しおりを挟む
 パンパンパン!
 耳をつんざく音が鳴り響き、杏里はびくんと身をこわばらせた。
 薄目を開けると、天井から紙吹雪みたいなものが落ちてくるのが見えた。
 何、これ?
 まさか、クラッカー?
「おつかれさまでしたーっ!」
「おつかれー!」
「おつー!」
 清や麗奈の声がする。
 なんだかみんな、妙に盛り上がっているようだ。
 ベッドの上にむっくり体を起こすと、部屋の入口から、そろりそろりと場違いに明るい色彩が入ってくるのが目に入った。
 上品な着物に身を包んだ、スタイル抜群の美女である。
「紗彩さん…?」
 杏里はあんぐりと口を開けた。
 信じられない。
 どうして、紗彩さんがこんなところに…?
 と、更に信じがたいことに、その後ろから、
「いやあ、死人の役って、けっこう大変なんだなあ」
 頭を掻きながら入ってきたのは、土蔵で死体になっているはずの源太である。
「みなさん、ご協力、本当にありがとうございました」
 一同を見渡して、満面の笑顔で紗彩が言った。
 鈴が転がるような、品のいい美声である。
「おかげで無事、クランクアップできましたよ。きっと素敵なロードムービーになると思います」
「あのう…」
 自分が潮を吹きたての全裸であることも忘れて、杏里は紗彩に声をかけた。
「クランクアップって、何のことですか? それに、紗彩さん、どうしてここに? だいたい、源太さんは、死んだんじゃなかったんですか? ”ケチンボ”のダイイングメッセージを残して」
「あら、杏里ちゃん、お久しぶり」
 杏里のきょとんとした顔を見て、紗彩がくすくす笑った。
「あなたの推理、立派でしたよ。存分に笑わせてもらいました。みいとの『レズふたり旅』、どうでしたか?」
「そりゃ、楽しかったですけど、あの、私、何が何だか、わけがわからないんです」
「これは映画の一部なんだよ」
 そこに、清が横から口をはさんだ。
「紗彩さんは、君たちの旅行の一部始終を、カメラに収めてたのさ。それで、僕らは、その最終章のエキストラだったっていうわけ」
 映画…?
 杏里は茫然となった。
 旅の一部始終が、こっそり撮影されていた?
 でも、カメラはどこ?
 そんなもの、どこにも見当たらなかったけど。
 と、杏里の心を見透かしたように、紗彩が言った。
「撮影用のカメラはね、ほら、ここ」
 指さした先にいるのは、みいである。
 みいは畳の上に裸でぺたんと座り、不思議そうにみんなの様子を眺めまわしている。
「この子の眼が、カメラになってるの」
 え?
 杏里は絶句した。
 みいには、そんな機能も備わっていたのか。
 てことは、みいの視点から見た画像が、映画になってる…?
 うは。
 じゃあ、私の悪行、みんな映ってるじゃない!
「心配になって、時々様子を見てたけど、ふたりとものびのびして、楽しそうで、ほんと、何よりだったわ」
 紗彩が裸のみいを抱き寄せて、髪をなぜながらにっこり微笑んだ。
 そういえばあの時も、みい、誰かに見られてる気がするって、言ってたっけ。
 杏里はふと、伊豆のコテージを出発する朝のことを思い出した。
 つまり、あれはつかず離れず私たちを尾行していた紗彩さんだったというわけか。
「さ、では、みなさん、それぞれ服を着たら1階に。打ち上げパーティーの準備がしてありますから、今夜は思いっきり盛り上がりましょ」
「おお」
「さっすが紗彩さん」
 一同の間から歓声が上がった。
「そういえば、土砂崩れは? まかないの人たち、土砂崩れで来れないんじゃなかったんですか?」
 杏里の最後の疑問に答えたのは、麗奈だった。
「ふふ。まだ信じてたの? あんなの、ぜーんぶ、うそ。杏里ちゃん、あなたに探偵させるためにね、みんなで嵐の山荘をでっち上げただけ」 
「そうなんだ」
 杏里はため息をついた。
 なんて大掛かりな”どっきり”なんだろう。
 もう、紗彩さんの考えることには、私、ついていけないんですけど。


 

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

声劇・シチュボ台本たち

ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。 声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。 使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります) 自作発言・過度な改変は許可していません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

処理中です...