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第2話 レズふたり旅
#113 ビッチ探偵杏里⑪
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「あ、杏里ちゃん、それに、みいちゃんも」
母屋に戻るなり、清がそう声をかけてきた。
「おばあちゃんたちが、夕食の準備、手伝ってくれないかって。ほら、崖崩れで、まかないの人たちが来れなくなっちゃってるだろ? 年寄りふたりで8人分の料理つくるのは、とても無理だからって」
それはそうだろう。
それに、渡りに船とはのこのことだ。
殺人事件を解明したのはいいけれど、仕上げまではまだ遠い。
ここは、何かで気を紛らわせておかないと…。
「いいですよ。どうせ私たちもひまですから」
ふたつ返事で引き受けて厨房に顔を出すと、すでにエプロン姿の麗奈と篠田が何かの作業の真っ最中だった。
「ふたりを呼んできたよ。手伝ってくれるって」
「おなごの加勢は心強いのう。じゃ、ふたりはキャベツの千切りを」
老婆の片割れに渡されたエプロンを腰に巻き、まな板の前に立つ。
「杏里ちゃん、似合うね。裸エプロンなら、なおグッドかも」
だし汁をかき混ぜていた麗奈が、杏里のエプロン姿を見て、意味ありげににやにや笑う。
「またまた麗奈さんったら、そんなエッチなこと言って」
軽くいなして包丁を握ったのはいいけれど、杏里はすぐにとてつもなく不器用な自分に絶望した。
みいが手慣れた所作でキャベツを刻んでいくのに反比例して、杏里の刻んだものは恐ろしく不ぞろいだ。
「あー、杏里ちゃんは、それ、向いてないかも」
さっそく清に気づかれ、
「いいよ。僕とかわろうか。ここでたまねぎの皮、剥いててよ」
と、持ち場を交替させられた。
「あ、はい」
屈辱に頬を赤らめ、しかたなくたまねぎと格闘する。
仕方ないよ。私、家庭科、ダメな人だもの。
たまねぎが目に沁みて涙が出るのか、何もできない自分が情けなくて涙が出るのか、よくわからない。
が、没頭していると、なんとか5つほど剥き終えることができた。
「おお、ちゃんと剥けたじゃない。えらいえらい」
麗奈が変な誉め方をして、杏里にウインクしてみせる。
「じゃ、みいちゃん、今度はたまねぎ切ってね。杏里ちゃんは、そうねえ、枝豆を剥いてもらうのがいいかしら」
「任せてください」
皮むきくらいならなんとか。
少しだけ自信を取り戻し、エプロンを押し出す巨乳を張った時、
「あ、その前に、手をちゃんと洗おうよ。たまねぎの匂いが、豆についちゃうでしょ?」
清に指摘され、またしてもへこむ杏里。
家では同居人小田切のために料理もするのだが、毎日冷凍食品かカレーなので、調理スキルが上がらないのだ。
みんなで2時間ほど働くと、ようやく料理が形をなしてきた。
手分けして食堂に運び、長テーブルの上に食器や皿を並べていく。
「みんな。よくがんばったのう」
「ほんに助かりましたわ」
老婆たちにねぎらわれ、照れながら席に着く5人。
宣言するなら今だ。
いただきます、の体勢に入ったメンバーを見渡して、杏里はかしこまった口調で言った。
「突然ですけど、先にひと言いわせてくださいな」
「え? どうしたの? いきなり?」
清と麗奈が、驚いた顔で杏里を見る。
篠田はなぜか、ちらりとみいに視線を走らせただけだ。
「今晩、10時過ぎたら、私たちのお部屋には、誰も来ないでほしいんです」
「へ? そりゃまた、どうして?」
「それは…」
杏里は隣のみいを一瞥し、ぽっと頬を紅潮させた。
「私たち、旅の記念に、今晩はとことん、愛し合うつもりなので」
母屋に戻るなり、清がそう声をかけてきた。
「おばあちゃんたちが、夕食の準備、手伝ってくれないかって。ほら、崖崩れで、まかないの人たちが来れなくなっちゃってるだろ? 年寄りふたりで8人分の料理つくるのは、とても無理だからって」
それはそうだろう。
それに、渡りに船とはのこのことだ。
殺人事件を解明したのはいいけれど、仕上げまではまだ遠い。
ここは、何かで気を紛らわせておかないと…。
「いいですよ。どうせ私たちもひまですから」
ふたつ返事で引き受けて厨房に顔を出すと、すでにエプロン姿の麗奈と篠田が何かの作業の真っ最中だった。
「ふたりを呼んできたよ。手伝ってくれるって」
「おなごの加勢は心強いのう。じゃ、ふたりはキャベツの千切りを」
老婆の片割れに渡されたエプロンを腰に巻き、まな板の前に立つ。
「杏里ちゃん、似合うね。裸エプロンなら、なおグッドかも」
だし汁をかき混ぜていた麗奈が、杏里のエプロン姿を見て、意味ありげににやにや笑う。
「またまた麗奈さんったら、そんなエッチなこと言って」
軽くいなして包丁を握ったのはいいけれど、杏里はすぐにとてつもなく不器用な自分に絶望した。
みいが手慣れた所作でキャベツを刻んでいくのに反比例して、杏里の刻んだものは恐ろしく不ぞろいだ。
「あー、杏里ちゃんは、それ、向いてないかも」
さっそく清に気づかれ、
「いいよ。僕とかわろうか。ここでたまねぎの皮、剥いててよ」
と、持ち場を交替させられた。
「あ、はい」
屈辱に頬を赤らめ、しかたなくたまねぎと格闘する。
仕方ないよ。私、家庭科、ダメな人だもの。
たまねぎが目に沁みて涙が出るのか、何もできない自分が情けなくて涙が出るのか、よくわからない。
が、没頭していると、なんとか5つほど剥き終えることができた。
「おお、ちゃんと剥けたじゃない。えらいえらい」
麗奈が変な誉め方をして、杏里にウインクしてみせる。
「じゃ、みいちゃん、今度はたまねぎ切ってね。杏里ちゃんは、そうねえ、枝豆を剥いてもらうのがいいかしら」
「任せてください」
皮むきくらいならなんとか。
少しだけ自信を取り戻し、エプロンを押し出す巨乳を張った時、
「あ、その前に、手をちゃんと洗おうよ。たまねぎの匂いが、豆についちゃうでしょ?」
清に指摘され、またしてもへこむ杏里。
家では同居人小田切のために料理もするのだが、毎日冷凍食品かカレーなので、調理スキルが上がらないのだ。
みんなで2時間ほど働くと、ようやく料理が形をなしてきた。
手分けして食堂に運び、長テーブルの上に食器や皿を並べていく。
「みんな。よくがんばったのう」
「ほんに助かりましたわ」
老婆たちにねぎらわれ、照れながら席に着く5人。
宣言するなら今だ。
いただきます、の体勢に入ったメンバーを見渡して、杏里はかしこまった口調で言った。
「突然ですけど、先にひと言いわせてくださいな」
「え? どうしたの? いきなり?」
清と麗奈が、驚いた顔で杏里を見る。
篠田はなぜか、ちらりとみいに視線を走らせただけだ。
「今晩、10時過ぎたら、私たちのお部屋には、誰も来ないでほしいんです」
「へ? そりゃまた、どうして?」
「それは…」
杏里は隣のみいを一瞥し、ぽっと頬を紅潮させた。
「私たち、旅の記念に、今晩はとことん、愛し合うつもりなので」
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