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第2話 レズふたり旅

#107 ビッチ探偵杏里⑤

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 清の言う”話し合い”の場がもたれたのは、少し遅めの昼食の席でのことだった。

 食事のメニューはわんこそばを中心としたあっさり系で、晩夏の昼食にはもってこいである。

 デザートのスイカやメロンも、暑がりの杏里にはありがたい。

 なんせ嵐が過ぎ去った後の夏の午後の日差しは以前より強さを増し、窓を開けていても汗がにじみ出てくるほどなのだ。

「それで、事件のことなんだけど」

 メンバーが食事を終えるのを待っていたかのように、箸を置くなり、清が言った。

「ここでちょっと、データを整理してみようと思うんだ」

「いいけど、その前に、清君、煙草」

 麗奈が隣の清に指を2本立てて、要求した。

「まず、源太の死因だけど、首に巻かれた紐による窒息死に、ほぼ間違いない。そして、現場の土蔵の扉には鍵がかかり、内側からカンヌキが差し込まれていた。ほかに開口部としては、扉の上に明かり採りの窓があるけれど、これは小さすぎて人間の出入りはまず不可能だ。ただし、鍵くらいは投げ込むことができるから、土蔵の中に鍵があったことも、それで説明できないことはない」

 話しながら、麗奈の指に煙草をはさんで火までつけてやる清。

「あの、ひとつ、訊いていいですか?」

 杏里は手を上げた。

「源太さんの死体、最初に見つけたの、清さんでしたよね? あの時、どうして清さん、『源太が殺されてる』って言ったんですか? 自殺や事故の可能性もあったのに。それから、窓からのぞいただけで、死んでるって思ったのはなぜですか? あの時麗奈さんが指摘したように、ただ酔っぱらって眠っているだけかもしれなかったのに」

 杏里がここにこだわるのには、理由がある。

 もし清が最初から源太の死を知っていたのだとしたら、彼が犯人である可能性が急浮上するからだ。

「ああ、そのことか」

 清が困ったようにアフロヘアをかき回した。

「ひとつは、源太のあの格好。いくら酔っぱらってたとしてもだ。下半身裸で寝ちゃうなんてこと、まずありえないだろ? それに、顔色が真っ青だったし。殺されてると思ったのは、首に紐を巻きつけて、床に倒れていたからさ。まさか首吊りの途中で紐がほどけただなんて、ふつう思わないよね?」

「あ、清さんも気づいてたんですか? 天井の梁のこすったみたいな痕」

「うん。篠田と留守番してる時にね、色々見回ってて見つけたんだ。まあ、確かにあれが自殺だとすれば、何も頭を悩ます必要はなくなるんだけど…」

 そう言いながらも、清の口調はどことなく歯切れが悪い。

 彼自身、自殺説を信じていない証だろう、と杏里は思う。

「源太、前期で単位かなり落としてたから、それで悩んでたのかもね。内定ゼロで、就活もうまくいってないみたいだったし」

 うまそうに煙草をふかしながら、麗奈が横から口を出す。

 出た。大人の事情。

 就活とか言われても、まだ中学生の杏里には、どうもぴんと来ない。

「でも、みいは自殺ではないと思います」

 だしぬけに発言したのは、それまで黙々とメロンをスプーンですくっていたみいである。

「土蔵のテーブルに、缶ジュースか何か、飲み物を置いた跡が残っていました。まだ、完全に乾いていなかったから、源太さんが飲んだものと見て、まず間違いないと思います。でも、いくら探しても、肝心の空き缶がありませんでした。つまり、空き缶は、犯人が持ち去った可能性が高いんです」

「それが、どうしたの?」

 苛立たしげに眉をひそめて、麗奈が訊いた。

「どうして犯人が、そんなことしなきゃいけないのかしら?」

「こう考えたらどうでしょう。源太さんは、睡眠薬入りのジュースを飲まされて、眠り込んだところを犯人に絞殺された。犯人はそれを自殺に見せかけるために、死体を梁から紐で吊るしたけど、運悪く、後で紐がほどけて死体は床に落ちてしまった…。あの体格のいい源太さんを殺すには、睡眠薬を使わないと無理だと思うんです」

「でも、他殺だとすると、内側からカンヌキがかかっていたことを、説明できないわ。それがある以上、あれは自殺としか考えられないでしょう?」

「それと、もうひとつ」

 麗奈に続いて、杏里は口を開いた。

「忘れちゃならないのは、土砂崩れです。さっきおばあさんたちに聞いたんですけど、昨夜の10時にはすでに土砂崩れが起きてて、この山荘は陸の孤島になってたんです。つまり、10時以降、外からは誰もここには入って来られない状態だったってこと。ってことはですよ? もしこれが他殺だったとしたら、犯人は必然的に、この中の誰かということになるんじゃないですか? それを考慮に入れないと」






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