上 下
137 / 475
第2話 レズふたり旅

#101 奇妙な密室、奇妙な死体③

しおりを挟む
「やばいよ、やばい」

 杏里がみいに耳打ちしたのは、お通夜のように静まり返った朝食を終えて、庭に出た時のことである。

 これからその土蔵とやらをみんなで見に行くことになったのだが、杏里にはひとつ、気になってならないことがあったのだ。

「え? 何がです?」

 無邪気にこちらを見つけ返してくるみい。

 その耳元に口を近づけると、他のメンバーに聞こえないよう、小声で杏里はささやいた。

「夕べのあれさ、ひょっとして、ビデオに撮られてたんじゃないかな? だから源太さん、それを早く編集したくて、土蔵に行ったのかも。だって、映画の撮影の内容だけなら、そんなに大したシーン、なかったと思うもの。せいぜい、私が川でエロガッパに胸を揉まれるところと、路上で馬におかされかけるところと、森で裸にされて木に吊るされるとこぐらいでしょ? みいときた日には、パンチラくらいしか映ってないはずだよ。ロリコンの篠田さんならまだしも、あのスケコマシの源太さんが、その程度の内容で満足するとは考えられないもの」

「それだけ写ってれば、もう充分って気もしますけど…。でも、ありそうですよね。その可能性」

 みいの頬がこわばった。

 あの時、覆面男がスマホかデジカメを持っていたかどうかまでは、杏里にしても記憶にない。

 が、どの道途中から意識がもうろうとしてしまったから、その後、撮影されてもわからないわけである。

「あんなのDVDにされて売られたりしたら、私たちの人生終わりだよ。もしかしたら、今頃もう、ネットの動画サイトにアップされるてるかもしれないし」

 のんびり屋の杏里も、さすがに青ざめている。

 みいに話していると、それがまぎれもない事実のような気がしてきて、居ても立ってもいられない気分になる。
 
 そこに、清の声が聞こえてきた。

「あれ? 鍵がかかってるぞ? おーい、源太、いるのか? いるなら開けろよ!」

 建物の角を曲がったあたり。

 裏手の畑と母屋の境に、四角い古びた小屋が建っている。

 しっくいで固められた壁にさびたトタン屋根。

 扉の部分だけ、鉄でできているようだ。

「返事がないな。篠田、ちょっと肩車してくれないか。明り採りの窓から、中を見てみるから」

 キリンのようにひょろ長い篠田がしゃがみ込み、その肩に短躯の清がまたがった。

 麗奈に横から支えられ、危なっかしく篠田が立ち上がる。

 土蔵の屋根と壁の境に、長方形の窓が開いている。

 窓というほどの大きさもない、枠にはまったガラス板が斜めに動く、典型的な明かり採りである。

「げ、大変だ」

 篠田の肩の上で腰を浮かしてのぞくなり、清が素っ頓狂な声を上げた。

「誰か、ばあさんたちのとこに行って、早く合鍵を! 中で源太が死んでる!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

催眠術師

廣瀬純一
大衆娯楽
ある男が催眠術にかかって性転換する話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

処理中です...