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第2話 レズふたり旅

#93 嵐の中の晩餐

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 バケツをひっくり返したような豪雨が、建物全体を押し包んでいた。

 滝のように窓を流れ下る水流。

 その合間に、時折紫色の稲光りが走る。

 が、幸い、みいはその苦手なはずの雷にすら、気づいていないようだ。

 都会では味わえない珍しい料理の数々。

 そして、豪雨をものともせぬ映画研究会の面々のハイテンションに、すっかり飲み込まれてしまっている。

 が、杏里は今一つ、会話に入り込めないでいた。

 なぜだかわからないが、妙な胸騒ぎがしてならないのだ。

 みいの言った言葉が、頭の隅にひっかかっているのかもしれなかった。

 ”嵐の山荘は、殺人事件の舞台にぴったりなんだよ”

 みいは、何かそのようなことを言っていたのではなかったか。

 長テーブルに挟まれた囲炉裏には鉄鍋がかけられ、中で野菜をてんこ盛りにしただし汁がぐつぐつ煮えたぎっている。 

 岩手県は、肉牛の生産でも有名だとかで、新鮮な国産牛の肉を使ったしゃぶしゃぶの真っ最中なのだ。

 その湯気の向こうに、正面の壁に掛けられた白いホワイトボードが見える。

 ホワイトボードを埋め尽くしているのは、マグネットで貼られたおびただしい写真である。

 どうやら、これまでこの宿を訪れた客たちの記念写真らしい。

 清たちのものもあるのだろうか、と思って目を凝らしていると、だしぬけに思わぬほど近くでフラッシュが瞬いた。

「おいおい、食ってる最中も写真かよ」

 迷惑そうな源太の声にふと我に返ると、篠田がデジカメ片手にテーブルの上に身を乗り出してきていた。

 標的は、案の定、みいである。

 料理の上にかがみこんだみいの浴衣の襟元が開いて、そこから白いレースのブラが覗いているのだ。

「そうだよ、篠田、いい加減にしろよ。みいちゃんがかわいそうじゃないか」

 更に2、3度フラッシュをたくと、篠田が自分の席に退き、むっとした表情で源太と清をにらんだ。

「え? なんですか? 何かあったんですか?」

 肝心のみいは、何も気づいていないようだ。

 中に餡子の入ったけいらんが特にお気に召したようで、しゃぶしゃぶの合間にそればかりを食べている。

「それさ、警察に見つかるとやばいんじゃないの? 確か未成年の裸とか、画像持ってるだけで御法度なんでしょ? 杏里ちゃんならまだしも、みいちゃんは、見るからに中学生だしさ」

 横から麗奈が口を出す。

「そうそう。だから、映画のほうも、きわどい場面からは、みいちゃんだけカットしようと思ってるんだ」

 と、これは清。

「って、あの、私もれっきとした女子中学生なんですけど」

 杏里が頬を膨らませて抗議すると、

「杏里ちゃんは大丈夫だって。生徒手帳でも写さない限りは、誰もそんなこと思わないから」

 にやにやしながら、源太が言う。

「そうよねえ。身体だけなら日活ロマンポルノって言っても通りそうだもんねえ」

「とにかく、撮影以外であんまりみいちゃん、撮るなよな。おまえのロリコンDVDコレクションに彼女を加えようって腹なんだろうが、おまえが警察に捕まったら、みいちゃん本人にも迷惑がかかるだろ?」

 源太が睨むと、篠田は取られまいとするように両腕でカメラを抱え込んだ。

 刈り上げた坊主頭の下で、細い目が陰気な光を放っている。

 束の間訪れた気まずい空気を、のんきなみいのひと言が破った。

「あー、おなか、いっぱーい。どうも、ごちそうさまでしたあ」

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