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第2話 レズふたり旅
#92 錯綜する思惑
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「ひゃあっ!」
みいが飛び上がった。
雷鳴に続き、すさまじい音を立てて雨粒が落ちてきたのだ。
まずい!
杏里はみいをかばい、足で室内浴場との境の引き戸を蹴り開けた。
みいに雷は禁物である。
アルコールを摂取した時のように、あの第2人格が現れてしまうからだ。
「麗奈さん、お先に!」
岩風呂の中にずり落ちて、まだぴくぴくしている麗奈に声をかけ、みいの手を引いて杏里は浴場を駆け抜けた。
「あー、あぶなかった」
脱衣所でみいにバスタオルをかぶせ、ごしごし拭いてやる。
幸い、タオルの間から現れたみいの顔は元のままだった。
杏里のとっさの機転で、なんとか第二人格の出現は防ぐことができたらしい。
「お部屋で着替えて、1階に行こう。きっとみんな待ってるよ」
「は、はい」
急な階段を駆け上がり、部屋に飛び込むと、ふたり裸になって、部屋着を羽織った。
「あ、杏里さま、ブラしないんですかあ?」
パンティ1枚の上に浴衣を羽織っただけの杏里を見て、みいがとがめるように言う。
「浴衣にブラジャーはおかしいでしょ? それに夏だから丹前はいらないよね」
「でも杏里さまのおっぱい大きいから、動くときっとこぼれちゃいますよ」
「そんときはそんときよ! とにかく早く食堂に行こう! もう、おなかすいて死にそうだよ」
「なんだか杏里さまと一緒だと、えっちな人ばかり集まってきて、みい、困ります」
「えー? それ、私のせいかなあ? まあ、いいけど、どうせ私、キング・オブ・ビッチだし」
女だから、本当は”クィーン・オブ・ビッチ”にしてほしかったのだが、クィーンなんて生ぬるい、というのがクラスの大勢の意見だったのだ。
窓の外は車軸を流すような大雨である。
「台風かなあ、最近ニュース見てないから、わかんなかったけど」
「ちょっとドキドキしますね。これで土砂崩れでも起こって、このお宿が孤立しちゃったら、ちょっとした”嵐の山荘”ですよ」
手をつないで階段を降りながら、みいが浮き浮きと言った。
「何よそれ? その嵐のなんとかって」
「え? 杏里さま、ミステリとか読まないんですかあ?」
「私、難しいのだめなの。すぐ眠くなっちゃうから」
答えながら、杏里は、ひょっとして、みいより自分のほうがペットにふさわしいのではないか、と思った。
どう見ても、みいは勤勉な女子中学生、杏里は立派なビッチである。
どっちかといえば、杏里のほうが、ケモノに近い。
ただ、みいも杏里に負けず感じやすそうだから、その化けの皮がはがれるのも時間の問題だろう。
階段を降り、左の通路をまっすぐ行くと、そこが食堂だった。
食堂といっても、来た時に最初に上がった真ん中に囲炉裏のある広い部屋である。
「ああ、やっと来た」
ふたりを見るなり、アフロ清が拍手で迎えてくれた。
「遅かったなあ。麗奈が呼びに行ったろ? あれ? で、その麗奈は?」
タバコをふかしながら、源太が訊く。
「れ、麗奈さんなら、も、もうすぐ来ると思います。ひと風呂浴びてから、って言ってましたから」
さすがに真実を告げるわけにはいかないので、杏里は適当にごまかした。
「ま、麗奈ちゃんはいいから、早く始めようよ。さ、ふたりとも座って。まずは乾杯かな。飲み物は何がいい? ビールかな?」
「だめですだめです! 私たち未成年だし、特にみいはアレだから」
「アレ?」
酒乱だとは口が裂けても言えなかった。
みいがアルコールでSM女王様に変身することも。
「わあ、おいしそうです! 見たことのない食べ物がいっぱーい!」
杏里の心配をよそに、当の本人はテーブルに並べられた料理にすっかり感激の体だ。
「そうだろ? ジンギスカンのたたきに、いちご煮、ひっつみ、けいらんさ。もちろん、そばも食べ放題だ」
「ごめーん」
そこに、ふらふらと麗奈がやってきた。
二日酔いみたいなとろんとした表情をしている。
「ああ、麗奈、その顔」
とたんに源太がにやにやし始めた。
「おまえ、風呂場でふたりを襲って、反対に返り討ちにあったってとこだろう? 俺の眼はごまかせないぜ」
杏里はどきっとした。
当たってる。
源太と麗奈はそういう仲なのだろうか。
だから顔で分かるのか。
「失礼なこと言わないでよ」
麗奈がぷんとふくれて杏里の横に座った。
「きょうはちょっと調子が出なかっただけよ。ね、とってもビッチな杏里ちゃん」
みいが飛び上がった。
雷鳴に続き、すさまじい音を立てて雨粒が落ちてきたのだ。
まずい!
杏里はみいをかばい、足で室内浴場との境の引き戸を蹴り開けた。
みいに雷は禁物である。
アルコールを摂取した時のように、あの第2人格が現れてしまうからだ。
「麗奈さん、お先に!」
岩風呂の中にずり落ちて、まだぴくぴくしている麗奈に声をかけ、みいの手を引いて杏里は浴場を駆け抜けた。
「あー、あぶなかった」
脱衣所でみいにバスタオルをかぶせ、ごしごし拭いてやる。
幸い、タオルの間から現れたみいの顔は元のままだった。
杏里のとっさの機転で、なんとか第二人格の出現は防ぐことができたらしい。
「お部屋で着替えて、1階に行こう。きっとみんな待ってるよ」
「は、はい」
急な階段を駆け上がり、部屋に飛び込むと、ふたり裸になって、部屋着を羽織った。
「あ、杏里さま、ブラしないんですかあ?」
パンティ1枚の上に浴衣を羽織っただけの杏里を見て、みいがとがめるように言う。
「浴衣にブラジャーはおかしいでしょ? それに夏だから丹前はいらないよね」
「でも杏里さまのおっぱい大きいから、動くときっとこぼれちゃいますよ」
「そんときはそんときよ! とにかく早く食堂に行こう! もう、おなかすいて死にそうだよ」
「なんだか杏里さまと一緒だと、えっちな人ばかり集まってきて、みい、困ります」
「えー? それ、私のせいかなあ? まあ、いいけど、どうせ私、キング・オブ・ビッチだし」
女だから、本当は”クィーン・オブ・ビッチ”にしてほしかったのだが、クィーンなんて生ぬるい、というのがクラスの大勢の意見だったのだ。
窓の外は車軸を流すような大雨である。
「台風かなあ、最近ニュース見てないから、わかんなかったけど」
「ちょっとドキドキしますね。これで土砂崩れでも起こって、このお宿が孤立しちゃったら、ちょっとした”嵐の山荘”ですよ」
手をつないで階段を降りながら、みいが浮き浮きと言った。
「何よそれ? その嵐のなんとかって」
「え? 杏里さま、ミステリとか読まないんですかあ?」
「私、難しいのだめなの。すぐ眠くなっちゃうから」
答えながら、杏里は、ひょっとして、みいより自分のほうがペットにふさわしいのではないか、と思った。
どう見ても、みいは勤勉な女子中学生、杏里は立派なビッチである。
どっちかといえば、杏里のほうが、ケモノに近い。
ただ、みいも杏里に負けず感じやすそうだから、その化けの皮がはがれるのも時間の問題だろう。
階段を降り、左の通路をまっすぐ行くと、そこが食堂だった。
食堂といっても、来た時に最初に上がった真ん中に囲炉裏のある広い部屋である。
「ああ、やっと来た」
ふたりを見るなり、アフロ清が拍手で迎えてくれた。
「遅かったなあ。麗奈が呼びに行ったろ? あれ? で、その麗奈は?」
タバコをふかしながら、源太が訊く。
「れ、麗奈さんなら、も、もうすぐ来ると思います。ひと風呂浴びてから、って言ってましたから」
さすがに真実を告げるわけにはいかないので、杏里は適当にごまかした。
「ま、麗奈ちゃんはいいから、早く始めようよ。さ、ふたりとも座って。まずは乾杯かな。飲み物は何がいい? ビールかな?」
「だめですだめです! 私たち未成年だし、特にみいはアレだから」
「アレ?」
酒乱だとは口が裂けても言えなかった。
みいがアルコールでSM女王様に変身することも。
「わあ、おいしそうです! 見たことのない食べ物がいっぱーい!」
杏里の心配をよそに、当の本人はテーブルに並べられた料理にすっかり感激の体だ。
「そうだろ? ジンギスカンのたたきに、いちご煮、ひっつみ、けいらんさ。もちろん、そばも食べ放題だ」
「ごめーん」
そこに、ふらふらと麗奈がやってきた。
二日酔いみたいなとろんとした表情をしている。
「ああ、麗奈、その顔」
とたんに源太がにやにやし始めた。
「おまえ、風呂場でふたりを襲って、反対に返り討ちにあったってとこだろう? 俺の眼はごまかせないぜ」
杏里はどきっとした。
当たってる。
源太と麗奈はそういう仲なのだろうか。
だから顔で分かるのか。
「失礼なこと言わないでよ」
麗奈がぷんとふくれて杏里の横に座った。
「きょうはちょっと調子が出なかっただけよ。ね、とってもビッチな杏里ちゃん」
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