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第2話 レズふたり旅
#83 嵐の山荘⑬
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「おっぱいが、どうかしたんですかあ?」
いぶかしげに細い眉を寄せるみいに、杏里はブラからはみ出た片方の乳房を、掌で支えて突き出して見せた。
「ほら、ここ、赤くなってるでしょ? それに、乳首もこんなに」
「まあ、立派なおっぱいだこと。でも、別に怪我してるわけではなさそうですね」
「痛むんです。だから、ぷにぷにしてもらったら、多少は治るかと」
「誘惑してもだめですよ」
杏里の手を払いのけ、ぴしりとみいが言った。
「だいたいあなたは、服装からして公衆道徳違反です。おへそも出てるし、スカートが短すぎます」
「誘惑だなんて、そんな…」
恨めしげに、みいを上目遣いに睨みつける杏里。
「それに、この恰好は、夏だから少しでも涼しい方がいいかと…」
「歩くだけでパンツが見えるスカートなんて、まるでコールガールじゃないですか。そんなだから、馬に犯されそうになるんですよ。今度からは、もう少しましな服を着て歩きなさい」
婦人警官みたいなことを言い、みいが立ち去ろうとする。
その後ろ姿に、杏里はせいいっぱい、悪態をついた。
「ふんっ、ケチ! おっぱいくらい、さわってくれたっていいじゃないの! だいたい、これを誘惑と感じたってことは、あんたも私の身体に興味を覚えたってことでしょ? 隠さなくてもいいのよ! ほんとはレズのくせに」
「ちがいます!」
真っ赤になって、みいが振り向いた。
「レズだなんて、人を貶めるのはやめてください。とにかく私はもう行きますから。こう見えても忙しいんです」
「レズは別に恥ずかしいことじゃないよ! 人を好きになるのに、性別なんて関係ないんだから! だいたいさ、行くっていったって、どこに行くつもりなのよ? こんな山の中に、メイド喫茶なんてないじゃない」
「私は、この夏の間、遠野山荘という民宿で働いているのです。今はちょっとお散歩に出てきただけなのです」
「あ、遠野山荘なら、これから私が泊るところだよ! ねえ、これも何かの縁だから、仲よくしようよ!」
「ごめんこうむります」
瞳を輝かせた杏里を、みいがぴしゃりとさえぎった。
「それは最悪ですね。まったく、何ですか。ちょっと助けてもらったからって、急に馴れ馴れしくなって、おまけに人をレズ呼ばわりして。あなたは最低です。山荘でも、もう二度と話しかけないでくださいね。では、ごきげんよう」
すたすたと足音も荒く歩き去るみい。
「あ、待って」
杏里が手を伸ばした時、
「カーット!」
乾いたカチンコの音がして、横に長い顔に満面の笑みを浮かべたアフロ清が、脱兎のごとく飛び出してきた。
「いやあ、よかったよ、ふたりとも! 迫真の演技とは、まさにこのことだね!」
「でも、なんか展開、早すぎやしませんか? いきなり命の恩人を誘惑するなんて、私なんだか、頭が足りない人みたい」
頬を膨らませて杏里が抗議すると、
「ま、いいんじゃね? どうせ映画って、虚構なんだからさ」
タバコをくわえた源太が、にやにや笑いを口元に貼りつけたまま、横から口をはさんだ。
「キョコウですか。キョコウねえ」
杏里は小首をかしげた。
って、キョコウって何?
どんな漢字。書くんだっけ?
ま、いいや。話題を変えちゃおう。
「ところで、みいの服、何なんですか? どこにあんな可愛いメイド服が?」
「それがさ、なぜだか知らないけど、篠田のやつが持ってたのよ。急に出してきて、これをみいちゃんに着せたらどうかって」
声を潜めて言ったのは、麗奈である。
その篠田はというと、今は少し離れたところで倒れた馬を介抱している。
「あいつ、むっつりすけべのロリコンだからね」
源太が声を上げて笑い出した。
「君らに会えて一番喜んでるのは、間違いなくあいつだと思うよ」
「そうなのかな。あんまりそういうふうには、見えないけれど」
杏里は、気味悪そうにカメラマンのほうを見やった。
もやしみたいにひょろ長くて大人しい篠田は、そんな危険人物には見えない。
「顔に出さないやつが一番危ないのよ。山荘に行ったら、特にみいちゃんは気をつけたほうがいいかもね」
「え? そうなんですかあ? でも、篠田さんが貸してくださったこの服、とっても可愛いですよ。ほらあ」
みいがフレアスカートの裾をつまみ、ポーズを作って見せた。
杏里は呆れた。
この子、話の内容を聞いていなかったのかしら?
「じゃ、次のシーン、行こうか」
と、空を見上げて、清が言った。
「そろそろ日が暮れるから、きょうはこれで最後ということで」
「どんなシーンなんですか?」
「森のベンチで悲嘆にくれる杏里ちゃんを、エロガッパが襲うんだ。そして裸で木に吊り下げる。興奮したエロガッパはやりたい放題。最初いやがっていた杏里ちゃんも、その執拗な攻めに、だんだん興奮し始めて…」
「はあ? なんですか、それ?」
杏里は仰天した。
「それじゃあ、私、ますますバカみたい」
「でも、似合ってるから」
麗奈があっさり言う。
「杏里ちゃんって、まさにそういうキャラに見えるのよ」
いぶかしげに細い眉を寄せるみいに、杏里はブラからはみ出た片方の乳房を、掌で支えて突き出して見せた。
「ほら、ここ、赤くなってるでしょ? それに、乳首もこんなに」
「まあ、立派なおっぱいだこと。でも、別に怪我してるわけではなさそうですね」
「痛むんです。だから、ぷにぷにしてもらったら、多少は治るかと」
「誘惑してもだめですよ」
杏里の手を払いのけ、ぴしりとみいが言った。
「だいたいあなたは、服装からして公衆道徳違反です。おへそも出てるし、スカートが短すぎます」
「誘惑だなんて、そんな…」
恨めしげに、みいを上目遣いに睨みつける杏里。
「それに、この恰好は、夏だから少しでも涼しい方がいいかと…」
「歩くだけでパンツが見えるスカートなんて、まるでコールガールじゃないですか。そんなだから、馬に犯されそうになるんですよ。今度からは、もう少しましな服を着て歩きなさい」
婦人警官みたいなことを言い、みいが立ち去ろうとする。
その後ろ姿に、杏里はせいいっぱい、悪態をついた。
「ふんっ、ケチ! おっぱいくらい、さわってくれたっていいじゃないの! だいたい、これを誘惑と感じたってことは、あんたも私の身体に興味を覚えたってことでしょ? 隠さなくてもいいのよ! ほんとはレズのくせに」
「ちがいます!」
真っ赤になって、みいが振り向いた。
「レズだなんて、人を貶めるのはやめてください。とにかく私はもう行きますから。こう見えても忙しいんです」
「レズは別に恥ずかしいことじゃないよ! 人を好きになるのに、性別なんて関係ないんだから! だいたいさ、行くっていったって、どこに行くつもりなのよ? こんな山の中に、メイド喫茶なんてないじゃない」
「私は、この夏の間、遠野山荘という民宿で働いているのです。今はちょっとお散歩に出てきただけなのです」
「あ、遠野山荘なら、これから私が泊るところだよ! ねえ、これも何かの縁だから、仲よくしようよ!」
「ごめんこうむります」
瞳を輝かせた杏里を、みいがぴしゃりとさえぎった。
「それは最悪ですね。まったく、何ですか。ちょっと助けてもらったからって、急に馴れ馴れしくなって、おまけに人をレズ呼ばわりして。あなたは最低です。山荘でも、もう二度と話しかけないでくださいね。では、ごきげんよう」
すたすたと足音も荒く歩き去るみい。
「あ、待って」
杏里が手を伸ばした時、
「カーット!」
乾いたカチンコの音がして、横に長い顔に満面の笑みを浮かべたアフロ清が、脱兎のごとく飛び出してきた。
「いやあ、よかったよ、ふたりとも! 迫真の演技とは、まさにこのことだね!」
「でも、なんか展開、早すぎやしませんか? いきなり命の恩人を誘惑するなんて、私なんだか、頭が足りない人みたい」
頬を膨らませて杏里が抗議すると、
「ま、いいんじゃね? どうせ映画って、虚構なんだからさ」
タバコをくわえた源太が、にやにや笑いを口元に貼りつけたまま、横から口をはさんだ。
「キョコウですか。キョコウねえ」
杏里は小首をかしげた。
って、キョコウって何?
どんな漢字。書くんだっけ?
ま、いいや。話題を変えちゃおう。
「ところで、みいの服、何なんですか? どこにあんな可愛いメイド服が?」
「それがさ、なぜだか知らないけど、篠田のやつが持ってたのよ。急に出してきて、これをみいちゃんに着せたらどうかって」
声を潜めて言ったのは、麗奈である。
その篠田はというと、今は少し離れたところで倒れた馬を介抱している。
「あいつ、むっつりすけべのロリコンだからね」
源太が声を上げて笑い出した。
「君らに会えて一番喜んでるのは、間違いなくあいつだと思うよ」
「そうなのかな。あんまりそういうふうには、見えないけれど」
杏里は、気味悪そうにカメラマンのほうを見やった。
もやしみたいにひょろ長くて大人しい篠田は、そんな危険人物には見えない。
「顔に出さないやつが一番危ないのよ。山荘に行ったら、特にみいちゃんは気をつけたほうがいいかもね」
「え? そうなんですかあ? でも、篠田さんが貸してくださったこの服、とっても可愛いですよ。ほらあ」
みいがフレアスカートの裾をつまみ、ポーズを作って見せた。
杏里は呆れた。
この子、話の内容を聞いていなかったのかしら?
「じゃ、次のシーン、行こうか」
と、空を見上げて、清が言った。
「そろそろ日が暮れるから、きょうはこれで最後ということで」
「どんなシーンなんですか?」
「森のベンチで悲嘆にくれる杏里ちゃんを、エロガッパが襲うんだ。そして裸で木に吊り下げる。興奮したエロガッパはやりたい放題。最初いやがっていた杏里ちゃんも、その執拗な攻めに、だんだん興奮し始めて…」
「はあ? なんですか、それ?」
杏里は仰天した。
「それじゃあ、私、ますますバカみたい」
「でも、似合ってるから」
麗奈があっさり言う。
「杏里ちゃんって、まさにそういうキャラに見えるのよ」
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