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第2話 レズふたり旅

#73 嵐の山荘③

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 橋から見下ろすカッパ淵は、見るからに涼しそうな、見事な清流だった。

 エアコンの効かないバスの中でいい加減うだっていた杏里は、その冷涼な光景に目を輝かせた。

「ねえ、みい。私、いいこと考えちゃった」

 瞳をキラキラさせて、傍らのみいを見る。

「杏里さまのいいことって、どうせまた、ろくでもないことに決まってますよね」

 みいは取りつく島もない態度だ。

「ひどいなあ。ほんとにいいことなんだって!」

 杏里は地団太を踏んだ。

「一応聞いてもいいですけど…。で、なんなんですかあ? その、いいことって」

「ここでさ、泳ぐんだよ」

 きっぱりと、杏里は言い切った。
 
「こんなに水が綺麗なんだもの。暑いし、泳がなきゃ損ってものだよ」

「またまたあ、みんな見てますよ」

 橋の上には、一緒にバスを降りた観光客たちが鈴なりになっている。

 みいが呆れるのも無理はなかった。

「だれもここでなんて言ってないでしょ。もっと人気のない上流のほうに行くんだよ」

「見つかったら、きっと怒られますよ」

「平気だって。水着もちゃんと持ってきてるし、何も真っ裸になるんじゃないんだもの」

「まさか、またあの悩殺ビキニで…」

「海と違って、川の水はさらさらしてて気持ちいいと思うんだ。お肌にもよさそうだしさ」

 杏里は橋のたもとに急ぐと、河原に降りてさっさと歩き始めた。

「もう、杏里さまったら、言い出したら聞かないんだから」

 ぼやきつつも、後をついてくるみい。

 10分ほどさかのぼると、手頃な瀬が見えてきた。

 大きな岩が目隠しになって、着換えにもちょうどよさそうだ。

 小屋ほどもある大岩の陰にキャリーバッグを置くと、杏里は水着を引っ張り出した。

 この前着たのはおとといのことだから、もうすっかり乾いている。

 大胆にもヌードになると、きわどい水着を手早く身に着ける。

 巨乳とヒップが半ば以上はみ出した、真っ赤な極小三角ビキニである。

「さあ、みいも早く着替えて。あのスク水姿、もう一度見せてよ」

 杏里はいつか見たみいの水着姿を思い出して、ぞくぞくするのを覚えた。

 デザインこそシンプルだが、裏地のないみいのスクール水着は、見ようによっては杏里のビキニよりエロチックなのだ。

「わ、わかりましたから、あっち、向いててください」

 恥ずかしそうにみいが身をよじる。

「はいはい」

 杏里はみいに背を向け、バッグからスマホを取り出した。

 せっかくだから、写真、取っちゃお。

 きっとインスタ映えするいいのが撮れると思うんだ。

 

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