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第2話 レズふたり旅
#72 嵐の山荘②
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平泉駅から電車で盛岡の方へ半ば戻ったところに遠野駅はある。
大きな屋根が目印の、古風なたたずまいが魅力的な建物である。
一見すると、唐招提寺か正倉院みたいな形の2階建ての建築物だ。
木造の駅の中はよく風が通って涼しかったが、一歩外に出ると日差しが意外に強烈だった。
「ふええ、暑いよォ」
悲鳴を上げる杏里。
露出度が高い服装なだけに、真昼のこの陽光は肌に厳しい。
その点、涼しげなワンピースに麦わら帽子のみいは、大してこたえた様子もない。
「このあたりは盆地なので、夏は暑いんですよ。冬はかなりの豪雪だっていいますけどね」
遠野地方の西側は北上山地である。
北にはこのあたりで一番高い早池峰山がそびえ、山に囲まれているといっていい。
「ねえ、お宿はどこなの? 涼しいとこで冷たいもの飲んで、ゆっくりしたいよぅ」
「ここから早池峰山へ行く途中に、カッパ淵って観光名所があります。確か、その近くだったはずです」
「カッパ?」
杏里がいやそうに顔をしかめる。
バンパイヤとタコの怪物だけでも十分なのに、今度は河童なの?
そんな顔をしている。
それを見て、みいがぷっと吹き出した。
「大丈夫ですよ。カッパ淵ってのは名前だけで、きれいな清流が流れる小さな川ですから。だいたい、本物の河童なんているわけないじゃないですか」
「そんなのわかんないよ。どうも、私たち、何かに祟られてるみたいだから」
「私たち、じゃなくって、杏里さまが、でしょう? みいは別に平気ですもの」
「あー、やな子。自分だけいい子ぶっちゃって」
「いい子ぶってるわけじゃないですけど…あやかしは、みいより、杏里さまのほうが好きみたいなんですよね」
「あやかしとか、やめようよ、そういうの」
「あ、あのバスだと思います。さ、急ぎましょう」
みいが駆け出したので、あやかし論議はいったん中止になった。
が、この時杏里はまだ知らなかったのである。
この先自分を待ち受けるのが、あやかしなど足元にも及ばぬ、トンデモない事態だということを…。
大きな屋根が目印の、古風なたたずまいが魅力的な建物である。
一見すると、唐招提寺か正倉院みたいな形の2階建ての建築物だ。
木造の駅の中はよく風が通って涼しかったが、一歩外に出ると日差しが意外に強烈だった。
「ふええ、暑いよォ」
悲鳴を上げる杏里。
露出度が高い服装なだけに、真昼のこの陽光は肌に厳しい。
その点、涼しげなワンピースに麦わら帽子のみいは、大してこたえた様子もない。
「このあたりは盆地なので、夏は暑いんですよ。冬はかなりの豪雪だっていいますけどね」
遠野地方の西側は北上山地である。
北にはこのあたりで一番高い早池峰山がそびえ、山に囲まれているといっていい。
「ねえ、お宿はどこなの? 涼しいとこで冷たいもの飲んで、ゆっくりしたいよぅ」
「ここから早池峰山へ行く途中に、カッパ淵って観光名所があります。確か、その近くだったはずです」
「カッパ?」
杏里がいやそうに顔をしかめる。
バンパイヤとタコの怪物だけでも十分なのに、今度は河童なの?
そんな顔をしている。
それを見て、みいがぷっと吹き出した。
「大丈夫ですよ。カッパ淵ってのは名前だけで、きれいな清流が流れる小さな川ですから。だいたい、本物の河童なんているわけないじゃないですか」
「そんなのわかんないよ。どうも、私たち、何かに祟られてるみたいだから」
「私たち、じゃなくって、杏里さまが、でしょう? みいは別に平気ですもの」
「あー、やな子。自分だけいい子ぶっちゃって」
「いい子ぶってるわけじゃないですけど…あやかしは、みいより、杏里さまのほうが好きみたいなんですよね」
「あやかしとか、やめようよ、そういうの」
「あ、あのバスだと思います。さ、急ぎましょう」
みいが駆け出したので、あやかし論議はいったん中止になった。
が、この時杏里はまだ知らなかったのである。
この先自分を待ち受けるのが、あやかしなど足元にも及ばぬ、トンデモない事態だということを…。
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