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第2話 レズふたり旅
#71 嵐の山荘①
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翌朝、速攻で荷物をまとめると、朝食もキャンセルして、杏里とみいはホテルを飛び出した。
このホテルには、おぞましい思い出しかなかったからである。
幸い、受付カウンターの係は昨夜と総入れ替えになっていて、あのドラキュラっぽい支配人も吸血鬼の受付嬢もいなかったから、手続きもスムーズに済ませることができた。
盛岡駅から電車で平泉駅に向かう。
平泉は岩手県の中央部に位置しているから、来た方向に一度戻るかたちになった。
空はよく晴れていた。
陽射しは強いが、風にはかすかに秋の気配が忍び込んでいて、火照った肌に心地よかった。
平泉駅からバスに乗り換え、平泉へと向かう。
平泉は、平安時代の後期に栄えた奥州藤原氏の元領地である。
世界文化遺産である中尊寺の金色堂をはじめ、見どころは多い。
バスを降り、つづら折りのなだらかな坂を上っていくと、途中、開けた場所から眼下を流れる川が見えた。
「衣川ですね。芭蕉の『おくのほそ道』に出てきたあの川です」
「ふうん」
などと言われても、杏里にはよくわからない。
「ここは、あの源義経の終焉の地でもあるんですよ」
「ふうん」
ミナモトノヨシツネ?
だれだっけ?
杏里の感想はその程度だ。
ただ、中尊寺に入って、金色堂を目の当たりにした時には驚いた。
「すっごおい! なんか、キンキラキンじゃん!」
仏像もバックの内装もほぼ黄金色一色。
藤原氏というのは、よほど大金持ちだったに違いない。
「この下に、今でも、藤原清衡、基衡、秀衡の木乃伊と、泰衡の首級が安置されてるんですよ」
みいが観光ガイドそこのけの知識を披露する。
「え? ミイラ? なんかキモイね。ひょっとして、その人たち、エジプトの人?」
「なんですか? それ? 奥州藤原氏の祖先がエジプト人だなんてお話は、聞いたことありませんけど」
みいが真顔で杏里を見た。
「だって木乃伊なんでしょ?」
「別に木乃伊はエジプトの専売特許じゃありませんよ。日本にもたくさんあります。例えば、高野山には…」
「あー、木乃伊の話はもういいから。それよりみい、おなか空かない?」
毛越寺の風景を楽しみ、帰り道の茶屋で田楽と蕎麦をたらふく食べた。
「やっと旅らしくなってきたね」
うーんと伸びをして、杏里は言った。
ここは自然も豊かだし、空気もおいしい。
「五月雨の降り残してや光堂」
美しい景色に目を細めながら、みいがつぶやいた。
「それとも、『夏草や兵どもの夢の跡』かな」
「なにそれ? お経? それとも交通安全の標語か何か?」
最後の田楽を頬張りながら、杏里が己の無知を披露する。
「知らないんですか? 松尾芭蕉?」
「うーん、聞いたことあるけど。水戸黄門の親戚だったっけ」
「杏里さま、学校、行ってるんですよね?」
「うん。こう見えても、花の中学3年生」
「さては、授業中、寝てますね」
「そんなことないよ」
杏里はぶんぶん首を振った。
「ただ、周りが色々してくるから、授業に集中できないだけ」
「色々って?」
「おっぱい揉んできたり、スカートの中に手を入れてきたり」
「どんな学校なんですか」
みいが呆れて目を丸くする。
「何度も転校したけど、私、こんなだから」
杏里はマイクロミニのスカートをぺろっとめくり上げて見せた。
むっちりした太腿の間のちっちゃなパンティが、束の間あらわになる。
「どこに行っても、たいていそうなっちゃうんだ」
「んもう。杏里さまったら、ほんとにエッチなんだから」
「てへ」
むくれるみいに向かって、ぺろっと舌を出す杏里。
「で、次はどこ行くんだっけ?」
みいが機嫌を損ねないうちにと、すぐさま話題を変える。
「遠野ですね。柳田國男の『遠野物語』の舞台になった、秘境です。かわいい妖怪に会えるといいなあ」
うっとりと、みいが言う。
「う。妖怪?」
杏里は田楽を喉に詰まらせた。
妖怪は、もう勘弁してほしいんだけど。
このホテルには、おぞましい思い出しかなかったからである。
幸い、受付カウンターの係は昨夜と総入れ替えになっていて、あのドラキュラっぽい支配人も吸血鬼の受付嬢もいなかったから、手続きもスムーズに済ませることができた。
盛岡駅から電車で平泉駅に向かう。
平泉は岩手県の中央部に位置しているから、来た方向に一度戻るかたちになった。
空はよく晴れていた。
陽射しは強いが、風にはかすかに秋の気配が忍び込んでいて、火照った肌に心地よかった。
平泉駅からバスに乗り換え、平泉へと向かう。
平泉は、平安時代の後期に栄えた奥州藤原氏の元領地である。
世界文化遺産である中尊寺の金色堂をはじめ、見どころは多い。
バスを降り、つづら折りのなだらかな坂を上っていくと、途中、開けた場所から眼下を流れる川が見えた。
「衣川ですね。芭蕉の『おくのほそ道』に出てきたあの川です」
「ふうん」
などと言われても、杏里にはよくわからない。
「ここは、あの源義経の終焉の地でもあるんですよ」
「ふうん」
ミナモトノヨシツネ?
だれだっけ?
杏里の感想はその程度だ。
ただ、中尊寺に入って、金色堂を目の当たりにした時には驚いた。
「すっごおい! なんか、キンキラキンじゃん!」
仏像もバックの内装もほぼ黄金色一色。
藤原氏というのは、よほど大金持ちだったに違いない。
「この下に、今でも、藤原清衡、基衡、秀衡の木乃伊と、泰衡の首級が安置されてるんですよ」
みいが観光ガイドそこのけの知識を披露する。
「え? ミイラ? なんかキモイね。ひょっとして、その人たち、エジプトの人?」
「なんですか? それ? 奥州藤原氏の祖先がエジプト人だなんてお話は、聞いたことありませんけど」
みいが真顔で杏里を見た。
「だって木乃伊なんでしょ?」
「別に木乃伊はエジプトの専売特許じゃありませんよ。日本にもたくさんあります。例えば、高野山には…」
「あー、木乃伊の話はもういいから。それよりみい、おなか空かない?」
毛越寺の風景を楽しみ、帰り道の茶屋で田楽と蕎麦をたらふく食べた。
「やっと旅らしくなってきたね」
うーんと伸びをして、杏里は言った。
ここは自然も豊かだし、空気もおいしい。
「五月雨の降り残してや光堂」
美しい景色に目を細めながら、みいがつぶやいた。
「それとも、『夏草や兵どもの夢の跡』かな」
「なにそれ? お経? それとも交通安全の標語か何か?」
最後の田楽を頬張りながら、杏里が己の無知を披露する。
「知らないんですか? 松尾芭蕉?」
「うーん、聞いたことあるけど。水戸黄門の親戚だったっけ」
「杏里さま、学校、行ってるんですよね?」
「うん。こう見えても、花の中学3年生」
「さては、授業中、寝てますね」
「そんなことないよ」
杏里はぶんぶん首を振った。
「ただ、周りが色々してくるから、授業に集中できないだけ」
「色々って?」
「おっぱい揉んできたり、スカートの中に手を入れてきたり」
「どんな学校なんですか」
みいが呆れて目を丸くする。
「何度も転校したけど、私、こんなだから」
杏里はマイクロミニのスカートをぺろっとめくり上げて見せた。
むっちりした太腿の間のちっちゃなパンティが、束の間あらわになる。
「どこに行っても、たいていそうなっちゃうんだ」
「んもう。杏里さまったら、ほんとにエッチなんだから」
「てへ」
むくれるみいに向かって、ぺろっと舌を出す杏里。
「で、次はどこ行くんだっけ?」
みいが機嫌を損ねないうちにと、すぐさま話題を変える。
「遠野ですね。柳田國男の『遠野物語』の舞台になった、秘境です。かわいい妖怪に会えるといいなあ」
うっとりと、みいが言う。
「う。妖怪?」
杏里は田楽を喉に詰まらせた。
妖怪は、もう勘弁してほしいんだけど。
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