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第2話 レズふたり旅

#62 ゴースト・ホテル⑥

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「ど、どうしたの?」

 こみあげる吐き気をこらえて声をかけると、みいはキャビアの小皿を指さしてわなわな震えている。

「キャ、キャビアが、目玉に」

「は?」

 ひと目見て、杏里も絶句した。

 あの黒真珠みたいなつぶつぶは、よく見ると、小さな眼球の集合体なのだった。

 黒く見えているのは、目玉の黒目の部分なのである。

「ひい」

「げえ」

 ふたり同時に飛び上がった。

 背後から、朗らかな声が聞こえてくる。

「おいしいわあ。ウシガエルの手羽先って、もう最高よね」

 ウシガエルの、手羽先?
 
 カエルって、羽根もないのに?

 なんて首をかしげている場合ではなかった。

 ふたり脱兎のごとく大食堂を飛び出すと、トイレに駆け込み、代わるがわる便器を抱えてげーげー吐いた。

「マジ勘弁してほしいよお」

 涙目になって、杏里はぼやいた。

「私、ミミズ食べちゃったよ」

「みいは、ゴキブリです」

 さすがのAIも、ゲテモノ食いには拒否反応を示しているようだ。

「もう、このまま温泉に入って、部屋に戻ろうか」

 大食堂の近くに、『大浴場』と書かれた案内プレートがあったのを思い出して、杏里は言った。

 タオル類は脱衣所にそろっているだろうから、手ぶらで行っても問題ないだろう。

 着替えは部屋に戻ってからすればいい。

「ですね。帰りにお土産でも買って、それをお部屋で食べましょう」

 みいがうなずいた時である。

 ふいにノックの音がして、外から女の声がした。

「大丈夫ですか? お客様?」

 どこかで聞いたことのある声だった。

 あの受付嬢だ。

 そう思い当たった時には、すでにトイレのドアが開いていた。

 急ぐあまり、鍵をかけるのを忘れていたのである。

 振り返ると、青ざめた顔の女が立っていた。

 首筋にぽつんと開いたふたつの赤い穴。

 気のせいか、犬歯が妙に発達しているように見える。

「なんかやばい」

 杏里はささやいた。

「え? どうしてです?」

 みいが顔を上げた瞬間である。

「脂が乗って、おいしそう」

 女が、杏里の腕をぐいとつかんできた。

 

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