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第2話 レズふたり旅
#61 ゴースト・ホテル⑤
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大食堂ーディナー・ラウンジは、人であふれ返っていた。
食事の形式は、肩の凝らないバイキング・スタイルだ。
杏里にはうれしくなった。
もともと大食漢なので、コース形式ではおなかがすくだろうと、ひそかに心配していたのである。
「とりあえず、乾杯ね」
まず飲み物を取ってきて、グラスを合わせた。
「お酒じゃないと、気分出ませんね」
野菜ジュースをひと口舐め、恨めしげにみいが言う。
「みい、あまーいカクテルが飲みたいです」
「だめだめ、みいはまだ未成年なんだから」
ぶるんぶるんと首を横に振る杏里。
「第一、あんた、酔っぱらうとまた人格変わるでしょ」
「えー、そんなことないですよ。杏里さまったら、何言ってるんですかあ?」
覚えてないんだ。
杏里はため息をついた。
まったく、しょうがないなあ。
とにかく、絶対に飲ませないようにしなくては。
浴衣姿は杏里たちだけで、他の客たちから明らかに浮いていた。
が、取り皿を持って列に並ぶと、そんなとはいっこうに気にならなくなった。
うわーい! おいしそうなものがいっぱい!
さっすが高級ホテル。
見たこともない食材ばかりだけど、どれもすごくいい匂い!
山盛り盛って席に帰ると、すでにみいは対面に戻ってきていた。
「これ、何でしょうね? 海老かな?」
茶色っぽい唐揚げみたいなものを、少しずつ口に運んでは、可愛い前歯で上品にかじっている。
「このパスタも最高だよ。ちょっと麺が太いけど」
杏里もすぐに自分で取ってきた料理に夢中になった。
「ディナータイムの特別メニューです。キャビアをお持ちしました」
そこに制服姿の女性がやってきて、ふたり分の小皿を差し出した。
「すごーい! みい、キャビアだって!」
軽く礼を返して小皿を受け取ると、杏里は瞳を輝かせた。
「なんですかあ? そのキャビアって?」
みいが不思議そうに小首をかしげて訊く。
「よく知らないけど、高級料理だよ。確かチョウザメの卵じゃなかったっけ」
「数の子かイクラみたいなものですね」
「うーん、そんな感じかな。でも、これ、どうやって食べるんだろう?」
真珠みたいな黒いツブツブを箸でつついている時である。
隣のテーブルから、声が聞こえてきた。
裕福そうな中年夫婦と、小学生くらいの男の子の3人連れだ。
「パパ、このミミズパスタ、最高だね!」
「そうか。こっちのゴキブリのから揚げもうまいぞ。食べてみろ」
え?
杏里の手が止まった。
今、なんて言ったの?
ミミズパスタ?
ゴキブリのから揚げ?
ま、まさか、だよね。
私の聞き違いに、決まってるよね。
その瞬間だった。
いきなりみいが悲鳴を上げた。
「杏里さま! 大変! キャ、キャビアが!」
食事の形式は、肩の凝らないバイキング・スタイルだ。
杏里にはうれしくなった。
もともと大食漢なので、コース形式ではおなかがすくだろうと、ひそかに心配していたのである。
「とりあえず、乾杯ね」
まず飲み物を取ってきて、グラスを合わせた。
「お酒じゃないと、気分出ませんね」
野菜ジュースをひと口舐め、恨めしげにみいが言う。
「みい、あまーいカクテルが飲みたいです」
「だめだめ、みいはまだ未成年なんだから」
ぶるんぶるんと首を横に振る杏里。
「第一、あんた、酔っぱらうとまた人格変わるでしょ」
「えー、そんなことないですよ。杏里さまったら、何言ってるんですかあ?」
覚えてないんだ。
杏里はため息をついた。
まったく、しょうがないなあ。
とにかく、絶対に飲ませないようにしなくては。
浴衣姿は杏里たちだけで、他の客たちから明らかに浮いていた。
が、取り皿を持って列に並ぶと、そんなとはいっこうに気にならなくなった。
うわーい! おいしそうなものがいっぱい!
さっすが高級ホテル。
見たこともない食材ばかりだけど、どれもすごくいい匂い!
山盛り盛って席に帰ると、すでにみいは対面に戻ってきていた。
「これ、何でしょうね? 海老かな?」
茶色っぽい唐揚げみたいなものを、少しずつ口に運んでは、可愛い前歯で上品にかじっている。
「このパスタも最高だよ。ちょっと麺が太いけど」
杏里もすぐに自分で取ってきた料理に夢中になった。
「ディナータイムの特別メニューです。キャビアをお持ちしました」
そこに制服姿の女性がやってきて、ふたり分の小皿を差し出した。
「すごーい! みい、キャビアだって!」
軽く礼を返して小皿を受け取ると、杏里は瞳を輝かせた。
「なんですかあ? そのキャビアって?」
みいが不思議そうに小首をかしげて訊く。
「よく知らないけど、高級料理だよ。確かチョウザメの卵じゃなかったっけ」
「数の子かイクラみたいなものですね」
「うーん、そんな感じかな。でも、これ、どうやって食べるんだろう?」
真珠みたいな黒いツブツブを箸でつついている時である。
隣のテーブルから、声が聞こえてきた。
裕福そうな中年夫婦と、小学生くらいの男の子の3人連れだ。
「パパ、このミミズパスタ、最高だね!」
「そうか。こっちのゴキブリのから揚げもうまいぞ。食べてみろ」
え?
杏里の手が止まった。
今、なんて言ったの?
ミミズパスタ?
ゴキブリのから揚げ?
ま、まさか、だよね。
私の聞き違いに、決まってるよね。
その瞬間だった。
いきなりみいが悲鳴を上げた。
「杏里さま! 大変! キャ、キャビアが!」
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