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第2話 レズふたり旅

#55 ホテルに到着!

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「信じて…いいんですか?」

 小声でみいが言った。

 潤んだような瞳で、上目遣いに杏里を見つめている。

「初夜がどうのってのは別として、杏里さまも、みいのこと好きだっていうの、信じても、いいんでしょうか?」

「いいに決まってるじゃない!」

 杏里は手荒くみいを抱きしめた。
 
 その小さな顔を両手で挟み、瞳をのぞき込みながらキスの雨を降らせてやった。

「杏里さまったら、くすぐったい! それに、みんな、見てますよ!」

 恥ずかしがって抵抗するみい。

 でも、なんだかうれしそう。

 ふざけて胸にタッチしてやると、案の定、薄いワンピースの生地の下で乳首が硬くなっていた。

 ふいにどうしようもなく衝動が突き上げてきて、この場でみいを裸に剥き、押し倒したくなった。

 が、ここは衆人環視の交差点である。

 それを実行に移したら、杏里はまず間違いなく、痴女として交番に連行されてしまうに違いない。

 がまんがまん。

 どうせ今夜はホテルでひとつのベッドの中なんだから。

 もう、やりたい放題じゃない!

 とりあえず、ここは腕を組むくらいで、とどめておくことにした。

「じゃ、お言葉に甘えて」

 杏里の二の腕にしがみつき、身をすりよせてくるみい。

「そう、それでいいの」

 杏里はみいのすべすべのほっぺに、もう一度長めのキスをした。

「性別も主従関係もなーんにもなし。私たち、正真正銘の恋人同士なんだから」


 みいもスマホは持っていなかったが、なんせ頭の中にあるのは高性能AIである。

 ホテルの場所など、何も見なくてもとうにインプットされているという。

 みいに連れられ、地下道に入ると、そこは広い地下街だった。

 中央の広場を起点にして、放射状に通路が伸びている。

 その複雑怪奇な迷路も、みいにとっては直線の道と同じらしかった。

 杏里の腕を抱きかかえながら、自信に満ちた足取りで、人混みの中をすいすいと歩いていく。

 すれ違う通行人たちの視線が、胸に太腿に尻に突き刺さってくる。

 超マイクロミニ、ノーブラピタTシャツの杏里は、撮影中のAV女優さながらのフェロモンのかたまりなのだ。

 その横に清楚な少女を従えているのが、また第三者の目にはエロチックに映るのだろう。
 
 いくつもの脇道に入り、地上へのエスカレーターを昇ると、たそがれてきた空を背景にして、立派なホテルが現れた。

「あれですね。ホテル・カリフォルニア」

 前方のガラス張りの建物を指さして、みいが言った。

 岩手県のホテルがなんでカリフォルニアなのか意味不明だが、建物は新築同様で、見た目、すごくかっこいい。

「わあー、すごーい! さっすが紗彩さん、なんだか東京都心の高級シティホテルみたいだね」

 両手を叩いてはしゃぐ杏里。

 もちろん杏里は、”東京都心の高級シティホテル”なぞ、行ったこともないし、近くで見たこともない。

 でも、そんな気がしてならないのだ。

 大理石の階段をのぼり、ふたり手をつないで、自動ドアをくぐった。

 広々としたロビー。

 吹き抜けの天井からは、大きなシャンデリアみたいな照明器具が、いくつも下がっている。

「いらっしゃいませ」

 奥のカウンターから、紺の制服姿の女性従業員が声をかけてきた。

「笹原杏里です。紗彩さんって人に、予約してもらってるはずなんですけど」

 おずおずとカウンターの前に立ち、杏里は言った。

「笹原さまですね。かしこまりました。少々お待ちください」

 カウンターの上のPCのキーボードを、ぱちぱちと女性従業員が叩く。

 画面をのぞき込む表情が、次第に険しくなっていくのがわかる。

「変ですねえ。ご予約、入っておりませんけど」

「そんなあ」

 杏里はみいのほうを振り返った。

「ね、みい、ほんとにここなんだよね」

「間違いありません。紗彩さまに、じかにインプットしていただいた情報ですから」

 力強く、みいがうなずいた。

 確かに、忘れっぽい杏里ならまだしも、最新型AI搭載のみいが間違えるはずがない。

「だそうです」

 杏里が巨乳の胸を張ると、

「少々お待ちください」

 慌てた様子で、従業員が奥の部屋に引っ込んで行った。

「なんかやな感じ」

 憮然として杏里がつぶやいた時である。

 きゃあっ。

 ふいに奥の部屋のほうで、女性の悲鳴が上がった。

 間違いなく、さっきの従業員の声だ。

「何かしら?」

 首を伸ばして、カウンターの奥をのぞき込もうとした瞬間。

 杏里の視線をさえぎるようにして、長身のスーツ姿の男が現れた。
 
 真っ青な顔。

 骸骨のようにこけた頬。

 目だけがギョロッとしていて、不気味な形相だ。

「失礼いたしました」

 杏里とみいを不躾な視線でじろじろ眺めながら、妙に甲高い声で男が言った。

「笹原杏里さま。確かに紗彩さまから伺っております。お部屋は別館の4444号室ですね。ええ、別館なので、係の者が見落としておりまして」

 別館?

 4444号室?

 死死死死。

 死が4つも?

 なーんか、縁起悪そう。

 なんとなくそんな印象を受けた杏里だった。

 が、この時、杏里はまだ知らなかったのだ。

 己のその予感が、ど真ん中ストレートで当たっていることを。





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