90 / 475
第2話 レズふたり旅
#54 盛岡だよ!
しおりを挟む
東北新幹線で約3時間半。
盛岡駅は、予想以上に近代的で、旅行慣れしていない杏里はちょっとびっくりだった。
これじゃ、東京や大阪、名古屋とあんまり変わらないんじゃ?
そんな気がする。
地方都市の東京化が進んでいるというが、まさにそんな感じである。
が、さすが東北、と思ったのは、改札を出てすぐ、駅の中にいきなり野菜コーナーが現れた時だった。
時間が時間だけに野菜はあらかた売り切れてしまっているが、さすがにこの風景は東京駅にはなかった。
駅から出ると、そこは広いバスターミナルになっていて、ひっきりなしにバスが出たり入ったりしているところだった。
「えー、どっちに行けばいいのかなあ」
ホテルのパンフレットの地図を見ても、方向音痴の杏里には、そもそも方角がわからない。
が、みいはひと言もしゃべらず、相変らずそっぽを向いたままである。
あれ以来、ずっとそうだった。
杏里が目を覚ましたのに気づくと、そそくさとワンピをかぶり、何事もなかったように車窓にかじりついた。
そして、沈黙を保ったまま、今に至っているというわけだ。
肩にかけたポーチをごそごそやっていた杏里は、スマホがないことに気づいて顔色を変えた。
「あーあ、大変! スマホ忘れてきちゃった! これじゃ、ホテルの場所、わかんないよ。どうしよう」
スマホのマップを使えば、いくら私でも楽勝なのに。
そう思ったんだけど。
もう、ツイてない!」
「ねえ、みい、スマホ、持ってないかな」
たまりかねて、みいに声をかけみることにした。
ところが、杏里に背を向けて、みいはまだガン無視の体勢である。
しょうがないなあ。
ほんと、処女モードって、扱いにくい。
杏里は思い切って、明後日の方向を向いているみいの腕を、ぐいとつかんで引き寄せた。
「ちょっと、みいったら! さっきからまた、何ふくれてるのよ! せっかくの旅行なんだからさ、そんな不景気な顔しないでよ!」
「だ。だって…」
ぼそぼそとみいが言う。
「杏里さまったら、意地悪なんだから…」
「それって、さっき私がタヌキ寝入りしてたこと言ってるの?」
「え」
みいが杏里を振り向いた。
「やっぱり、起きてたんですか」
「しょうがないでしょ。みいが気持ちいいことしてくるから」
「あ、あれは…ちょっと魔が差したっていうか…。やだ、じゃあ、もしかして、全部、聞いてたんですか…? その、みいの、独り言…」
目がウルウルし始めている。
「うん、うれしかったよ。予想はしてたけど、よーくわかっちゃった」
「な、何がです?」
「私とみいが、両想いだってこと」
杏里は茶目っ気たっぷりにウインクしてみせた。
「それに、みいも、私と一緒に気持ちよくなりたがってるんだってことも」
「そ、それは…だ、だから」
わあ、赤くなった。
かっわいい!
可愛すぎるぞ。
この子ってば、ほんとに純情なんだから。
「そ、そのことはもう、忘れてください。ただの、みいの願望ですから…。わかってるんです。ペットが、そんなこと、考えちゃ、いけないってことぐらい…」
「なーに言ってんの!」
みいとふしだらの限りを尽くしたことのある杏里にとっては、噴飯ものの返事だった。
ったく、このAI、どの面下げてそんなこと言わせてるの。
「あのね、前にも言ったけど、私はみいをはじめっからペットだなんて思ってないよ」
「じゃ、みいは…杏里さまの、何なんです?」
不安げに目を瞬かせるみい。
「恋人に決まってるじゃない」
間髪を入れずに、杏里は言った。
「私たち、初夜を迎える前の恋人同士なんだって!」
#
盛岡駅は、予想以上に近代的で、旅行慣れしていない杏里はちょっとびっくりだった。
これじゃ、東京や大阪、名古屋とあんまり変わらないんじゃ?
そんな気がする。
地方都市の東京化が進んでいるというが、まさにそんな感じである。
が、さすが東北、と思ったのは、改札を出てすぐ、駅の中にいきなり野菜コーナーが現れた時だった。
時間が時間だけに野菜はあらかた売り切れてしまっているが、さすがにこの風景は東京駅にはなかった。
駅から出ると、そこは広いバスターミナルになっていて、ひっきりなしにバスが出たり入ったりしているところだった。
「えー、どっちに行けばいいのかなあ」
ホテルのパンフレットの地図を見ても、方向音痴の杏里には、そもそも方角がわからない。
が、みいはひと言もしゃべらず、相変らずそっぽを向いたままである。
あれ以来、ずっとそうだった。
杏里が目を覚ましたのに気づくと、そそくさとワンピをかぶり、何事もなかったように車窓にかじりついた。
そして、沈黙を保ったまま、今に至っているというわけだ。
肩にかけたポーチをごそごそやっていた杏里は、スマホがないことに気づいて顔色を変えた。
「あーあ、大変! スマホ忘れてきちゃった! これじゃ、ホテルの場所、わかんないよ。どうしよう」
スマホのマップを使えば、いくら私でも楽勝なのに。
そう思ったんだけど。
もう、ツイてない!」
「ねえ、みい、スマホ、持ってないかな」
たまりかねて、みいに声をかけみることにした。
ところが、杏里に背を向けて、みいはまだガン無視の体勢である。
しょうがないなあ。
ほんと、処女モードって、扱いにくい。
杏里は思い切って、明後日の方向を向いているみいの腕を、ぐいとつかんで引き寄せた。
「ちょっと、みいったら! さっきからまた、何ふくれてるのよ! せっかくの旅行なんだからさ、そんな不景気な顔しないでよ!」
「だ。だって…」
ぼそぼそとみいが言う。
「杏里さまったら、意地悪なんだから…」
「それって、さっき私がタヌキ寝入りしてたこと言ってるの?」
「え」
みいが杏里を振り向いた。
「やっぱり、起きてたんですか」
「しょうがないでしょ。みいが気持ちいいことしてくるから」
「あ、あれは…ちょっと魔が差したっていうか…。やだ、じゃあ、もしかして、全部、聞いてたんですか…? その、みいの、独り言…」
目がウルウルし始めている。
「うん、うれしかったよ。予想はしてたけど、よーくわかっちゃった」
「な、何がです?」
「私とみいが、両想いだってこと」
杏里は茶目っ気たっぷりにウインクしてみせた。
「それに、みいも、私と一緒に気持ちよくなりたがってるんだってことも」
「そ、それは…だ、だから」
わあ、赤くなった。
かっわいい!
可愛すぎるぞ。
この子ってば、ほんとに純情なんだから。
「そ、そのことはもう、忘れてください。ただの、みいの願望ですから…。わかってるんです。ペットが、そんなこと、考えちゃ、いけないってことぐらい…」
「なーに言ってんの!」
みいとふしだらの限りを尽くしたことのある杏里にとっては、噴飯ものの返事だった。
ったく、このAI、どの面下げてそんなこと言わせてるの。
「あのね、前にも言ったけど、私はみいをはじめっからペットだなんて思ってないよ」
「じゃ、みいは…杏里さまの、何なんです?」
不安げに目を瞬かせるみい。
「恋人に決まってるじゃない」
間髪を入れずに、杏里は言った。
「私たち、初夜を迎える前の恋人同士なんだって!」
#
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
70
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる