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第2話 レズふたり旅

#36 エッチな新幹線

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 伊豆下田から、バスで三島へ。

 三島駅から、東海道新幹線で東京まで。

 東京駅で、東北新幹線に乗り換えて、盛岡まで。

 それが、きょうの予定である。

 目的地は平泉。

 そこで中尊寺金色堂などを見て回り、更に遠野へ。

 それが、みいと杏里が立てた旅の概要だった。

 もっとも、観光にはまるきり興味のない杏里の出した条件は、ただ『秘境の温泉』だけである。

 あとは、みいが飼い主の紗彩と相談してルートを決めたのだ。

 セレブの紗彩は日本各地の旅館やホテルに顔が効くらしく、宿の心配はなかった。

 伊豆のコテージの次は、盛岡の高級ホテル、遠野では古式ゆかしい山荘まですでに予約してあるらしい。

 無精者の杏里にとっては、まさに願ってもない旅である。



 朝早いというのにバスは混んでいて、挑発的な格好をした杏里はさっそく痴漢たちに取り囲まれた。

 いつもならどちらかが果てるまでむつみ合うところなのだが、きょうは少し勝手が違った。

「やめてください。杏里さまに触らないで!」

 伸びてくる手を、ことごとくみいが払いのけてしまうのである。

 ああ、みい。

 少しなら、いいんだよ。

 ううん、むしろ、眠気覚ましに触ってほしいぐらい。

 恨めしく思った杏里だったが、さすがに口に出すのは遠慮した。

 困ったのは、新幹線である。

 発射ぎりぎりに飛び込むと、自由席はほぼ埋まっていて、かろうじて一人分の座席が見つかっただけだった。

 白髪の老婆の隣である。

 頭をお団子にした、小柄でかわいらしい感じの老女だ。

「杏里さま、どうぞお座りください」

 ペットとしての職務に忠実に、みいが言った。

「みいこそ座りなよ」

 杏里はかぶりを振った。

 せっかく乗客たちの視線がこっちに集まり出しているのだ。

 ここで座るなんてもったいない。

 そう思ったのである。

 痴漢に遭い損ねたなら、せめて覗き魔たちの熱い視線を楽しまないと。

 という魂胆なのだ。

「だめです。そんなこと、できません。ペットがご主人様をさしおいて、先に座るだなんて」

 譲り合う二人を、不思議そうに老婆が見上げている。

「固いこと言いっこなし。あ、それならこうしよっか」

 杏里の顔が輝いた。

 いいことを思いついたのだ。

「こうするって、どうするんです?」

 小首をかしげるみい。

「ひとつの席にふたりで座るの」

「え?」

 みいのつぶらな瞳が丸くなる。

「私のほうが重いから、私が下になるね。みいは私の膝の上に座ればいいのよ」 

「そ、そんな…」

「さ、ぐずぐず行ってないで。もうすぐ発車だよ」

 老婆の横に発達した尻をめり込ませて、杏里は両手を広げた。

「さあ、おいで。お姉さんが、だっこして、あ、げ、る」

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