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第2話 レズふたり旅
#13 みいの乱心
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「わあ。すごい」
洞窟の入口にたどり着き、中を覗き込んだ杏里は思わずそう声を上げていた。
目の前に不思議な光景が広がっていた。
ある意味、幻想的と言い換えてもいい。
指のように組み合わさった奇岩が、アーチを形作っている。
その向こうはドーム状の空間だ。
岩の中なのにちっとも暗くないのは、岩と岩の隙間から外界の光が差し込んでいるせいだ。
床は一枚岩の続きで、つるつるしてまるでリノリウムでできているかのよう。
そのところどころに、椅子みたいな形をした岩がいくつも盛り上がっていて、休憩所としてもちょうどいい。
奥のほうにはベッドの形をした岩まである。
偶然とはいえ、至れり尽くせりとはこのことだ。
「さあ、ペットごっこの始まりですよ」
その椅子型の岩のひとつに腰かけると、突っ立ったままの杏里を見上げて、みいが言った。
「ペットごっこって、私は何すればいいの?」
小首をかしげて杏里がたずねると、
「まず、これからはみいのことを、”ご主人様”と呼ぶのです」
どことなく居丈高な口調で、みいが答えた。
なにそのしゃべり方。
みいったら、なかなか芸が細かいじゃん。
吹き出しそうになるのをこらえ、杏里は調子を合わせることにした。
「はいはい、わかりましたよ、ご主人さま」
そのとたんである。
ドスッ。
鈍い痛みを感じて、
「ううっ」
杏里は鳩尾を抱え、身体をくの字に折った。
みいの右足が目にも止まらぬ速さで伸び、そのつま先が杏里の下腹を一撃したのだ。
「”はい”は1回でいいって、いつも言ってるでしょ!」
みいが低い声で言った。
まなじりを吊り上げ、杏里をじっとにらんでいる。
「ちょ、ちょっと!」
痛みに顔をしかめ、杏里は抗議した。
「いきなり何するのよ!」
いくら『ごっこ』でも、こんなのってない。
が。
みいは本気みたいだった。
「ペットは口答えしない!」
すかさずみいの平手が飛んできた。
頬をぶたれ、唖然とする杏里。
この子…どうしちゃったんだろう?
さっきまでのみいと、ぜんぜん違う。
これじゃ、まるでドSの女王様じゃない…。
ぽかんと口を開け、途方に暮れていると、脚を組み直して、みいが言った。
「それじゃ、まず、あたしの身体をきれいにしてもらおうかしら。海水でずいぶん汚れちゃって、全身べとついて気持ち悪くてならないの」
「きれいにするって、どうやって?」
おずおずと杏里は口をはさんだ。
「ここ、タオルも水道もないよ?」
「あなたのお口で、に決まってるでしょう」
みいが呆れたように言い放つ。
「ペットのくせに、そんなこともわからないの?」
「私の、口で?」
おうむ返しに繰り返す杏里。
あ。
そういうこと?
閃いた。
「つまり、舐めればいいわけね?」
そうならそうって、早く言ってくれればいいのに。
自然に笑みがこぼれてきた。
みいったら、私にペロペロしてほしくなったんだ。
なのに、直接頼むのが恥ずかしいからって、わざわざこんなお芝居までして。
「いいわよ」
杏里は床から腰を上げた。
「思う存分、ペロペロしてあげる」
みいに近寄ると、その小さな顔を両手ではさんで、おもむろに唇を近づけた。
「ばか」
瞬間、また頬をはたかれた。
「いったあい」
左頬を押さえて後じさった杏里に向かって、みいが怒りをぶつけてきた。
「誰が顔を舐めろなんて言ったの? ペットのくせに、なんてずうずうしい! まずは足。足からに決まってるでしょ? 足の指一本一本から、心を込めて丁寧に舐めるの。ほら」
ぷにゅ。
投げ出された右足が、杏里のふくらんだ胸を水着の上から突いた。
「あう」
みいの足を抱えて尻もちをつく杏里。
足の指を目と鼻の先に突きつけられ、杏里は思った。
なんか、やばくない?
これ、演技じゃないみたい。
みいったら、マジでおかしくなっちゃってる…。
岩盤はかなり厚いらしく、雨の音も潮騒もほとんど聞こえてこない。
まるで異世界に迷い込んだかのような静寂の中、みいの立てるかすかな呼吸音だけが耳に届いてくる。
「どうしたの? 舐めるの? 舐めないの?」
ためらっていると、厳かな声音で、みいが言った。
有無を言わせぬ口調だった。
「は、はい」
その迫力に呑まれ、杏里は反射的にうなずいていた。
こうなったら、とことんつきあってあげるとするか。
どうせ、旅の恥はかき捨て、なんだからさ。
覚悟を込めると、芝居がかった声で、杏里は答えた。
「この杏里、心を込めてお舐めします。どうぞおくつろぎくださいませ。ご主人様」
洞窟の入口にたどり着き、中を覗き込んだ杏里は思わずそう声を上げていた。
目の前に不思議な光景が広がっていた。
ある意味、幻想的と言い換えてもいい。
指のように組み合わさった奇岩が、アーチを形作っている。
その向こうはドーム状の空間だ。
岩の中なのにちっとも暗くないのは、岩と岩の隙間から外界の光が差し込んでいるせいだ。
床は一枚岩の続きで、つるつるしてまるでリノリウムでできているかのよう。
そのところどころに、椅子みたいな形をした岩がいくつも盛り上がっていて、休憩所としてもちょうどいい。
奥のほうにはベッドの形をした岩まである。
偶然とはいえ、至れり尽くせりとはこのことだ。
「さあ、ペットごっこの始まりですよ」
その椅子型の岩のひとつに腰かけると、突っ立ったままの杏里を見上げて、みいが言った。
「ペットごっこって、私は何すればいいの?」
小首をかしげて杏里がたずねると、
「まず、これからはみいのことを、”ご主人様”と呼ぶのです」
どことなく居丈高な口調で、みいが答えた。
なにそのしゃべり方。
みいったら、なかなか芸が細かいじゃん。
吹き出しそうになるのをこらえ、杏里は調子を合わせることにした。
「はいはい、わかりましたよ、ご主人さま」
そのとたんである。
ドスッ。
鈍い痛みを感じて、
「ううっ」
杏里は鳩尾を抱え、身体をくの字に折った。
みいの右足が目にも止まらぬ速さで伸び、そのつま先が杏里の下腹を一撃したのだ。
「”はい”は1回でいいって、いつも言ってるでしょ!」
みいが低い声で言った。
まなじりを吊り上げ、杏里をじっとにらんでいる。
「ちょ、ちょっと!」
痛みに顔をしかめ、杏里は抗議した。
「いきなり何するのよ!」
いくら『ごっこ』でも、こんなのってない。
が。
みいは本気みたいだった。
「ペットは口答えしない!」
すかさずみいの平手が飛んできた。
頬をぶたれ、唖然とする杏里。
この子…どうしちゃったんだろう?
さっきまでのみいと、ぜんぜん違う。
これじゃ、まるでドSの女王様じゃない…。
ぽかんと口を開け、途方に暮れていると、脚を組み直して、みいが言った。
「それじゃ、まず、あたしの身体をきれいにしてもらおうかしら。海水でずいぶん汚れちゃって、全身べとついて気持ち悪くてならないの」
「きれいにするって、どうやって?」
おずおずと杏里は口をはさんだ。
「ここ、タオルも水道もないよ?」
「あなたのお口で、に決まってるでしょう」
みいが呆れたように言い放つ。
「ペットのくせに、そんなこともわからないの?」
「私の、口で?」
おうむ返しに繰り返す杏里。
あ。
そういうこと?
閃いた。
「つまり、舐めればいいわけね?」
そうならそうって、早く言ってくれればいいのに。
自然に笑みがこぼれてきた。
みいったら、私にペロペロしてほしくなったんだ。
なのに、直接頼むのが恥ずかしいからって、わざわざこんなお芝居までして。
「いいわよ」
杏里は床から腰を上げた。
「思う存分、ペロペロしてあげる」
みいに近寄ると、その小さな顔を両手ではさんで、おもむろに唇を近づけた。
「ばか」
瞬間、また頬をはたかれた。
「いったあい」
左頬を押さえて後じさった杏里に向かって、みいが怒りをぶつけてきた。
「誰が顔を舐めろなんて言ったの? ペットのくせに、なんてずうずうしい! まずは足。足からに決まってるでしょ? 足の指一本一本から、心を込めて丁寧に舐めるの。ほら」
ぷにゅ。
投げ出された右足が、杏里のふくらんだ胸を水着の上から突いた。
「あう」
みいの足を抱えて尻もちをつく杏里。
足の指を目と鼻の先に突きつけられ、杏里は思った。
なんか、やばくない?
これ、演技じゃないみたい。
みいったら、マジでおかしくなっちゃってる…。
岩盤はかなり厚いらしく、雨の音も潮騒もほとんど聞こえてこない。
まるで異世界に迷い込んだかのような静寂の中、みいの立てるかすかな呼吸音だけが耳に届いてくる。
「どうしたの? 舐めるの? 舐めないの?」
ためらっていると、厳かな声音で、みいが言った。
有無を言わせぬ口調だった。
「は、はい」
その迫力に呑まれ、杏里は反射的にうなずいていた。
こうなったら、とことんつきあってあげるとするか。
どうせ、旅の恥はかき捨て、なんだからさ。
覚悟を込めると、芝居がかった声で、杏里は答えた。
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