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第2話 レズふたり旅

#12 勝負の行方

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 夏の天気は変わりやすいというが、いくらなんでもいき過ぎでは?

 突然黒雲に覆われ始めた空を見上げながら、杏里は思った。

 となりではみいが必死で水をかいでいる。

 その泳ぎ方は、どう見ても犬かきである。

 ふたつのエアバックに乗って優雅に浮かんでいる杏里に比べると、非効率このうえない。

「わ」

 水平線の彼方にシャーッと雨のベールが降り始めたと思ったら、あっという間に杏里もしのつく雨の中だった。

立て続けに空を稲光が切り裂き、思いもよらぬほど近くで雷鳴が轟いた。

「あーん、怖いですぅ!」

 悲鳴を上げるみい。

 いつの間にか風が立ち、波が荒くなっている。

 犬かきのみいは、ともすればその波のまにまに消えてしまいそうだ。

「しっかりして!」

 杏里は方向を変えると、みいのほうに近づいた。

「もう少しだから! ほら、洞窟の入口が見えてきたでしょ?」

「も、もう、だめです」

 みいはすでに半ば沈みかけている。

 みいの頭の中はちゃんと防水になっているのだろうか。

 杏里は少し心配になった。

 さしものAIも、耳から水が入って濡れたりしたらまずいのではないか。

 ふとそう思ったのだ。

「みい、私につかまって!」

 みいの前に出ると、背中を見せて杏里は言った。

 もう競争どころではなかった。

 車軸を流すような雨とは、このことをいうのだろう。

 高まる波と弾ける水滴、そして大粒の雨のせいで、視界がまったく利かなくなってしまっている。

「杏里さまあ」

 みいが後ろから首筋にしがみついてきた。

 が、杏里は沈まない。

 爆乳が格好のウキになっているからである。

 水をかく腕と足に力を入れた。

 雨のベールの間から黒いものが見えた。

 岩場だ。

 あと20メートル。

 ほんと、もう少しの辛抱だ。

 足の指が硬いものに触れる。

 いいぞ。

 立てる。

 もう大丈夫。

 そう判断して目の前の岩に手を伸ばした時である。

 杏里の背中を駆け上がり、軽々とジャンプして、みいが先に着地した。

 平らなテーブルのような一枚岩の上である。

 その背後に、ぽっかりと黒い穴が口を開いている。

 みいが手を伸ばしてきた。

 つかまると、びしょ濡れの顔でにこっと笑った。

「みいの勝ちですよ。先にゴールしましたから」

「ずるーい!」

 杏里は頬をふくらませた。

「でも、約束は約束です。ここでは、杏里さまがみいのペットになるのです」

「私が、ペット?」

 杏里は目を瞬いた。

「そうです。負けたほうが、勝ったほうのいうことを聞く。そういう約束でしたよね?」

「それは、そうだけど…」

「じゃ、決まりですね」

 みいがウフフと声を立てて笑った。

 私がペットかあ。

 みいと肩を並べて洞窟のほうに歩きながら、杏里は思った。

 まあ、それも面白いかも。




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