33 / 475
第1話 美少女ペットみい
#33 ペットとさよなら
しおりを挟む
思わぬハードな展開に、杏里はいつの間にか気を失ったようだった。
気がつくと、戒めを解かれ、乾いた布団の上に仰向けに寝かせられていた。
「ごめんなさいね。つい本気になってしまって」
気づかわし気なまなざしで杏里を見て、済まなさそうに紗彩が言った。
いつのまにやら、ここへやってきた時と同じ、正装に着替えている。
「あ、いえ」
杏里は身を起こした。
なんだか、妙にすっきりした気分だった。
ストレスが一気に解消されてしまったかのように、頭も体も軽くなっている。
正座した紗彩の隣には、少女が座っていた。
赤い首輪にはリードがつけられ、その端を紗彩が膝の上で握っている。
「お帰りになるんですか?」
どきりとして、杏里はたずねた。
少女の首輪につけられたリードの意味は、聞かずとももう明らかだった。
紗彩は彼女を連れ帰ろうとしているのだ。
「ええ。色々とお世話になりました。みいもこんなによくしてもらったのは初めてだって、すごく喜んでいますのよ。本当に、ありがとうございました」
丁寧に頭を下げると、
「さ、みいもご挨拶しなさい」
紗彩が隣のみいの後頭部を手で押さえた。
「杏里さま、短い間でしたが、とっても楽しかったです」
ぺこりとお辞儀をして、みいが言った。
相変わらずの全裸である。
この若いイルカみたいな体がもう見られなくなると思うと、杏里は胸を締めつけられるような痛みを覚えた。
「そうだよね、みいは、もともと、紗彩さんのペットだもんね」
自分に言い聞かせるようにつぶやくと、目頭がじんわりと熱くなってきた。
「はい。でも、みいは、杏里さまのこと、一生忘れません」
杏里の涙に気づいたのか、少女が真剣な表情で言った。
気のせいか、少女のつぶらな瞳も微妙に潤んでいるように見える。
紗彩の話によると、みいの頭脳は人工知能のはずである。
なのに、声も表情も、まるでふつうの人間の少女と変わらない。
「ありがとう…」
杏里は泣き笑いの表情になった。
「私もだよ。みいと一緒の2日間、とっても楽しかった」
「…杏里さま」
少女が更に何か言いかけた時、
「さ、行きましょ」
紗彩がさっと立ちあがった。
「あの人が返ってくる前に、おうちの中、お掃除しなきゃね。では、杏里ちゃん、ごきげんよう。お礼には、また改めてうかがいますね」
そんな…。
突然すぎる。
「あ、あの…」
杏里は口を開きかけた。
言いたいことは山ほどある。
なのに、何を言ったらいいのか。
喉につっかえたようにひっかかって、言葉が口から出てこない。
やがて、玄関の戸が閉まる音がした。
「みい…」
杏里は布団の上に両手を突いて、うなだれた。
熱い涙がこぼれ落ち、見る間に布団に染みをつくっていく。
「好きだって、言ってくれたのに」
がらんとした家の中に、杏里の声だけがこだました。
「私もみいのこと、大好きだったのに…」
そして…。
甘やかな夏の別れに、杏里はいつまでも声を出さずに泣き続けたのだった。
気がつくと、戒めを解かれ、乾いた布団の上に仰向けに寝かせられていた。
「ごめんなさいね。つい本気になってしまって」
気づかわし気なまなざしで杏里を見て、済まなさそうに紗彩が言った。
いつのまにやら、ここへやってきた時と同じ、正装に着替えている。
「あ、いえ」
杏里は身を起こした。
なんだか、妙にすっきりした気分だった。
ストレスが一気に解消されてしまったかのように、頭も体も軽くなっている。
正座した紗彩の隣には、少女が座っていた。
赤い首輪にはリードがつけられ、その端を紗彩が膝の上で握っている。
「お帰りになるんですか?」
どきりとして、杏里はたずねた。
少女の首輪につけられたリードの意味は、聞かずとももう明らかだった。
紗彩は彼女を連れ帰ろうとしているのだ。
「ええ。色々とお世話になりました。みいもこんなによくしてもらったのは初めてだって、すごく喜んでいますのよ。本当に、ありがとうございました」
丁寧に頭を下げると、
「さ、みいもご挨拶しなさい」
紗彩が隣のみいの後頭部を手で押さえた。
「杏里さま、短い間でしたが、とっても楽しかったです」
ぺこりとお辞儀をして、みいが言った。
相変わらずの全裸である。
この若いイルカみたいな体がもう見られなくなると思うと、杏里は胸を締めつけられるような痛みを覚えた。
「そうだよね、みいは、もともと、紗彩さんのペットだもんね」
自分に言い聞かせるようにつぶやくと、目頭がじんわりと熱くなってきた。
「はい。でも、みいは、杏里さまのこと、一生忘れません」
杏里の涙に気づいたのか、少女が真剣な表情で言った。
気のせいか、少女のつぶらな瞳も微妙に潤んでいるように見える。
紗彩の話によると、みいの頭脳は人工知能のはずである。
なのに、声も表情も、まるでふつうの人間の少女と変わらない。
「ありがとう…」
杏里は泣き笑いの表情になった。
「私もだよ。みいと一緒の2日間、とっても楽しかった」
「…杏里さま」
少女が更に何か言いかけた時、
「さ、行きましょ」
紗彩がさっと立ちあがった。
「あの人が返ってくる前に、おうちの中、お掃除しなきゃね。では、杏里ちゃん、ごきげんよう。お礼には、また改めてうかがいますね」
そんな…。
突然すぎる。
「あ、あの…」
杏里は口を開きかけた。
言いたいことは山ほどある。
なのに、何を言ったらいいのか。
喉につっかえたようにひっかかって、言葉が口から出てこない。
やがて、玄関の戸が閉まる音がした。
「みい…」
杏里は布団の上に両手を突いて、うなだれた。
熱い涙がこぼれ落ち、見る間に布団に染みをつくっていく。
「好きだって、言ってくれたのに」
がらんとした家の中に、杏里の声だけがこだました。
「私もみいのこと、大好きだったのに…」
そして…。
甘やかな夏の別れに、杏里はいつまでも声を出さずに泣き続けたのだった。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説





百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる