そんなお口で舐められたら💛

戸影絵麻

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第1話 美少女ペットみい

#33 ペットとさよなら

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 思わぬハードな展開に、杏里はいつの間にか気を失ったようだった。

 気がつくと、戒めを解かれ、乾いた布団の上に仰向けに寝かせられていた。

「ごめんなさいね。つい本気になってしまって」

 気づかわし気なまなざしで杏里を見て、済まなさそうに紗彩が言った。

 いつのまにやら、ここへやってきた時と同じ、正装に着替えている。

「あ、いえ」

 杏里は身を起こした。

 なんだか、妙にすっきりした気分だった。

 ストレスが一気に解消されてしまったかのように、頭も体も軽くなっている。

 正座した紗彩の隣には、少女が座っていた。

 赤い首輪にはリードがつけられ、その端を紗彩が膝の上で握っている。

「お帰りになるんですか?」

 どきりとして、杏里はたずねた。

 少女の首輪につけられたリードの意味は、聞かずとももう明らかだった。

 紗彩は彼女を連れ帰ろうとしているのだ。

「ええ。色々とお世話になりました。みいもこんなによくしてもらったのは初めてだって、すごく喜んでいますのよ。本当に、ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げると、

「さ、みいもご挨拶しなさい」

 紗彩が隣のみいの後頭部を手で押さえた。

「杏里さま、短い間でしたが、とっても楽しかったです」

 ぺこりとお辞儀をして、みいが言った。

 相変わらずの全裸である。

 この若いイルカみたいな体がもう見られなくなると思うと、杏里は胸を締めつけられるような痛みを覚えた。

「そうだよね、みいは、もともと、紗彩さんのペットだもんね」

 自分に言い聞かせるようにつぶやくと、目頭がじんわりと熱くなってきた。

「はい。でも、みいは、杏里さまのこと、一生忘れません」

 杏里の涙に気づいたのか、少女が真剣な表情で言った。

 気のせいか、少女のつぶらな瞳も微妙に潤んでいるように見える。

  紗彩の話によると、みいの頭脳は人工知能のはずである。

 なのに、声も表情も、まるでふつうの人間の少女と変わらない。

「ありがとう…」

 杏里は泣き笑いの表情になった。

「私もだよ。みいと一緒の2日間、とっても楽しかった」

「…杏里さま」

 少女が更に何か言いかけた時、

「さ、行きましょ」

 紗彩がさっと立ちあがった。

「あの人が返ってくる前に、おうちの中、お掃除しなきゃね。では、杏里ちゃん、ごきげんよう。お礼には、また改めてうかがいますね」

 そんな…。

 突然すぎる。

「あ、あの…」

 杏里は口を開きかけた。

 言いたいことは山ほどある。

 なのに、何を言ったらいいのか。

 喉につっかえたようにひっかかって、言葉が口から出てこない。

 やがて、玄関の戸が閉まる音がした。

「みい…」

 杏里は布団の上に両手を突いて、うなだれた。

 熱い涙がこぼれ落ち、見る間に布団に染みをつくっていく。

「好きだって、言ってくれたのに」

 がらんとした家の中に、杏里の声だけがこだました。

「私もみいのこと、大好きだったのに…」

 そして…。

 甘やかな夏の別れに、杏里はいつまでも声を出さずに泣き続けたのだった。





 

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