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#85 天気輪の柱①
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目が覚めると、私は図書館のホールに倒れていて、傍らに心配顔のソロがひざまずいていた。
「あれ? ここは?」
きょろきょろ周囲を見回すと、呆れたような口調でソロが言った。
「ここは? じゃないよ。いつまで経っても出てこないから、意を決して中に入ってみたらこのザマだ」
今までのアレは、夢だったのだろうか?
宮沢賢治と魔王の話。
死んだ賢治の妹トシと、私の類似点・・・。
が、私はすぐに、あれが現実だったことに気づいた。
右手に持っているこれは、本・・・?
私はぺらぺらと文庫本のページをめくってみた。
生きた革のようなブックカバーに覆われたそれは、間違いなく日本語で書かれた『銀河鉄道の夜』である。
そして、あれが現実だったとすると、このブックカバーこそが、本の中身を現実化する魔法のアイテムということになるー。
「ダーク=トルストイはどうなったんだよ? クリス、君が外におびき出すんじゃなかったのか?」
「会えたことは会えたんだけど…」
私は床に足を投げ出したまま、ゆるゆると首を横に振った。
「どうやら、逃げられちゃったみたい」
「逃げられた?」
ソロが両手で髪をつかんで天を仰いだ。
「どうすんだよ? それじゃ、君はまた奴隷に逆戻りだぞ? それこそ王やアグネスの思うツボじゃないか」
「もう、そんなことはどうでもいいの」
私はキッとソロの能天気な顔を見上げ、強い口調で言った。
「魔王の正体がわかったの。それと、彼と戦う方法が」
「ま、マジかよ、それ」
ソロのつぶらな瞳が点になる。
「だからソロ、お願い。なんとかここから私を連れ出して。私には行かなきゃならない所がある。こんなとこで衛兵たちに捕まるわけにはいかないの」
「行かなきゃならないって、どこへ?」
「おそらくそれは、”天気輪の柱”と呼ばれてるはず。このロンバルディアに遍在する、銀河鉄道のステーション」
「銀河鉄道?」
「聞いたことない? 夜な夜な空を駆け巡る、不思議な列車の話」
「ああ、あれか、あの都市伝説だろ? 死者を乗せた列車が空を飛んでるのを見ると、見た者は必ず死ぬっていう・・・。だけどあれは、しょせん王立アカデミーの女学生たちの間のうわさ話なんじゃ?」
「それが、そうとも言い切れないらしいの。とにかく、私は天気輪の柱へ行き、銀河鉄道に乗る。それしか、世界を救う道はなさそうだから」
妹のトシへの思いが賢治を魔王に変えたとすると、その絶望はあまりに深い。
なぜって、死んだトシは絶対に生き返らないからだ。
トシが生き返らない限り、賢治は世界を破壊し続けることだろう。
自分を見舞ったのと同じ理不尽極まりない不幸を、絶望を、生きとし生けるものすべてに味わわせるためにー。
そして、私はそれを止めねばならないのだ。
同じ日本で生まれた同胞として。
同胞が異世界を破滅させるのを、黙って見過ごすわけにはいかない。
それが私の敬愛する作家、宮沢賢治だとするなら、なおのこと・・・。
私は、彼を、いつまでも破滅の魔王にしておくわけにはいかないのだ。
「わかったよ」
私の真剣な表情に、ようやくソロがうなずいた。
「俺はクリス、君を信じる。よし、ついてこい。俺に考えがある」
「あれ? ここは?」
きょろきょろ周囲を見回すと、呆れたような口調でソロが言った。
「ここは? じゃないよ。いつまで経っても出てこないから、意を決して中に入ってみたらこのザマだ」
今までのアレは、夢だったのだろうか?
宮沢賢治と魔王の話。
死んだ賢治の妹トシと、私の類似点・・・。
が、私はすぐに、あれが現実だったことに気づいた。
右手に持っているこれは、本・・・?
私はぺらぺらと文庫本のページをめくってみた。
生きた革のようなブックカバーに覆われたそれは、間違いなく日本語で書かれた『銀河鉄道の夜』である。
そして、あれが現実だったとすると、このブックカバーこそが、本の中身を現実化する魔法のアイテムということになるー。
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「会えたことは会えたんだけど…」
私は床に足を投げ出したまま、ゆるゆると首を横に振った。
「どうやら、逃げられちゃったみたい」
「逃げられた?」
ソロが両手で髪をつかんで天を仰いだ。
「どうすんだよ? それじゃ、君はまた奴隷に逆戻りだぞ? それこそ王やアグネスの思うツボじゃないか」
「もう、そんなことはどうでもいいの」
私はキッとソロの能天気な顔を見上げ、強い口調で言った。
「魔王の正体がわかったの。それと、彼と戦う方法が」
「ま、マジかよ、それ」
ソロのつぶらな瞳が点になる。
「だからソロ、お願い。なんとかここから私を連れ出して。私には行かなきゃならない所がある。こんなとこで衛兵たちに捕まるわけにはいかないの」
「行かなきゃならないって、どこへ?」
「おそらくそれは、”天気輪の柱”と呼ばれてるはず。このロンバルディアに遍在する、銀河鉄道のステーション」
「銀河鉄道?」
「聞いたことない? 夜な夜な空を駆け巡る、不思議な列車の話」
「ああ、あれか、あの都市伝説だろ? 死者を乗せた列車が空を飛んでるのを見ると、見た者は必ず死ぬっていう・・・。だけどあれは、しょせん王立アカデミーの女学生たちの間のうわさ話なんじゃ?」
「それが、そうとも言い切れないらしいの。とにかく、私は天気輪の柱へ行き、銀河鉄道に乗る。それしか、世界を救う道はなさそうだから」
妹のトシへの思いが賢治を魔王に変えたとすると、その絶望はあまりに深い。
なぜって、死んだトシは絶対に生き返らないからだ。
トシが生き返らない限り、賢治は世界を破壊し続けることだろう。
自分を見舞ったのと同じ理不尽極まりない不幸を、絶望を、生きとし生けるものすべてに味わわせるためにー。
そして、私はそれを止めねばならないのだ。
同じ日本で生まれた同胞として。
同胞が異世界を破滅させるのを、黙って見過ごすわけにはいかない。
それが私の敬愛する作家、宮沢賢治だとするなら、なおのこと・・・。
私は、彼を、いつまでも破滅の魔王にしておくわけにはいかないのだ。
「わかったよ」
私の真剣な表情に、ようやくソロがうなずいた。
「俺はクリス、君を信じる。よし、ついてこい。俺に考えがある」
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